15.オルロの戦い 会議編
そして次の日の夜。
ラスティーは、レイとキーラ、分隊長5人、そしてコルミを村長宅へ呼び、今回の作戦について詳しく話し始めた。西大陸北部の地図を取り出し、駒を置き始める。
「これがマーナミーナ軍、これがバルカ・ボルコ軍にパレリア軍、そして、これが俺たちだ」と、次々に置き、あっという間に現在の状況を地図に描く。
「なんだか、俺たちの目的がよく分からなくなってきたな……」
「つまり、俺らはパレリアを助ける為に、バルカニアの背後を突くんだろ?」
「でも、俺たちが攻める先は……ここで待機しているマーナミーナ軍なんだよな……」
分隊長たちは混乱する様に頭を丸め、不思議そうに地図とラスティーの顔を交互に見た。
そんな彼らのスイッチを切り替えるべく、総隊長のキーラが手を叩く。
「はい、集中! とにかく聞く! 余計な考えは頭を混乱させるから!」昨日の会議で頭をパンクさせた彼女は、とにかく今回の作戦会議で理解しようと、集中していた。
「では、頼む」レイが口にすると、ラスティーは咳ばらいと共に駒を手に取った。
「いいか? まず、俺たちはこの村から出撃し、マーナミーナへ入国し、国境付近のオルロ砦の背後に付く。用意が出来たら、潜伏中のグレイスタンの援軍へ合図を送り、そこから一気に砦を攻め立てる!」ここまで話すと、分隊長のひとりが挙手した。
「何故、マーナミーナ軍を攻めるのでしょうか?! その意図は?」
「最後まで話を聞けばわかる。口を挟むな」レイが目を鋭くさせて睨み付けると、上がった手がへにゃりと下がる。
「攻めると言っても、相手には砦から逃げ出す余裕を与える。武器に旗、馬に跨り、全員無傷で逃げ出す余裕をな」またひとりが挙手したが、レイのひと睨みで手が萎れる。
「そして、連中を先頭に、うまく誘導する。まるでハゲ兎を狩る時のように、逃げ場を奪い、前にしか奔らせない様に操る。で、マーナミーナ軍が逃げ着く先は……」地図上の駒を動かし、にやりと歯を覗かせる。
「バルカニア?!」
分隊長たちが声を揃えると、ラスティーは机を叩いた。
「そうだ! それを見たバルカニアの連中はどう思うかな? まさに背後を第三者に突かれた、と。さらにそんな連中が王都目掛けて進撃して来たらどうする?」
「パレリアへ向けた兵を……引く」キーラがやっと理解した様に口にした。
「しかし、そう上手くいきますかね?!」
「背後には我々やグレイスタン軍がいるんですよ? さすがにバルカニアも怪しむっていうか……」
「それに、マーナミーナ軍が砦に立て籠もり、迎え撃って来たらどうします?!」
思い思いに作戦の粗を突き、納得できない様に表情を歪める。
だが、ラスティーは笑みを覗かせて口を開いた。
「そこは準備万全だ。まず、このオルロ砦、それにここの兵たちはロクな装備を揃えていない、なぜなら、ただの物見だからだ。そもそもマーナミーナとバルカニアは陰で停戦協定を結んでいる。だから、バルカニアは安心して背後を無防備にしてパレリアを攻められるんだ」ラスティーは自分がバルカニアの城で直接その停戦協定を結んだ事を思い出した。あのあと、ワルベルトに上手く情報を転がしてもらい、協定は上手く事を運んでいた。
「次に……この地図上には俺たちやグレイスタン軍はいない、と思ってくれ。正確には、グレイスタン軍は、この位置にいる」と、グレイスタン軍の駒をボルコニア方面に動かし、自分たちの駒を別の色の物に変える。
「それはどういう意味で?」
「俺たちは……この作戦上、盗賊団『ブラッディーオーシャンズ』になるんだ」
