◆ 氷洞 ◆

このまま行けば、巨大な氷洞ひょうどうがある。

自然が創った氷河のトンネルだが、あそこは狭いし、あっちこっちに氷の岩や氷柱があって、障害物が多く、たいへん危険なコースなのだ。

一気に追い抜ける最短コースではあるが、あまりに危険過ぎるので選手たちは、このコースを誰も選ばない。


「トップの機体は、あの危険なコースを行くつもりなのか?」

MO-14(男)の機体は、トップの機体の後に続いた。

レース中に追い抜かれそうになったら……逃げ切り用のコースとして、あの危険なコースも秘策ひさくとして、一応、コンピューターにプログラムしておいたのだが……。

チャンピオンも同じことを考えていたようだ。


「逃げ切らせない!」

普段は大人しいMO-14(男)だが、スノーレースでは男の闘争心がめらめらと燃えてきた!

逃がすまいと、彼の機体はチャンピオンの機体の真後ろにぴったりと張り付いた。

たぶん、トップのチャンピオンはかなり面食らっていることだろう。


「どうしても、あの危険なコースを突っ走るつもりなんだ」

いぶかに見ていると、トップの機体は氷洞の中へ突っ込んでいく、吸い込まれるように、MO-14(男)のスノーモービルも続いて入っていった。

氷洞の中は狭く、障害物が多く、おまけに視界も悪い、これは危険だと察知して、MO-14(男)の機体はスピードを急速にダウンさせた。

先頭のチャンピオン機は凄いスピードで疾走し続けている。


「危ないなぁー」

MO-14(男)は、ここを抜けられるだけで運がいいとさえ思った。

やっぱし、このコースは危険過ぎる、ちょっと後悔し始めた。……瞬間、前方で閃光せんこうが走った、その後に轟音ごうおんが鳴り響いた。

トップのチャンピオン機が、障害物にぶつかり大破たいはしたのだ。


「あっ! やってしまった!」


あまりのことに、MO-14(男)はしばし茫然自失ぼうぜんじしつ……。

その時、クラッシュして飛び散った機体の部品がMO-14(男)の機体を直撃した。

衝撃でバランスを失い、機体が横倒しになり、スピンしてクルクルと氷床を滑っている。

「ダメだっ!」

ハンドル操作ができない。

「うわっ、ぶつかる!」

MO-14(男)は、とっさに安全ベルトを外して飛び出す!

そして、その衝撃で氷床に全身を激しく叩きつけられた。


気を失う瞬間、自分の乗っていたスノーモービルが、氷柱に激突して、炎上するのが見えた。

まさに間一髪だった!

「助かった……」

安堵あんどして、MO-14(男)は意識を失ってしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る