◆ ある朝、突然に ◆

あの朝、突然に“ 群れ ”に大きな変化が起きた。


男・女・チャイルドの“ 群れ ”のゲートが開きっぱなしになっていた。

いつもなら街中を巡回している、黒い服のポリスロボットも、いたる所で飛んでいる小型監視カメラも見当たらない。

そして街中にある街頭スクリーンテレビとハウス内のテレビには、ひとりの男の顔が映し出されている。


「僕の名前はロミオ。“ 群れ ”のコンピューターはすべて、僕によって制御されています」

ひょろりとした若い男は、あのMO-14(男)ではないか。

「みなさん、今日“ 群れ ”に革命が起きました!」

いったい何が起こったというのか!?


その後、街中のテレビやハウス内のテレビは20世紀~21世紀の映画や歌を流し始めた。

それは恋愛や家族愛のことを謳ったもので、感動的で美しい内容ばかりだ。

初めて見る物語に“ 群れ ”の人々は思わず足を止めて見入ってしまっている。

なにもかも彼らのしらない、過去の世界の物語なのだ。


大きな変化が起きたにも係わらず、“ 群れ ”の人々は驚くほど冷静だった。

コンピューターやロボットたちに管理された社会で生活していた人々……。

社会の法と秩序はコンピューターが握っていたため、彼らは自分たちで考え行動するすべをしらない。

元々、所有欲のない彼らには、社会の変化に動揺するほど、なにも執着するものなど持ってはいない。

ゆえに“ 群れ ”の人々は大きな変化にも従順だった。


“ 群れ ”という柵の中で暮らす、羊のような人々には夢もなく、単に日常を生きていければ、それで十分満足なのだ。


「みなさん、首に埋め込まれたJPチップを無効化します。そして生態番号ではなく、個人で名前を付けましょう。わたしたちは“ 群れ ”の一員ではなく、名前を持ったひとりの人間なのです!」

そしてMO-14(男)は力強く叫んだ。


「我々はもう自由なのだ!」


毎日、流している映画や音楽、そして本のディスクも自由に閲覧できます。そこから自分に合った、名前を見つけてください。親は子どもに名前を与えてください。

スクリーンテレビの男は名前の意味や効果について“ 群れ ”の人々に熱弁を奮う。

テレビの男は“ 群れ ”人々に毎日いろんな指示を与える。

そして“ 群れ ”のロボットたちは彼のプログラムによって、その手助けをしている。


「あなたの赤ちゃんや家族を探します!」


ハウス内のコンピューターから、自分の産んだ子どもたちの居場所を検索出来るようになった。

多くの母親たちは、自分の産んだ子どもたちを捜し始めた。


「女性は自分の産んだ赤ちゃんやその子どもの遺伝子の男性とも一緒に暮らせます。それを『家族』と呼ぶのです!」


段々と、“ 群れ ”に変化が現れた。

そういう生活を望む人々のためにハウス内に部屋が作られた、その部屋で子どもや愛する人を暮らす人々もだんだんと増えてきて、新しい“ 群れ ”の社会形態が出来上がろうとしている。


――250年振りに人々は『家族団欒』という言葉を実践する。


コンピューターの天才児、MO-14(男)はその才能によって“ 群れ ”社会の無血革命を成し遂げた。

誰にも見つからないように、秘密裏に、メイン・コンピューターにアクセスして多くのプログラムを書換えていった。

たったひとりで、その困難な作業をやった革命児なのだ。


そして、コンピューターに管理された“ 群れ ”の人々に自由を与えた!


恋に堕ちた者、家族と暮らしたいと望んだもの……。

そんな罪で、『反逆罪』に問われた者たちは、即刻、その罪を解かれて愛する者たちの元へ帰された。

“ 群れ ”の中には、この変化を喜ぶ人たちも多くいた。

テレビの男は“ 群れ ”の人々に毎日いろんな指示を与える、そして“ 群れ ”のロボットたちは彼の手助けをしている。


自分たちは自由なのだと知った人々は、自分たちの生き方を模索し始めて、新しい社会形態に慣れようとする。

そして『愛する家族』と暮らすことで、生きる喜びを見つけた。

“ 群れ ”は変化している、それを阻止する人たちはもはや存在しない。


一重に、それはWD-16へ(女)の『愛』が起こした奇跡だといえよう。

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