20.迫りくる闇
不気味に笑い続けるゴラオン。
彼は何か勝算があるのか、ただのはったりか、勝ち誇るような顔でラスティー達を見回した。
「何が可笑しい?! これから何が起こるんだ!!」ローズの乱入により、少しずつ余裕を失いつつあるラスティーは、ゴラオンの胸倉を掴んで無理やり立たせた。
すると、ゴラオンの背後にディメンズが立ち、彼の後頭部を強かに殴りつけた。
「とりあえず、お前は黙れ。そして、ラスティー、お前は取り乱すな」彼は冷静沈着な態度でラスティーに言い、気絶したゴラオンを地面に蹴り転がした。
「だが、こいつが何をしでかすのか聞き出さなきゃ! 俺たちのこの1年が……」どんなに長く、そして綿密に計画した策でも、予期せぬ何かであっという間に崩壊する事を彼は知っていた。故に焦りを隠せずにいた。
「だからこそ取り乱すな。今のお前は、簡単に慌てていい身分じゃないんだぞ! その焦りが一番危ないんだろうが」ディメンズはゴラオンの口に何かを細工しながら口にする。
「っ……わ、悪い……その、あぁ……」頭を押さえ、弱り果てた表情を必死に隠すようにサングラスをかけ、誤魔化すように煙草を咥え、火を点け、重たい煙を吐き出す。
「ねぇ、アタシにもくれない?」縛られながらも弱味を見せないローズが彼にせがむ。
普通なら断るところだが、ラスティーは彼女の堂々とした態度に感心し、一本差し出し火を点けた。
「ありがと。ふーっ……でさ、ラスティー」馴れ馴れしく問うローズ。
「なんだ?」
「アリシアは、本当に死んだの?」彼のサングラスの奥を覗き込みながら問う。
「……あぁ……お前のせいでな」
「ふ~ん。そーなんだー」先ほどと聞いた時と同じような答えが返ってきたが、彼女は何か満足そうな表情をしてみせた。
「なんだよ、気持ち悪いな」
「生きてるんだ」
「は?」彼女の言葉に驚くラスティー。
「今のあんたは余裕がないからね。今回は嘘だとわかったよ。でも、あんた自身もあいつが生きてるかどうかはわからないって感じ? でも兎に角、死んだことにしてアタシの目を欺くつもりだったんでしょ? 甘いね」ローズは自慢げに煙を吐き、にひひと笑った。
「もうどっちでもいいさ。それより考えるべきは……少しテンポが悪くなるがゴラオンの秘策ってヤツを探らなきゃな」と、ラスティーは彼女の吐いた煙に混ざらない様に煙を吐いた。
「探る必要はないぞ」ゴラオンへの細工を終わらせたディメンズは彼の上に腰掛け、煙草を咥えた。
「なに?」
「このマーナル砦に運び込まれた兵器とは別に、マーナミーナの港にある物が運び込まれたんだ。魔王軍の貨物船からな。その中には何が積まれていたと思う?」オイルライターを鳴らし、独特な香りを放つ煙を燻らせる。
「……ワルベルトさん、まさか何か隠していたんじゃ?」数日前に情報交換したばかりだったが、この情報は初耳だった。
「いや、運び込まれたのは2日前だ。あいつも今頃知ったんだろうぜ。で、積まれていたのは……土だ」
「土?」
「それも、貨物船一杯にな。土ばかりで港の作業員たちは首を傾げながら倉庫に運び込んだそうだ。肥料でも腐葉土でもなく、ただの黒い土だったそうだ」
すると、ローズが聞き耳を立て、ディメンズに顔を向けた。
「その土、送った人ってひょっとすると……」何かを知っているように口を開くローズ。
「闇の軍団長、ロキシーだ」
その頃、ガムガン砦では勝鬨が挙げられていた。
決して戦争に勝利したわけでもなく、士気を上げる為でもなかった。
なんと、バルカニア軍並びに後衛で控えていたボルコニア軍が引き上げたのである。敵陣は既にもぬけの殻であり、近隣の制圧された村や砦からも引き上げたのである。
「何だかわからんがやったな」オスカーが呆気にとられた様な顔で口にする。
「これが、我らが司令官の策か? 一体何をしたんだ?」ダニエルは首を傾げ、考える様に唸った。
「バルカニアだけでなくボルコニアまで引き上げたもんなぁ~ いったどんな魔法を使ったんだぁ?」ライリーは寝転がりながら口にする。
