◆ 乳房 ◆

WD-16(女)は、繁殖行為が大嫌いだった。


コンピューターの選んだ相手は毎回替わり、身体を重ねても心が重なることはない。

子どもを作るための“ 群れ ”の大事な義務だと考えていたが……自分が産んだ赤ちゃんを取り上げられてからは、嫌悪感がつのり……。

「どうして、女になんか生まれたんだろう?」

そんな疑問が、WD-16(女)の胸の中でくすぶっていた。


あんまり早くハウスに帰ると、コミュニティ・プラン管理者に怪しまれるので、わざと男を焦らして時間稼ぎをしていたのだ。

嫌なことは、さっさっと終わらせたい!

彼女は“ 群れ ”に対して反抗的な気分だった。


「私、ハウスに帰りたいの!」

怒ったように、彼女は勢いよく服を脱いだ。

いきなり、むき出しの乳房にMO-14(男)は目が眩んだ。

「早く終わらせて……」

そう呟いて、彼女はベッドに潜り込んで目をつぶった。


なぜか? 理由は分からないが、彼女はひどく不機嫌で怒っている。


初めてのコミュニティ・プランで、嫌がっている女性と交わるのはやるせなくて……。

MO-14(男)はとても悲しくなった。

彼女の方に目をやると、むき出しの乳房が青白いライトのせいで、蛍光しているように白く光って見える。


それは水銀灯のようにはかなく美しかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る