13.賞金首4人と14人のハンター達
カルミンの街でのひと騒動後、ラスティーは2人に自分の素性を打ち明けていた。吸い終わった3本目の煙草をたき火に投げ入れ、4本目を巻き始める。
「ジェイソン・ランペリアス3世? 王子? マフィアじゃないの?」アリシアは目を丸くしながらラスティーの顔をマジマジと見つめた。
「10年前、俺は名前も生き方も捨てて、あの街に拾われたんだ。楽しい10年だったよ」自嘲気味に笑い、煙草を咥え、火を点ける。
「なんで黙っていたんだ?」ヴレイズが尋ねると、彼は何かを考えるように黙り、重たそうに煙を吐いた。首を垂れ、小さく苦しそうに唸る。
そこで、彼の隣に座るエレンが口を開いた。
「壁ができるのが怖かった、そうです」
「先生……守秘義務……」
「知っている者が口にしなきゃ進まない話もありますからね」と、得意げな表情を覗かせる。
弱ったように頭を掻くラスティー。夜空を見上げ、また煙を吐いた。
「俺のことを王子だって知った連中はいつも目の色を変えるんだ。で、一気に態度を変えてもう2度と仲間と呼んでくれなくなる。逃亡生活をしている時はずっとそんな風だった。ドン・ブランダだけだったな、告白しても仲間だと呼んでくれた人は……」前髪でワザと影を作り、目を隠す。
「……もしかしてラスティーの故郷って……」アリシアが口にする。
「闇の瘴気で覆われた大国、ランペリアか」ヴレイズはやりきれなさそうな声を出し、彼を見る。
「……当時の記憶はまだ鮮明に残ってるよ。生まれ育った城下町、自然に村々……全てが強大な闇の火球で吹き飛ばされる瞬間を……そして魔王の軍勢に次々と殺される恩人たち……」
「……酷ぇな」ヴレイズは険しい表情で拳を握った。
「で、先日のこの新聞だ。俺の父さんが死んだって……」鞄から新聞を取り出し、アリシア達に渡して見せた。
「……なんて云ったらいいか……」アリシアは体育座りで顔を膝に埋めた。
「最近、様子がおかしかったが、原因はこれか……」ヴレイズが言うと、ラスティーは小さく首を振り、煙を吐いた。
「……いや、悲しいわけじゃない。焦っているんだ」
「それはどういう意味?」2人が声を揃える。そんな彼らをじっと眺めるエレン。
「父さんは俺より頭が回る人だ。きっとこの死は偽装か何かで、多分俺へのメッセージなんだと思う。それに10年前の別れ際に『困ったことがあったらパレリア城に行け』と言われたんだ。きっと、そこで何かが俺を待っている筈なんだ」パレリアとは、彼らが目指す西の大陸にある国の一つだった。
「なるほどね」2人がそれぞれ相槌をうつ。
「……頼む。俺と共に西の大陸へ渡ってくれないか。そして……魔王を……」
「もちろん! あたしが先に言い出したんだからね! 魔王討伐は!!」アリシアは立ち上がり、ガッツポーズを作る。
「で、これからなんて呼べばいいんだ? ジェイソンか? 今更なんかしっくりこないなぁ……」ヴレイズは腕を組み、意地悪そうな表情を向けた。
「王子って呼ばれたくないんだよね? う~ん」
「3代目、でいいか?」ヴレイズが口にするとラスティーは驚いたように煙草をプッと噴いた。
「なんじゃそりゃ! いままで通り、ラスティーで頼むよ!」
「オーケー。その代り俺のことは2度とドンタコス・ジロウとか呼ぶなよ」
「ボンバイエ・ハナコも!」
「ハナエでしょ?」エレンが口にするとアリシアはうーっと唸った。
ラスティーは楽しそうに頷き、小さく「よかった」と呟きながら立ち上がり、辺りを見回した。
