◆ 再会 ◆

コミュニティ・プランから2週間がたった。

WS-21(女)の事件ですっかり心がふさいでいたが……。

なぜか、WD-16(女)は時々あの日のことを思い出していた。


何もせずに別れたあの青年の気弱な笑顔を――。

別れの挨拶に差し出した手の温かな感触を――。

不思議な人だったなぁー……。


コミュニティ・プランで、身体を重ねた男性は何人もいたけれど……。

握手だけで終わった、あの人の方がはるかに印象に残っている。

ホントに変な人だったわ、思い出しても笑みが零れる、こんな気持ちになったのは初めて……。

なんだろう? このざわめくような感情は?


そろそろ次のコミュニティ・プランの日がやって来る。

それを考えるだけで憂鬱なWD-16(女)だった……。


そして、また、この部屋の前に立っている。

透明の球体に手をかざすとドアは音もなく開く。

幾度となく入室したことがある、コミュニティ・プランの小部屋である。

全部同じ作り真っ白で無機質な冷たい部屋。ここは大嫌いだ!

嫌だぁー……帰りたい、そんな気分のWD-16(女)だった。

ハァーと深いため息がでた。


前回は『YES』を押したので、

今日は『NO』を押してさっさと帰るつもりだった。


部屋に入るとガラスの仕切りの向こう側で男が待っていた。

そちらを見て、「あっ!」とWD-16(女)はおもわず声がでた。

彼はこっちを見てニコニコ笑っている。

まさか? 前回のコミュニティ・プランで一緒になった、あの不思議な人ではないか。


「どうして、あなたが?」

通常、コミュニティ・プランで同じ相手と連続であたることは、まずありえないし、聞いたこともない。

これはコンピューターの不具合だろうか?

仕切りのガラスを開けるべきか、どうしようかWD-16(女)は迷っていた。

だけど、心のどこかで彼ともう一度会いたいと思っていたので、たしかに嬉しい気持ちもある。


「こんばんは」

マイクから聴こえた声は、たしかに聴き覚えのある声だ。

「ガラスの仕切り開けて貰えないかな?」

少し遠慮がちな声でMO-14(男)が訊いた。

その言葉に反応するように、WD-16(女)は『OPEN』のスイッチを押してしまった。


「驚かせて、ごめん!」

ガラスの仕切りを開けて、ふたりはベッドに腰掛けている。

なんだか訳が分からない内に、彼のペースに乗せられているとWD-16(女)は思っていた。

「どうして、あなたが……」

いぶかしげな顔で訊ねた、とても不思議で仕方ない。

「うん、君とまた会いたくて……」

テレたように笑いながらMO-14(男)が答える。

「だけど……いったいどうやって?」

「コンピューターは僕の顔じゃなくて、身体に埋め込んだチップや生体番号のプレートで個人を識別しているんだよ」

「……うん」

「だから僕はコンピューターに嘘の情報を入れて、別人になりすまし、君とコミュニティ・プランを組んだんだ」

「嘘?」

「本当だよ」

「そんなこと出来るわけないわ!」

「僕なら出来るんだ」

そう言って、イタズラっぽくMO-14(男)は笑った。


生まれつき知能指数が非常に高いMO-14(男)はチャイルド・グループの時から、特別の施設で英才教育を受けてきた。

13歳で彼はアカデミーを卒業して、コンピューターシステム・エンジニアの『マイスター』という“ 群れ ”全体でも100人もいない特別のライセンスを持っている。

だから、勝手にコンピューターのプログラムを書き換えてもよいのである。

その中でも、彼は特にと認められて、メイン・コンピューターともアクセス出来る数少ない人物のひとりなのだ。


MO-14(男)の説明を聞いても、WD-16(女)はチンプンカンプンでぽかんとしていた。

“ 群れ ”社会では完全な役割分担が決まっていて、自分の仕事以外での知識はほとんど皆無かいむである。

ただ、このひょろりとした青年が、実はだということだけは十分に理解できた。

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