◆ 病院 ◆

MO-14(男)が意識を取り戻したとき、最初に目に映ったのは天井から光る青白いライトだった。

真っ白な壁の部屋の中で、医療器具の音だけが聴こえていた。

かすかな消毒薬の臭いで、ここが病院だと分かる。


「あぁ、生きている」

取りあえず、身体のあちこちに意識を込めたが、無くなった身体の部分はなさそうである。

あの衝撃の割には、どうやら軽症で済んだようだ。

少し安堵したMO-14(男)だが……チャンピオンはどうなったんだろう?

自分が追い上げようとしたために、焦って無茶をしてクラッシュしたチャンピオン機。

あのクラッシュでは、たぶん……。

MO-14(男)は、自分のせいで事故が起きたように思い……、

罪悪感でいっぱいになった。


翌日、ハウスのルームメイトたちがお見舞いに来てくれた。

“ 群れ ”では家族ではなく、共同生活なので、一緒の部屋で暮らしている。

ルームメイトたちが家族のようなものである。

「よく生きてたなぁ?」

「無茶しやがって!」

「このバカもんがぁー」

みんな、口々に好き勝手に言っていたが、MO-14(男)の無事を心から喜んでくれていた。

ケガは左肩の骨折、肋骨にヒビが入った程度で、1週間も安静にすれば完治するものだった。


「おまえ、“ 群れ ”のスノーモービル壊したから、帰ったら始末書かけよ!」

一番年配のルームメイトが笑いながら言った。

「あぁー始末書か……」

急に浮かない顔になった、MO-14(男)を見てみんなで笑う。

それにしても、初参加のスノーレースで、あそこまでチャンピオン機を追い詰めたMO-14(男)に対して、彼らは心の中で、を贈っていた。


入院して5日目、いよいよ明日は退院だ。

“ 群れ ”の医療テクノロジーなら、骨折くらいなら4~5日で完治できる、明日は仲間たちの待つハウスに帰れる。

すっかり元気になった、MO-14(男)は退屈でうずうずしていた。


看護用ロボット・ナースのシステムを勝手にイジって、まるでペットみたいに自分になついて、どこでも付いてくるように改造した。

アンドロイド型の看護用ロボット・ナースは入院患者の健康状態を管理するロボットである。

熱・脈拍・血圧など調べて、患者の状態に応じて調剤し注射や点滴など医療処置をする。

他にも食事やリハビリの介助なども、こまごまとした身の回りの世話まで焼いてくれる。

だから、病院内は患者と看護用ロボット・ナースしかいなくて、ごくたまに、医師が医療機ロボットと看護用ロボット・ナースを連れて回診にまわってくるが、診察するのは常にロボットの方で、医師はロボットのデーターをうんうんと頷いて見ているだけだった。


“ 群れ ”社会では、コンピューターが管理し、ロボットたちが実践して、それらを人間がメンテナンスしている、そういう社会構造だった。


若干15歳のMO-14(男)だが、コンピューターシステム・エンジニア『マイスター』の称号を持っている。

たぐいまれな才能を持つ彼は、“ 群れ ”全体でも100人もいないような、コンピューターシステム・エンジニア『マイスター』のひとりなのである。

その称号を持つ者は、自由にコンピューターのシステムやメンテナンスをおこなってもよいとされるが与えられていた。


看護用ロボット・ナースを彼に従う、忠実なペットに改造したら。

今度は病院のコンピューターのシステムでも見てやろうと退屈なMO-14(男)は、ナースを連れて病院内を歩き回っていた。

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