53.西大陸統一作戦! 作戦編

 ガムガン砦に戻ってきたラスティーは早速、ダニエル達とオスカーら傭兵団を呼び、これからの事を話す準備を始めた。

 そんな中で、オスカーは自分の右腕であるコルミを呼びつけ、マーナミーナ側で何があったのかを問い詰める。

「向こうで何があったんだ? こっちは大変だったんだぞぉ~!」オスカーはガムガン砦の籠城戦で、どれだけ苦労したのかを長々と愚痴ろうとした。

 しかし、それを吹き飛ばす勢いで、コルミはマーナミーナでどんな作戦を行ったのか、ラスティーの活躍、そして港に現れた巨大ゴーレムについて早口で語った。

「本当に大変だったんスから!! んで、僕がそのゴーレムの腕を斬り落して……」

「絶対に誇張してるだろ、お前……」

「していませんって! あんたがこれから話そうとする自慢話こそ、尾びれ背ビレに浮袋まで付いているんでしょ!? 今はそんな世間話している場合じゃないんですよ!!」

「世間話とはなんだ! 世間話とは!! コルミのクセに偉そうだぞ!!」

 2人が騒ぐ中、コルミの話を聞き周囲がざわつき始める。これから自分らは何処へ行くのか、次はどんな戦いが待っているのか、期待に胸を膨らませる。

 ラスティーが準備を整え、軽く咳ばらいをする。

 すると、コルミが察し、得意の大声で一喝し、周囲の私語を黙らせる。

「ありがとう、コルミさん」ラスティーは一礼し、これからの策について話し始めた。

 これからラスティーは、雷の賢者エミリーと共にパレリア城へ向かい、大臣と謁見する予定だと話した。

 パレリアは今の所、首が皮一枚でつながった状態であった。

1週間後に西大陸の5大大国、『バルカニア』『ボルコニア』『マーナミーナ』『グレイスタン』そして『パレリア』の王たちが一同に集まり、会議を行う『西大陸会議』が、聖地ククリスにて行われる予定であった。

 この会議次第で、パレリアの命運が決まるようなモノであった。

 実際、パレリアの未来は決まった様なモノであった。

 バルカニア、ボルカニアはパレリアに不利な条件を突き付け、領土を切り取るのは確実であった。後にパレリア内で反発が起こり、また戦争が勃発する事は明白であった。少なくとも内乱は起こると予想された。

 その時こそ、パレリアの終焉の時である。

 ラスティーはそれを阻止するため、大臣と謁見し、会議でどう立ち回るべきか、アドバイスしに、あわよくば誘導しに向かうと語った。

 ここまで言うと、ダニエル達は「なぜここまでしてパレリアを救うのか?」と、問うた。

 それに対して、ラスティーはこう説明した。


「パレリアが滅びれば、それが引き金になり西大陸内で再び大規模な戦争が起こる。これによって西大陸は魔王につけ入る隙を与える事になる。ククリスの賢者たちだけでは、太刀打ちできない。だから、阻止しなければならないんだ」

 

 と、そのままラスティーは口の渇く間に話を続けた。

 なんと、大臣との謁見の後に、今度はマーナミーナ王と謁見し、恐喝すると言い出したのである。

「恐喝ってあんた!!」ライリーが突っ込む様に声を上げる。他の皆も開いた口がふさがらず、キャメロンに至ってはケラケラと笑い始めていた。

 皆がざわつき始めると、再びコルミが「喝!!」と声を上げる。

 


 マーナミーナの国王は既に、会議に出席する為に港を出発し、東へと迂回してククリスへ向かっていた。大陸を横断するには危険すぎる為、安全かつ速く移動できる海路を選択したのであった。

 普通の船ならばひと月以上かかる航海であったが、国王の乗る大型帆船には優秀な風使いが数十人乗り込んでおり、彼らの魔法と航海術によって安全かつ高速で後悔することが出来るのであった。なんと5日後にククリス港到着予定であった。

 そんな国王の船を追う形で、ディメンズの用意した小型船が霧に紛れてあとを付けていた。

「ジーンさんは本当に大丈夫なのか?」船内で頭に情報を叩き込みながらレイが問う。彼はなんとかラスティーに近づこうと、共に歩けるようにと必死に勉強をしていた。

「あいつの隠密能力は俺以上だ。自分の事だけ心配してな」ディメンズは煙草を我慢する様に火のついていないパイプを咥えながら返答した。

 ジーンはなんと、国王の船内に潜入しており、そこでラスティーに言われた通り、監視していた。

「で? あのお嬢ちゃんは大丈夫なのか」甲板上を指さし、ディメンズが問う。

 キーラは航海が苦手なのか、顔を青くさせながらグッタリと寝転がっていた。本当ならレイと共に勉強をしたいところであったが、今の彼女はそれどころではなかった。

「……ま、魚に餌をやるのはいいんじゃないか? ふふっ」何かを思い出した様に不意に笑う。

「どうしたんです? ディメンズさん?」

「いやな……俺がお前らくらいの頃、仲間と船に乗ったんだが、その時も船酔いに苦しんでいる仲間がいてな……それを思い出したんだ」

「はぁ……しかし、いいんですか? あいつら逃がしちゃって……」レイは捕えた黒勇隊を思い出し、苦そうな表情を浮かべた。

「あいつらは所詮、魔王の手足にも成れない使いっぱしりだ。ルーヴェルは確かにクラス4の大地使いだ。野放しにするのは危険かもしれないが、自分では何も判断できない。黒勇隊ってのは、そういう腑抜けの集まりなんだ。だから、逃がしたんだ。俺は、あいつらの事はよく知っている」