「みんな、ありがとう……さて、俺たちはすっかり囲まれちまったが……どうする?」言葉の割に余裕を蓄えながら口にするラスティー。周りはカルミンの街から追ってきた王立ギルドハンターたちが包囲し、じりじりと迫っていた。
「魔王討伐を誓っているからな。このぐらいの無茶ぶりは屁でもないな」ヴレイズは珍しく得意げな顔で完治した右腕に炎を滾らせた。
「万全になったところだし! 早速、ベアークローのお披露目と行きましょうか!」アリシアはいつのまにやら戦闘準備を終え、自慢のクローを光らせる。
「私は非戦闘員なので、お手柔らかに」エレンは彼ら3人の影に隠れながらも腕に魔力を込め、何かを準備していた。
4人の逃げ場を絶ち、完全包囲を済ませたギルドハンター達は余裕と自信を胸に腕を唸らせていた。診療所の大爆発で40名近くが別の診療所へ運ばれていたが、ここにきているのは腕っこきのハンター14名であった。彼らは連携を得意としており、風使いが情報伝達を円滑に進め、敵である4人の情報を共有し、戦略を練った。
「狩人アリシアに赤熱拳のヴレイズ。で、あの金髪の風使いは、あのジェイソン・ランペリアス2世の息子だそうだ。姿を眩ませる10年前の賞金額は50000ゼル。今は価値がかなり落ちているようで、新しく発行された手配書には10000ゼルだと記されているな。
そして闇医者、エレン・ライトテイル。彼女も晴れて賞金首だそうだ。額は2000ゼル」情報担当のノースが手配書片手に説明する。
「こりゃあスゲェ。合計25000ゼルかよ」
「属性は光、炎、風に水か。雷がいないから今回は楽だな」
「だが油断はするな」リーダーのアーヴィンが周辺地図を取り出し、現在の陣形を小石で表しながら、練った作戦を話す。
「相手は金額通り、かなりの使い手だ。慎重にやろう。まず矢を四方から射かけ、相手の様子をみる。
火が来たら水使いに動いてもらい、風がきたら大地使いに防がせ、前進する。
エレンは水使いだが、クラス2の非戦闘員だ。どうにでもなる。
問題は8000ゼルのアリシアだ。光使いのクセにこの金額……かの黒勇隊4番隊隊長のゼルヴァルトと一戦交えた経験があるそうだ。この女を相手にする時は慎重に対応しろ。
何かあったら俺に知らせろ。では、各々よろしく」
地図を畳み、弓を手に取る。
アーヴィンの合図と共に矢が放たれ、雨の様にアリシア達に降り注ぐ。
ヴレイズとラスティーは自慢の魔法で迎撃せず、ただ撃たれるがまま矢に晒され、4人とも地面に倒れた。
矢が肉に突き刺さる音が響き、ハンターたちは確かな手応えを感じながらも次の矢を番える。炎や風が飛んでこないか警戒しながら間合いを詰めていく。
だが、アリシア達は何も反応せず、ただ地面に横たわっているだけだった。風に乗って微かに血の臭いが漂い始める。
「……え? お、終わりか?」牽制打のつもりで放ったが、あまりにも呆気ないので変な笑いがこみ上げるハンター一同。
アーヴィンの号令で油断はせず、包囲の輪を縮めていく。ハンターたちは矢を仕舞い、槍や剣を構え、じりじりと倒れ伏した4人に近づく。
辺りは真っ暗闇だったので皆、目を凝らしてアリシア達が息絶えているか確認した。
あと少しで槍が届く範囲まで近づいた瞬間、瞳を焼焦がす程の光がハンターたちを貫いた。
罠に備えていたアーヴィンを覗き、13名が身体を丸める。
「情けないぞお前ら! 光属性持ちがいると伝えたはずだ!!」叫んだ時には時すでに遅く、ヴレイズは炎を放ち、それに合わせる様にラスティーが風で灼熱を呷った。
周囲が火の海に包まれると、アリシアがナイフとクローを手にハンターたちの中へ暴れ込んだ。プロ根性で視力を回復させたハンターたちだったが、ひとりまたひとりと肩や膝を破壊され、蹲る。
