54.西大陸統一作戦! パレリアの大臣 前篇

 出発時刻の午前1時。ラスティーはキャメロンとウォルター、そしてエレンを連れてガムガン砦を出発した。目指すはパレリア城。

 雷の賢者、エミリーは一足先に城へと向かい、話し合いが円滑に進むよう、大臣に口添えをしに向かっていた。

「あの、ラスティーさん」馬を奔らせながら、ラスティーと並走しながら問うエレン。

「なんだ?」

「今回の策なのですが……私の役目は何なのでしょう? 何も聞かされていないので……今の内に把握しておきたいのですが」

 すると、ラスティーはキャメロンとウォルターから見えない角度で彼女に顔を向け、弱った様な眼差しを向けた。

「いや、特に何かをやってもらうって訳じゃないが……ただ、『必要』なんだ」

「あ、はい。わかりました~」何かを察したのか、エレンはにこやかに馬の速度を落とし、彼の背後へと回った。

 しばらく無言で走らせる4人。

 すると、通りすがりか、はたまた待ち伏せていたのか盗賊らしき軍団が宵闇から現れる。騎馬が4人、その他大勢は群狼の様に、ラスティー達目掛けて襲い掛かる。

「ちっ……急いでいる時に……」ラスティーはボウガンを片手に舌打ちを鳴らす。


「任せて」


 キャメロンは待っていたと言わんばかりに鞍を蹴り、炎の翼で跳び上がる。盗賊の殆どが彼女の方を見上げ、「おぉっ!」と、声を上げる。

 彼女は容赦なく翼を振るい、炎の羽根を矢の様に飛ばし、盗賊共の額や身体を次々と貫く。その威力は、鉄の胸当てを軽々と貫くほどであった。

 そんな中、打ち漏らした数人がエレン目掛けて飛びかかる。彼女は腕に水魔法を纏い、相手の手首を斬り落そうと身構えた。これが彼女の唯一の自衛手段であったが、心伴い非力な技だった。

 だが、彼女が振るう前に、ウォルターが一瞬で下馬し、高速で馬と並走して盗賊に襲い掛かり、次々と彼らの関節を躊躇なくへし折っていく。

 あっという間に、どこぞの盗賊団は全滅し、屍を超えてラスティー達は脚を止めることなく馬を奔らせた。

「ありがとうございます、ウォルターさん!」

「例などいりません」

「……頼もしいな……流石だ」ラスティーは口笛を吹き、手に取ったボウガンを鞍に仕舞う。

「いつでもどうぞ」炎の翼を消し、馬に着地し、得意げな表情を覗かせるキャメロン。

 彼らはそのまま止まることなく、パレリア城へと向かった。



 その日の朝、ガムガン砦にはいつも通りの平和な朝が訪れていた。未だに、この砦は籠城中という事にはなっているが、バルカニアやボルコニアが攻めてくる様子はなかった。

 今回の西大陸会議の結果により、このまま籠城か終戦かが決まるので、それまで気の抜けない状況であった。

 しかし、今の所は平和であった。

「お前は一緒に行かなかったのか? 行きたそうな顔をしていたのに……」朝食を摂り終えたライリーが煙草交じりにダニエルに問う。

「……キャメロンが残れってさ。この砦で何が起こるかわからないからってさ。精々歯止めになれ、ってよ……ま、俺も同感だ」この砦は死地を乗り越えはしたが、感情に流されやすい騎士団長ジャムスが、また何を言い出すかわからない為、砦内は落ち着いてはいなかった。

「ローレンスもごねていたなぁ~ 『キャメロンさんのお傍を離れません!』とか言ってよぉ……きもちわるい」と、キャメロン達が走り去った方角の方をじっと眺めるローレンスを見て、ライリーがため息を吐いた。

「ま、俺たちの役目は、この砦が暴走して、勝手にあの怒髪天隊長さんがバルカニアの大地へ進軍しない様にするって事だな」ダニエルがあえて口にすると、周囲のパレリア軍兵士たちが深々と頷いた。