「ブラッディーオーシャンズ?!」分隊長たち全員が声を揃える。
この盗賊団は、マーナミーナでは有名な伝説上の大盗賊だった。
霧の夜に大軍団を従えて現れ、魔獣が如き咆哮と共に駆け、獲物の周りを嬲る様に旋回し、じわじわと、まるで血でも吸うかの様に襲い掛かる、というものだった。
「……つまり、この伝説の大盗賊団に俺たちが化ける、と? はは、は」乾いたように笑う分隊長のひとり。
「さて、質問だ。この伝説の大盗賊団のハナシ、どこから聞いた?」ラスティーは学問所の先生の様な口ぶりをしてみせた。
「え? そ、そう言えば……どこだっけ……新聞とか、村人の話とか……? それに、マーナミーナ出身の傭兵からとか」
この言葉を聞き、ラスティーは高らかに笑って見せた。分隊長たちは揃って首を傾げる。
「この伝説の盗賊団の話を最初に振り撒いたのは、俺だ」
「なにぃ?!!!」また声を揃える。
「実際に撒いたのはワルベルト、そして疾風団の諜報員たちが実しやかに噂を撒き、それらしい事件、痕跡をでっちあげ、時間を掛けて作り上げた架空の盗賊団だ。ま、時間を掛けたと言っても精々3か月程度だがな」
「なぜこんなことを?」
「こういう噂は、最初は信じないだろうが、それらしい物証が3つ4つ出れば信じるしかなくなる。そして、このオルロ砦に詰めている兵たちは物見気分のやる気のない連中だ。逃げ出すのは明白だろ」
「た、確かに……」と、納得した様に漏らす。
「その仕上げに、昨日来たワルベルトさんが、とある物を持ってきてくれた。それが、これだ!」と、今まで隠していたのか、ラスティーが合図をするとレイが暗い紅色の衣装を広げた。
「全員分ある。これを着て、明日は暴れて貰う」ラスティーは楽しそうに笑って見せる。
「し、しかし……我々が先頭に立ち……このような大立ち回り……出来るのでしょうか?」分隊長のひとりが口にすると、ラスティーが片眉を上げた。
「そうだな……いきなり出来るか?」
「それに、こんな大軍で狩りを……本当に」
「失敗したら……」
思いもいの不安を漏らし、表情を曇らせる。
そこで、キーラが立ち上がる。
「何を弱気になっている! 私たちはこの10年以上、どれだけ訓練を積んできたか忘れたのか?! ここで奮い立たずして、何が魔王討伐か!!」
彼女の声に、分隊長たちひとりひとりが立ち上がる。
「はい、やりましょう!」声を揃え、軍靴を鳴らす。
「よし! 準備しろ!」
会議が終わり、それぞれが自分の隊へ戻っていき準備を進める。
そんな中、コルミがひとりラスティーへ歩み寄る。
彼はどの隊にも属していなかった。正確には、遠く離れたガムガン砦にいるオスカーの傭兵団に属した傭兵だった。
「あのぉ……僕の役割はなんなんでしょう?」不安そうに額縁眼鏡を拭きながら問う。
「おぉ! そうそう、この作戦にはあなたが必要不可欠なんです!」と、ラスティーが目を輝かせる。
「はい? それはどういう意味で?」
「コルミさんには、この盗賊団の親分を演じて頂きたい」
「えぇぇぇ?!」コルミは目を丸くし、口をパクパクさせた。
「貴方の声量、そして得物に眼鏡! どれをとってもぴったりなんです!」
「いやいやいや! というか眼鏡ってなんですか!?」
「あなたの眼鏡は遠目から見たら怪しく光るでしょう! それがぴったりなんです! とにかく、お願いしますよ!」ラスティーは彼の両肩をポンと叩き、うきうきとした足取りでレイ達のいる隊へと向かっていった。
「……えぇぇぇ?!」
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