「こいつらは王立ハンターだ。必要以上に殺すなよ!」ラスティーが口にしながら相手を投げ飛ばし、腕をへし折る。
「わかってるよ!」と、赤熱拳を振るうヴレイズ。
彼らの足元には矢の刺さったアーマーベアの肉の盾と、血の入った瓶が転がっていた。
場をあっという間に制圧され、狼狽えているアーヴィンは歯を剥きだしながら纏わりつく炎を払った。
「何故だ? こんな火の海の中、なぜあいつらは平気でいられるんだ?!」
「都合のいい炎ってやつだ」
「燃やす物を選ぶ炎!」ラスティーのセリフに向かって訂正をぶつけるヴレイズ。
「せめてお前だけでも!」ひとりのハンターがエレン目掛けて飛びかかる。
「あら、舐めないでくれる?」
右腕に纏った水を刃の様に鋭くさせ、相手の手首に向かって振るった。すると、ボトリと武器を手にした手が地面に落ちる。
「え? い、痛くないけど……うわぁぁぁ!! 俺の手に何しやがったぁぁ!!」
「ヒールウォーター・メスよ。痛くないでしょ? 安心して、筋肉の筋に沿ってくっつければ半日で元通りに治るから。さ、とっとと帰りなさい」エレンは手首をひょいと拾い、ハンターに手渡した。
「怖いお医者さん……」矢で援護しようと構えていたアリシアは弓を仕舞い、目の前の敵をクローで切り裂いた。
開戦から4分、作戦を狂わされ、士気の削がれたハンターたちは呆気なく倒され、残るは後方で構えていたアーヴィンだけとなった。
「さて、どうする?」小岩に腰掛け、問いかけるラスティー。
「……俺はこの国を代表する王立ハンターたちのリーダーだ! 少なからず誇りはある! アリシア・エヴァーブルー! 正々堂々、一対一で勝負だ! ゼルヴァルトと一戦交え生き残ったその腕、見せてみろ!」指名した彼女に向き直り、剣を構える。
アリシアはクローを振って返り血を地面に飛ばし、相手を睨み付けた。
「……受けて立つよ。あたしに勝てたら、大人しくお縄につきましょう」
「いいのか? そんなこと言って」ヴレイズが心配そうに問うが、アリシアはにこっと笑った。
「いざ!!」アーヴィンが踏み込んだ瞬間、目の前にアリシアが蹴り上げた土砂が飛んでくる。怯まず剣で払うが、肩にナイフが突き刺さり、剣を取り落とす。
痛みで膝を折ったその直後、上空からクローを光らせたアリシアが禍々しい殺気を放ちながら飛びかかってきていた。
「わ、私の負けだぁぁぁぁ!!」大声を上げると、クローが鼻先にチクリと触っていた。
アリシアはにっと笑い、手刀で彼の首を打って気絶させた。
「お見事」
次の日の朝日が昇る頃、戦いの疲れを癒したアリシア達は旅支度を済ませ、西へと歩き始めていた。
「今度はどこまで歩くの?」アリシアが問う。
ラスティーは地図を広げながら指で周辺の村を確認し、目的地を指さした。
「砂漠の国、イモホップだ。そこへ入る前に砂漠を旅する為の支度を、このニコル村で済ませよう」
「砂漠かぁ……始めてだな」ヴレイズは楽しみなのか頬を緩めたが、エレンは表情に影を落とし、声を震わせていた。
「砂漠は苦手なんです……乾いた土地と水使いは相性が悪くて……」
「砂漠が好きって人間はあまりいないと思うけどなぁ~ま、困ったことがあったら俺に任せなさい!」ラスティーはエレンの前で胸を張って見せた。
「じゃああなたが困ったら、私に任せて下さいね」何やら弱みを握っているかのような悪戯な表情を覗かせ、彼に微笑みかけるエレン。
「は、はい……よろしくお願いします……」
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