「……やるじゃん」何か悔しそうにキャメロンが呟いた。
「素朴な疑問なんですけど……何でボルコニアまで引いたんですか?」ローレンスが言うと、全員が声を揃えた。
「「「それな」」」
何故ボルコニアまで兵を引いたのか……この話はバルカニアが兵を引くように命じた時同じくして起きた出来事である。
バルカニアが兵を引いたことを聞き、ボルコニアの王は鼻で笑った。マーナミーナと極秘条約の事は知らなかったが、隣国に背後を取られ、慌てふためき兵を退かせるライバル国を見て、王は可笑しくて仕方なかった。
それに引き換え、ボルコニアの背後で構える大国はグレイスタンだった。
この国には王が戻り、落ち着きを取り戻しつつあるが、戦争をしている場合ではなかった。内政の取り直しや現状把握、隣国の状況など、若きグレイスタン王のやる事は山積みであり、戦争など出来る筈もなかった。
故に、ボルコニアは安心してパレリアを攻める事ができたのだった。
だが、ボルコニア王が笑っていると、そこへ伝令兵が現れる。
彼が伝えた内容はこうだった。
「グレイスタン軍総勢90万がシン・ムンバス王を先頭に国境まで迫ってきております!」
この報を聞き、王は焦った。
急いでパレリア攻めに送った兵を戻さなければ、攻め込まれてしまうのである。
何故グレイスタン王がこのような強行にでたのかは知る由もなかったが、王は迷うことなく兵を引き上げた。
「ラスティーさん、頑張っていますね」国境で踵を返し、城に戻る途上のシン・ムンバスが呟く。
「ウィンガズ殿の方の作戦も成功したと来ています。この次は……」騎士団長のボーマンが口にすると、シンは深く頷いた。
「うむ、本番はこれからだな」
時を戻してガムガン砦。
エレンは負傷兵達の治療を終わらせ、一息ついていた。
「エレンさん、ラスティー司令官の策が次の段階へ行くそうです」こっそりとエレンに全てを聞かされたウォルターが報告にやって来る。
「ここからが一番大事な所ですね……彼なら大丈夫でしょう。うん」エレンは安心しきっているように息を吐き、水を飲み下す。
「……信頼しているんですね」
「もちろん。この1年、旅をして苦楽を共にした仲ですから」
「それ以上に見えますよ」ウォルターは羨望の目をしながら口にし、珍しく微笑んで見せる。
「そう? そういえば、ロザリアさんはどこへ?」見回しても、あの紅色の鎧がどこにもない事に気付き、首を傾げた。
「ロンク村の様子を見に行く、と言って砦を出て行きましたか?」
「お~い、ロザリアぁ!!」ロンク村の外れの谷間部分から下卑た声が響く。声の主はパレリア軍の中でも、コロシアムから寄せ集めで編成された囚人兵だった。
彼らは戦争中、手柄を上げ損ねた兵たちだった。なんの戦果も挙げられなかった囚人兵たちは、コロシアムの牢の中へ戻される事になっていた。
そんな彼らの手の中には、ロンク村の女の子が握られていた。
「このガキの命が惜しかったら出てこい!!」6人がかりでこの娘を捕え、ここまで来たのである。
「……わかった」気の影から紅色の鎧が姿を覗かせる。
「お前みたいなワケ分かんねぇヤツのせいで手柄を上げ損ねたんだ! 全部お前のせいだ!! まず、お前をぶち殺す! そんで村を襲ってやるぜ! 新しい盗賊団を立ち上げるんだ!!」囚人兵たちは思い思いの武器を片手にニタニタと笑う。
「くっ……」ロザリアは相手の隙を見つけ、大剣を振るおうと構えるが、6人全員、しかも同時に隙を見つけるのは至難の業だった。
しかも、囚人兵たちはロザリアの戦い方を知っており、殺気を飛ばしてくることまで知っていた。
彼らは何が起きても、まず人質の娘を殺す事だけを考えていた。
「分かっているな? あ?」血走った目を彼女に向ける。
「好きはさせなッ……がぁ!!」言葉が途切れ、紅色の兜がベコリと凹む。
囚人兵は血の付いたフレイルを振り回し、ゲラゲラと笑っていた。
「地獄はここからだぜぇ!」
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