◆ Mother ◆

不貞腐ふてくされたようにベッドに横たわる女……。


「嫌ならなんにもしない、だから君のことを聞かせて欲しいんだ」

MO-14(男)は諦めて、彼女と話をしたいと思っていた。

「えっ?」

その言葉に驚いて、WD-16(女)は目を開けて相手の男をまともに見た。

背丈は大きいがひょろりとして、気の弱そうな優しい目をしていた。

嫌いな顔ではない、見覚えのある顔だ、そう誰かに似てる?


「あなたの顔見たことあるわ」

「……えっ?」

「その目が同じ、鼻と口元もよく似ているわ」

「いったい誰に?」

彼女はベッドから起き上がり、面と向き合った。

「あなたの顔、WF-02とそっくりだわ!」


WF-02 W-Woman(女)、F-February(2月)、2日生まれ。

その人は彼女のルームメイトである。

ハウス内にある、1ルームに10人ほどで寝起きをしている。

年齢も職種も違っているが、年長者が若い者の面倒をみながら“ 群れ ”の秩序を守って、女たちだけで暮らしている。

WD-16(女)がチャイルド・グループから、このハウスに移って来てから、ずっとWF-02(女)とはルームメイトだった。

最初の頃、慣れないことばかりで戸惑とまどって泣いていると……いつも傍にきて、WF-02(女)が手伝ってくれた。


「なぜ、そんなに優しいの?」

……て訊いたことがある。

「あなたと同じ年頃の子どもを産んだことがあるから……」

「赤ちゃんを?」

「だから、放って置けないのかなぁー」

と答えた。

ふたりの年齢差は確かに出産者と赤ちゃんほど離れている。

赤ちゃんのことで前に叱責されたことがあるが、いつもは面倒見の良い優しい女性なのだ。


“ 群れ ”の団体生活の中では、親子の絆を断ち切ってしまわなければならない。

この世界では、『Mother』という言葉は存在しない。

それでも年上の女性には、なにかしら甘えたいと思う感情が湧くものである。

そして年上の女性もまた、年下の彼女を放っては置けないのだ。


「その女性は僕を産んだ人かもしれない」

「どうして分かるの?」

「一度だけ会ったことがあるんだ」

「まさか、本当に?」

「うん、偶然だけど……」


この世界“ 群れ ”では親子が対面するなんてことは希有けうである。

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