◆ 心の真ん中 ◆
WD-16(女)は、彼のことを考えていた。
コミュニティ・プランで、ふたりは朝まで2度結ばれた。
女性は初めてというMO-14(男)とは、ぎこちない性愛だったが、ふたりの心がリンクしていたので、そういうことは関係なく深く心を通わせた、そんな性愛だった。
セックスは回数や技術ではなく、心が深く結ばれていれば、ただ手を握るだけでも心が豊かになれるものだと……。
女のWD-16(女)はそう思う。
――あれから、ずっとあなたのことを想っている。
こんな感情のことを……。
MO-14(男)が教えてくれた言葉で、『愛』というらしい。
昔の人たちはみんな持っていたのに“ 群れ ”の人たちは失くしてしまった。
その言葉さえ、今は誰も使わなくなった。
『愛』は、醜い所有欲だと“ 群れ ”で教えられたけど……それは違う!
だって、こんなに胸が熱いし、あなたを想うだけで喜びに包まれるんだもの、ふたりは“ 群れ ”のゲージに阻まれて、自由に会うことが出来ないけど――。
別れ際にMO-14(男)が言った、
「2週間後にまた会おう、それまでずっと君を想っている」
その言葉を何度々も心の中で繰り返す。
MO-14(女)、あなたが……あなたが心の真ん中にいる!
先日“ 群れ ”反逆罪でポリスロボットに連行されたWS-21(女)は妊娠していることが判明して、刑の執行が猶予されている。
母親が罪人だとしても、赤ちゃんは“ 群れ ”の仲間である。
その考えから“ 群れ ”では妊婦には刑を執行しない、モラトニアム(猶予期間)があるのだ。
妊娠・出産・授乳の期間が過ぎるまでWS-21(女)は、ほぼ通常と変わらない生活をしている。
体内にJPチップを埋め込まれた“ 群れ ”の人々は何処にも逃げられないし、逃げる場所もない。
生体番号プレートを見せなければ、水一杯だって貰えない社会なのだ。
すべてコンピューターで完全管理された“ 群れ ”の社会では自由なんてない。
――そもそも、『自由』という言葉すら、ここには存在しない。
ただ命じられるままに“ 群れ ”のために働いて消えていく。
ここ“ 群れ ”には、なぜか老人たちがいない。
ある一定の年齢を過ぎると自然に消えてしまうのだ。
何処に消えるのか分からないし、誰も消えた先のことを知らない、そのことを考えようともしない。
“ 群れ ”では働けなくなり、役に立たなければ消えるしかない、それは野生の群れ動物たちの自然淘汰であり、生き物の宿命なのだ。
そのシステムを“ 群れ ”では暗黙の了解だった。
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