◆ Name ◆
MO-14(男)と約束した2週間が来て、コミュニティ・プランの日になった。
本当に今日も会えるのかしら?
WD-16(女)は胸がドキドキする、もし部屋に入って知らない男だったら……。
たぶん、自分は泣いてしまうだろう。
不安を抱えながら、白い部屋に入ったらガラスの仕切りの向こうで、MO-14(男)がこっちを見て嬉しそうに笑っている。
これほど2週間が待ち遠しいなんて……。
もう言葉はいらない。
急いでガラスの仕切りをオープンにすると、まるで突進するように、
ふたりは仕切りの中央で抱き合った。
お互いの肌の温もりに、こうして会えた喜びと安心感で身も心も溶けていくような、
そんな抱擁――。
会えなかった時を惜しむようにふたりは愛し合った。
寄せくる波のように、甘美な悦楽に呑まれて、白いシーツの海に溺れていく。
静かな波動……。
全裸で抱き合ったふたりは余韻に浸るように目を瞑り、鼓動を聴いている。
WD-16(女)は心の中で思っていた。
わたしはこの人と出会うために生まれてきたのかも知れない。
そう思うとMO-14(男)に、新たな命をもらったようにさえ思えてくる。
――愛とは不確実なのに、すべての理論より絶対的な存在である。
「どうして僕らには名前がないんだろう?」
ふいにMO-14(男)が言う。
「名前って?」
「Name……昔の人はみんな持っていたんだよ」
「どんなの?」
「生体番号ではなくて、個人の名称で生まれた時に親が付けるんだ」
「そういえば、わたし赤ちゃんが可愛いからプニプニって呼んでいたわ」
「プニプニかぁー、可愛いなぁー」
ふたりで笑った。
「僕らも名前を持とうよ」
そういって、MO-14(男)がほっぺに優しくキスする。
「僕が君に名前をつけるよ、君だけの名称だから」
「Name……新たな命が吹込まれるようね!」
「20世紀のディスクを見ていると、シェイクスピアという1564年生まれの男が書いた物語が幾つもあるんだ」
「うん」
「その人の書いた四大悲劇と呼ばれる物語はたくさんの人々に読まれていたみたい」
「チャイルド・グループでも、小さな子どもたちに絵本の読み聴かせをするけど……大人になると物語はまったく読まないわね」
MO-14(男)は、彼女の話にうなずきながら話を続ける。
「シャイクスピアの物語の中で、ロミオとジュリエットという若い男女が愛し合う物語がある」
「ロミオとジュリエット……」
声にすると、とても美しい響きだとWD-16(女)は思った。
「君にとても美しい名前を付けるよ」
MO-14(男)が耳元で囁く。
「君はジュリエット、僕だけのジュリエットだよ」
「わたしはジュリエット……」
名前を持った瞬間、不思議な感情にWD-16(女)は襲われた。
名前を持つことで、初めて『自分』という意識が明確になる。
わたしは単なる“ 群れ ”一員ではなく、ジュリエットという女になったのだ。
それは長い間、“ 群れ ”社会で封印されてきた、自我の目覚めである。
Nameには、不思議なチカラがあった!
「僕はロミオ……」
「あなたがロミオ」
「そう、この二つの男女の名前は
「ロミオとジュリエット……」
どんな物語か知らないが、その二つの名前はたがいを求め合うように響き合っていた。
「永遠に離れないように!」
生まれたままの姿でふたりは強く抱き合った。
「ふたりのために、僕が“ 群れ ”を変えてみせる!」
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