43.暴走する2人
ヴレイズ達の眼前に現れたフレインは、2人を連れて城下町にある訓練所へ連れて行った。今の所、行く当てのない2人はただ頷き、彼女の後に続きながらも訝しげな表情を浮かべながら首を傾げた。
「おや、フレイン殿。今日は如何なされた?」訓練所の兵士が彼女の姿を見て駆け寄り、笑顔を向けた。
「うん、ちょっとね~」笑顔で応え、足を止めぬまま試合場へ向かう。
「有名人?」彼女の正体を知らない2人は声と顔を合わせて、また首を傾げた。
試合場では訓練中の兵士たちが、木刀や訓練用の槍で突き合いながら声を上げていた。兵士たちはフレインの姿を見た途端、矛を収めて脚を揃え、大声で挨拶をした。
「はい、どうもね~。ちょっと、ここを使わせて頂けます? ここにいるヴレイズ君と試合をしたいんだ~」
「よろこんで! と言う事は、彼は相当腕が立つので?」ワクワクした目でひとりの兵士がヴレイズを見る。
「あたしの目に狂いがなければね~」
兵士たちは素早く試合場から降り、フレインがふわりと上がり、ヴレイズに上がる様に促す。
「……高名な戦士の娘かなんかかな?」エレンに小声で問うヴレイズ。
「多分……と、とにかく頑張ってください! 勝てばお城に入れてくれるかもしれません!」
「そうかぁ? ま、一応やってみるか……」納得できぬまま試合場に上がる。
その瞬間、フレインの姿が消え、上空から鋭い殺気と蹴りが飛んでくる。
「おわっ!!」咄嗟に受け、殺気の主を睨み付ける。
「やるね! やっぱり強い!」フレインは楽しそうに笑み、着地の瞬間に炎を纏った拳を数発見舞う。
彼の目で追える速度の攻撃故、悠々と防ぐが表情が歪む。彼女の拳は予想より鋭く重いため、骨に響き肉が潰れた。
「くっ……こんの!」ヴレイズも負けじと得意の赤熱拳をパワーセーブして放つ。彼の拳は確実にフレインを捉えたが、手ごたえ無くすり抜ける。
「なに?」
「こっちだよ!」背後から彼女の勝ち誇った声が耳に入り、咄嗟に防御するヴレイズ。また同じ場所に拳を喰らい、表情を歪める。
「くそっ……同じ個所ばっかり……」出血した腕を抑えながら距離を取る。だが、彼女はしつこく彼の間合いに入り込み、執拗に彼の腕を攻撃した。
「ぐぁ!!」
「あんた、あたしより強いからね! 容赦なくいくよ!」生き生きした顔で殺気を帯びた蹴りをまた放った。
「くそ……ってかなんで俺は戦っているんだ?!?」混乱しながらも相手の乱打を受け脂汗を流す。
その頃、ボルコニア城内の会議室で話し合いが行われていた。
「……では、バースマウンテンの炎の戦士たちは、今回の戦いには参加しない……と?」軍師のバルべが苦そうな顔で問う。
「当たり前だ。今回の戦争はただの意地の張り合いの様なモノ……くだらん! こんなものに参加すれば、それこそ我々の名折れ! 勝手にやってろ!」額を浮き上がらせた炎の賢者、ガイゼルが怒声を張り上げる。
「くだらんとはなんだ! 連中は我々の顔に、王に、国民に泥を投げつけたんだぞ! 昔からの因縁を今こそ晴らさねば!」バルべは立ち上がり、力説した。
「やはり、くだらんではないか。今はそんな事をやっている場合ではないだろう! 魔王は潰し合う我々を見て嬉しそうに笑っているやも知れんのだぞ! 考え直すべきだ! 今はぐっと堪えて同盟を……」
「もう遅い。戦いの準備はもう始まっている」
「なら勝手にするがいい! もし前線の砦を堕とされ、侵略されるような事態になれば、馳せ参じよう」ガイゼルは轟と吐き捨て、会議室から乱暴に出て行った。
「全く、無駄な時間を過ごしたわい! ……ん? フレインはどこだ?」退室し、しばらく近くを回って娘を探す。しばらくして巡回中の兵士を捕まえ、彼女がどこにいるのかを問う。
「フレイン殿は先ほど、訓練所へ入っていきましたが?」
「……そうか、ありがとう。……なんだか嫌な予感がするな」彼は背筋にゾクリとしたものを感じ、足早に訓練所へ向かった。
「クソ……」ヴレイズは、ぼろぼろになりながらも距離を取り、フレインから離れた。だが、彼女は遠慮せずに間合いに入り込んでは、彼の傷ついた両腕を責めた。
「……ねぇ……なんかアンタさ……手ぇ抜いてない?」苛立った声を出しながらヴレイズの両腕を掴む。
「……だって、いきなり戦えと言われて本気なんか出せるわけないだろうに……」
「あんたさ、戦士でしょ? 目を見ればわかるんだよ、あたし。で、あたしは強いヤツと戦うのが好きなの! あんたもそうでしょ?」
「いや、ぜんぜん……」
「ノリが悪いなぁ~いざと言う時に本気になれないと、戦士失格だよ?」
