◆ ふたり ◆

「そんな危険なことをしても大丈夫なの?」

心配そうに訊ねるWD-16(女)に

「バレた時のことも考えて二重三重にもプログラムを書き換えてあるんだ“ 群れ ”ではコンピューターの情報しか信じないからね」

そしてWD-16(女)の方を向いて、彼女の目を見て

「どうしても……君に会いたくて……」


彼のその瞳には一点のくもりりもなかった。

見つめられて……WD-16(女)はどぎまぎした、なんと答えればいいのか分からない。

実は自分も心の隅でもう一度会いたいと思っていたし、こうして一緒にいられて嬉しい。

――こういう感情をなんと言えばいいんだろう?

赤ちゃんと一緒にいるときの可愛いいと思う感情とは似ているようで、ちょっと違うかもしれない。

『愛』という感情を言葉で表現するのは、とても難しいのだ。


「僕はコンピューターのメンテナンスで古い20世紀や21世紀初頭のディスクを見ることがあるんだけど……」

MO-14(男)が静かに話し始めた。

「その時代の人々は今と違って、男女が一緒に暮らして子どもを作って、同じ家で生活していたんだ」

「えっ、ほんとに!?」

そんな話はWD-16(女)にとって初耳だった。

「本当のことだよ、核戦争の前の時代だけどね」

「……知らなかった」

「一緒に暮らしている男女を『夫婦』って呼ぶんだ、そして同じ血族で暮らすことを『家族』というんだよ」

「じゃあ、自分の産んだ赤ちゃんともずっと一緒に暮らせるの?」

「うん。ずっと同じ性愛相手の子どもを産んで、一緒に暮らして育てていくんだ」

「信じられない、そんなことが出来るなんて……」

WD-16(女)はその話を聞いて、その時代の方が今の自分たちよりも、ずっと幸せに思えて仕方がない。


核戦争の後、人類は約50年間地下シェルターの中での生活を強いられた。

狭い空間の中で、人々はそれぞれ社会的地位や独占欲から水や食料、住居の問題で常にトラブルが絶えなかった。

核戦争で生き残った人々がシェルターの中でまた血を流し合うという悲劇が起こっていた。

お互い自己主張をし合っている限り、内紛は後を絶たず、そうした状況の中で考え出されたのが“ 群れ ”のイデオロギーである。


『個人では何も所有しない』という、究極のである。


その考えが浸透しんとうしていくにつれて、自己主張する者はなくなり内紛も治まり、人々は仲良く暮らせるようになった。

これが“ 群れ ”のイデオロギーの成り立ちなのである。


やがて、地上の放射能汚染が薄れてきたので地下シェルターから這い出して、比較的汚染の薄い南極に人々は移り住んだのであるが、核戦争から約250年の歳月が経っていた。


「あなたは、わたしたちの知らないことを何でも知っているのね」

「昔のディスクをいろいろ観たから知っているんだ」

“ 群れ ”のチャイルド・グループの時にそんなことを教えて貰ったことはない。

ただ、“ 群れ ”のイデオロギーのみを叩き込まれてきたのだ。

「僕は“ 群れ ”の考え方には疑問を持っている」

MO-14(男)は静かに、だが確固かっこたる声でそう言い放った。

その言葉にWD-16(女)は大きく息を呑んだ。


「そんなことを言ってはダメよ!」

もし、ポリスロボットにでも聞かれたら反逆罪になってしまう。

心配そうにMO-14(男)の言葉をWD-16(女)はいさめた。


「君を“ 群れ ”の君ではなく、僕だけの君にしたいんだ」

「えぇっ!?」

なんて危険なことを言うの!

その考え方は“ 群れ ”ではもっとも悪いとされる『所有欲』って感情だわ。

「僕は君を……」

「ダメ!」

これ以上言ってはいけない!

WD-16(女)はMO-14(男)の唇に、いきなり自分の唇を押し当ててしゃべるのを止めさせた。

突然のキスに驚いたMO-14(男)だが……

そのままふたりはキスをしながら、抱き合ってベッドに倒れていった。



無機質な白い部屋の中で

求め合うふたりは

時のベッドに揺られながら

心と身体を重ね合う

この重さ 愛の深さと知る


女の身体を潤し 

熱き 生魂挿入すれば

花弁それを包みこみ

甘き蜜が溢れ出す

男は白き乳房に母をみる


きつく抱き合って

熱く激しく奮わせる

ふたりの咆哮連呼して

繋がった肉体は歓喜する

女の内に白き遺伝子注ぎ込む

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