「だよな~ 誰も戦争したくないって……」ライリーは煙をうんざりした様に吐き、煙草を揉み潰した。



「ロザリアさん! 始めまして、コルミ・ピップンズと申します!」腕相撲の準備をしていた彼女に歩み寄るコルミ。

 彼は、彼女の使う大剣を目にして興味を沸かせていた。

「始めまして……」急に現れた小男を目にして、訝し気な表情をするロザリア。

「おぅ! おはよう! 今日も稼ぐぞぉ~ お? コルミ、ロザリアさんとは初対面か?」オスカーが彼らの間に割って入る。

「いやぁ~ 彼女も僕と同じ大剣使いだって言うじゃないですかぁ~ どうでしょう? 少し、御手合わせを……」

「何を言ってるんだ?! こんな朝っぱらから! 腕相撲だけで我慢しろ!」オスカーがつい声を荒げる。

 すると、ロザリアはいつの間にか己の愛剣をひょいと担ぎ、不敵に笑って見せた。


「私も、貴方の剣技に興味があるので……いつでもどうぞ」


 と、彼女が口にした瞬間、コルミも瞬時に己の身長よりも大きく長い特大剣を手に取り、肩に担いで構える。

「遠慮なくいきますよ!」コルミは生き生きとした表情で彼女に飛びかかり、己の体重よりも重い剣を手心無しに振り下ろした。

 ロザリアはそれを、そよ風でも扱うように手の甲で払って軌道を反らし、身体を回転させて彼の背後へと回る。

 しかし、コルミの初太刀からの第二撃は早く、次々と連撃を見舞う。彼は身体を上手く回転させ、次々と必殺の太刀を振り抜いた。

 彼女は楽し気な表情でそれを紙一重でするりするりと避ける。

「避けるばかりでは、勝てませんよ?」コルミは挑発する様に声を張り、彼女の動きの中の隙を探った。

「そうだな」ロザリアは己の大剣を振り上げ、両足に力を入れる。

 すると、彼女を中心として濃度の凄まじい殺気が集積する。砦内に広がらぬよう、彼女は殺気をコントロールし、コルミのみに狙いを定める。

「流石ですね!」一般の兵士なら気絶する程の殺気を受け、彼は更に楽し気に笑って殺気を噴き上げた。

 互いの殺気がぶつかり合い、肉眼では見えない鍔迫り合いが展開される。これを見る事が出来たのは、一番間近で見物するオスカーだけであった。

「この変態どもめ……」

「行くぞ……」ロザリアは両目から真っ赤な殺気を吹き漏らし、大剣を振り下ろした。

「はぁっ!!!」砦中のガラスが割れる様な勢いでコルミは大声を上げ、彼女の振りに応えた。

 嵐の様な殺気を帯びた大剣同士がぶつかり合い、轟音が天高く鳴り響く。

 ここでやっと砦中の兵士たちが彼らの決闘に気付き、やじ馬が輪になって集まる。

「……凄いな……こんな強者と手合わせをしたのは初めてだ……」ロザリアは痺れる手を摩り、満足した様に矛を収める。

 コルミは火が消えた様に黙り、彼女が背を向けて歩いていくのを見届けた。

「おい、コルミ……そのまま真っ二つになりそうだが、大丈夫か?」心配交じりにオスカーが肩を叩くと、コルミはガシャンとしゃがみ込み、そこでやっと剣を手放した。

「ま、負けた……」

「負け? 見ていてそんな風には見えなかったが?」彼やギャラリーの目には相打ちにしか見えていなかった。

「何を見ていたんですか?! 今のはどう見ても僕の負けです! くっそぉ~ 聞いていたよりもずっと強いなぁ~」と、悔し気に首を捻って唸る。

「???」オスカーは良く分からず、首を傾げて顎に指を置いた。



 ラスティー達は夜通し奔り、陽が昇る頃にはパレリア城下町に辿り着いていた。城下は戦時中であるが故、出店は出ておらず、コロシアムも冷えていた。

 代わりに騎士団の兵隊たちが溢れ返っており、ガムガン砦以上に殺気立っていた。どんな国の兵が攻めてこようとも、迎え撃ち、取って喰う勢いであった。

「半年ぶりか……様子がまるで違うな」

「あんなに活気があったのに……まぁ、今でも違った意味では活気がありますね……」以前にパレリアを訪れていた2人は、少し寂し気な声を出した。

 すると、城のある方角から兵隊たちが、まるで波の様にうねりながら皆、首を垂れ、膝をつく。

 その波を作った者は、エミリーだった。

「皆さん、早かったですね! でも、少し遅かったかも……」

「それはどういう意味で?」ラスティーが心配そうに問う。

「本来なら大臣は昨夜、西大陸会議へと出立する予定だったのですが……必死に頭を下げて止めて、あと1時間で出ると……急いで下さい!!」と、エミリーはまた城へと取って返し、また兵たちの波がうねる。

「……賢者様に頭を下げさせちゃったよ……俺」唖然とするラスティー。

「呆けてないで、早く行きましょう!!」と、エレンが彼の尻を引っ叩いた。

「あんな子供に頭を下げさせるなんて……情けないわね」キャメロンは冗談でもぼやくように鼻で笑った。

「……キャメロンさん、余計な事を言って邪魔をしないで下さいね」悪寒が首筋を撫で、ウォルターが彼女の耳元で呟く。

「何よ! まるであたしが遠慮なくズケズケ言う失礼な女みたいじゃない!!」

「そう最初に自己紹介したのが、貴女ではありませんか……」彼女との初対面した時の事を思い出し、身震いした。

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