フレインに言いたい放題言われ、むっとした表情を作るヴレイズ。彼女を振りほどき、ボロボロになった腕を目の前に突き出した。
「わかった! 本気出すからちょっとまって!」
「ちょっと待ってって……そんなのが実戦で通じると思う?」
「だがこれは試合だろ? 頼む! 少し待ってくれ!」
「待つって何秒?」
「30分弱ぅ……」
「長っ!!」
試合場で戦いが中断される間に、エレンはその場から姿を消して城の周りを嗅ぎまわっていた。
「あんなのに付き合っていても時間の無駄でしょうし……どうにかして忍び込めないかな……」と、目を光らせながら怪しまれないように歩く。
そんな彼女の遠く前に大柄な男が歩いていくのが目に入った。その男こそ炎の賢者、ガイゼルだった。
「なんか偉い人っぽいなぁ……少し触れる事ができれば、彼の頭の中を探る事ができるのだけど……」と、彼女はガイゼルの尾行を開始した。
「しかし、なんか色々な人に声をかけられる人だなぁ……」
「ねぇまだ?! もう30分過ぎたんじゃない?? ただ待つだけの30分がどれだけ長いかわかる?? ねぇ!!」業を煮やしたフレインが、胡坐をかいたヴレイズに歩み寄る。
「もう少しだ……もう少し待てば、サプライズを見せてやる! はずだ……」
「なに? サプライズって? ったく、いい加減にしてよ!」額に血管を浮き上がらせた彼女は思わず、ヴレイズの後頭部を叩いた。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
全身から灼熱の業火を噴き出し、立ち上がるヴレイズ。
「え? え? えぇ??」驚き目を剥くフレイン。
彼女だけでなく、試合場を囲んでいた兵士たちも驚きを見せ、声を上げた。
「い、いいか! 俺はまだこの力を使いこなせてないんだ! 予告するからちゃんと避けてくれよ?」
「なに? 云ってる意味がわからない!!」
「怪我どころじゃ済まないっていってるんだよ!!」火を噴きながら怒鳴るヴレイズ。
「痺れる脅し文句ね! 面白そうね!」
ヴレイズは脚から炎を噴いて天高く跳び上がり、ボロボロになった腕を振り上げた。
「いいか? 絶対に避けろよ?!」
「意味わかんない! これは戦いd」彼女がおどけながら口にした瞬間、目の前が真っ赤になり、次の瞬間試合場が瓦礫を噴き上げて噴火する。
「どわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
ヴレイズの赤熱拳は一瞬で消し飛び、深い大穴を開けた。
「う……えぇ? こ、殺す気?」鼻先を焦がし、紙一重の間一髪で避けたフレインが冷や汗を掻きながら目を剥く。
「だから言っただろ! 避けろって!」
「それがあんたの本気?」
「限界を超えた本気だよ!」
「反則だよ!!」
「今更言うな!! こっちはある程度吐き出さないと止まらないんだからよ!!」制御可能なギリギリの力を両腕に込め、バースマウンテンで見せた赤熱砲を放つ。熱風吹き散らす破壊砲は訓練所の壁をぶち抜き、出店の屋根を掠めて天へと伸びていく。
「制御できない力なんて本気とは呼ばないよ!!」尻を焦がしながら吠えるフレイン。
「うるせぇ! お前がシツコイから悪いんだろうが!」
ヴレイズの体内で暴れ狂う炎が脚へと集中する。それを見たフレインは防御態勢を作り、腰を落とした。
「避けろよ!」
「いやだ! 受けてやる……それを受ける事ができれば、あたしもあんたと同じくらい強く……」
「バカ野郎! 死ぬぞ!」
「うるさい! あたしも半端な気持ちで戦ってるんじゃないんだよ!!」
ヴレイズは必死になって蹴りの力を緩めようとしたが、今更止める事も出来ず、ただ魔力を吐き出すままに蹴りを天高く放った。
その蹴りをフレインの前に割り込んだガイゼルが受け止めた。
「誰だか知らんが勘弁してやってくれ! こいつは誰かれ構わず喧嘩を売ってしまう性格でな……」
「と、止めた?」
「う……邪魔しないでよ父さん!」
「お前では無理だバカタレぇ!!」
「ス、ス、ス、すいませんが! 俺は魔力を吐ききらないと止められないんです!!」ヴレイズは次の一撃を放つべく拳を構え、無理やり方向転換して誰もいない方へ振るおうとした。
すると、ガイゼルはヴレイズの頭を掴み、魔力を込めた。
「う、うぉ! うぉぉぉぉぉぉぉ!」身体から吹き上がる炎は少しずつ静まり、やがて止まる。
「キャパシティー以上の魔力……いったいどうやってそんな技を編み出した?」手の中で燻る火を吹き消しながら賢者は問うた。
「あたしも聞きたい!」
「色々ありまして……」
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