「はぁ……でも、いずれまた俺たちと戦う事になるかも……」

「あいつじゃ、ラスティーには勝てないね。ゼルヴァルトぐらいの強者が来ないと、怖くはないな」ディメンズは誇らしげに口にした。

「でも、これからラスティーが相手にするのは……」

「一国の王相手に、どれだけ立ち回れるのか……それ以前にパレリアの大臣相手にどこまで口が回るか……そこが重要だな」



 ラスティーはマーナミーナ王を恐喝する計画を話し終え、その後、更にククリスでの西大陸会議に参加するといい出した。

「それはちょっとやりすぎでしょう!?」つい声を上げるダニエル。

 この会議には国の代表しか出席できない決まりがあった。

 しかし、代表の付き人、助手としてなら参加できるとラスティーが語り、彼はパレリアの大臣の助手として潜り込むと言った。

 そこで影ながらにパレリアの大臣を操り、会議全体を裏から操って西大陸をひとつに纏め上げると大見栄を切って言い放った。

 すると、ラスティーに返ってきたのは傭兵団全員分の「う~ん」という疑問の唸り声であった。

 確かにラスティーは頼りになる指揮官であり、今回の策によって説得力も出て来たので皆も期待していた。

 しかし、今回の策語りはあまりにも現実離れしていて説得力もなく、更に勝機も無かった。

 皆が皆、上手くいくわけがない、都合よく運ぶわけがないと言いたげにため息を吐いた。

 だが、ラスティーは、まるで勝算がある様に余裕の笑みを崩さなかった。

「俺には強い味方がいるんだよ。これから謁見する大臣、恐喝相手の王様、そして……グレイスタンの獅子王だ。この3国の代表を操り、会議を大陸統一へ導いてみせる!」

 そこまで言い、ラスティーは会合を解散した。

 それでも傭兵の皆は納得できないのか、首を傾げる者がいた。



「ちょっといい?」テント内で休憩をしていたラスティーに、キャメロンが会いにくる。

「おう、いいぞ」と、エレンの淹れた薬膳茶を飲みながら煙草を咥える。

「随分大口叩くじゃない? どこまで実現させるつもりよ」と、彼の煙草に火を点け、そのまま自分も煙草を咥え、煙を吐く。

「俺も、全て上手くいくとは思っちゃいないさ……だが、これぐらいの事をやってのけなきゃ、魔王討伐なんか出来やしないさ。俺が本気だって事を皆に知らしめるには、西大陸統一ぐらいしなきゃな」

「……本気なんだ……ま、それが出来れば……凄い事になるよ。魔王討伐のカリスマ、リーダー、指導者が生まれるってね……」

「で? 本題はなんだ? 今夜出発し、明日には大臣と会議予定なんでな」

「あたしも連れて行ってくれない? あんただけに良い顔されるのは面白くないからね」髪を掻き上げ、鋭い目を彼に向ける。

「いいぞ」ラスティーは即答し、ブーツの紐を締め直す。

「早いんだね、答え」

「そうだ、キャメロンみたいに俺と共に来たいってヤツは遠慮なく連れて行くぞ。その代り、俺の命令には大人しく従って貰うぞ。いいな?」

「命令の内容にも寄るけどね。よろしく」



 キャメロンがテントを出ると、ラスティーは少々疲れ顔を覗かせ、重たい溜息を吐いた。そんな彼の心中を察したのか、エレンが肩に手を添える。

「久々にカウンセリングをしますか?」

「そんな時間は無いな……大陸統一が成功したら、お願いするよ」

「貴方の心のケアもそうですけど……右脚は大丈夫なのですか?」

 彼の右脚は、ウィルガルムとの戦いで負傷していた。彼女の治療を受け、傷は塞がってはいたが、未だ万全とは言えなかった。

「たまに鈍くなるぐらいだ。心配するな」

「私に嘘は通じませんよ」と、エレンは彼の脚に手を添え、診断を始める。その瞬間、表情を歪め、首を振る。

「……完治は無理か?」

「今の私の腕では……すいません」彼の右脚は、完全にマヒしており感覚が無い状態であった。何の問題もなく歩いている様には見えるが、いざ戦闘になると、後手に回らざるおえない程、鈍くなっていた。彼の戦闘スタイル上、問題は無かったが、不意を突かれたなら、それに対応する自信は彼には無かった。

「なぁに、俺には頼もしい仲間がいるからな。それより、エレンは平気なのか?」

「私は、自分でコントロールできますから」と、エレンはいつもの笑顔を見せた。

「俺は人の心を覗き見る事は出来ないが……俺にも嘘は通じないぞ?」と、彼女の手首を掴む。

 彼女の腕は、一回り程痩せ細っていた。

「……ここは思ったより忙しくて……」

「それだけじゃないだろ?」

「…………大陸統一が成功したら……一先ず休憩しましょう。お互いに」

「……そうだな」

 ラスティーとエレンは、未だにアリシア達の安否を知らなかった。知るすべは無く、ゴッドブレスマウンテンの麓での別れからずっと、気を病んでいた。

 別れ際の言葉がどうあれ、ヴレイズの覚悟がどうあれ、2人はアリシア達を見捨てた、切り捨てたのでは、と心中に闇を抱えていた。

 信じるしかない、あの2人なら大丈夫、と己に言い聞かせ、前だけを見てここまで来たのであった。

 だが、それも限界に近づきつつあった。

 特にエレンはあれからロクに食事を摂っておらず、己の医療技術の限界を嘆き、ひとりで密かに泣く毎日を送っていた。

 ラスティーに関しては、弱みを誰に見せる事も出来ず、悲しむ間もない毎日であるがため、徐々に心の余裕がなくなりつつあった。

 それでも、ラスティーはこれから最大の大博打をうちに行かねばならないのであった。

 彼らは、己に追い詰められつつあったのである。

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