◆ ガラスの仕切り ◆

彼女は、僕と同じくらいの年齢だろうか?

アジアン系の黒い髪を腰まで伸ばし、後ろでひとつにまとめていた。

細身で華奢きゃしゃな感じがするが、ふくよかな胸を白い薄布で包み、柔らかな色香をかもしていた。

彼女はベッドに腰かけ、大きな黒い瞳でじっとこちらを睨んでいる。


「こんばんは……」と、挨拶をするが返事がない。


MO-14(男)は同じアジアン系で身長は180㎝くらいあるが痩せてひょろりとしている。

わりと端正な顔立ちで、目元は優しげで、人懐っこい笑顔だ。

入室して1時間以上経つのに、女はひと言もしゃべらず、じっと動かない。

自分は初めてだし、きっと頼りないから断わられるのに違いない、どうしようもない居心地の悪さに、逃げ出したくなったMO-14(男)だった。


『NO』なら、『NO』と、ハッキリしてくれ! 

心の中でMO-14(男)は叫んだ。


通常、初参加の者には経験豊かな相手が選ばれることが多い。

どう見ても自分と歳が大差のない相手というのは珍しい、ハウスの年上の仲間たちから、いろいろ予備知識を仕入れて、コミュニティ・プラン初参加にいどんだが……。

みじめな結果になりそうで、MO-14(男)は仲間たちへの言い訳のセリフを、あれこれと考え始めていた。

もう相手に掛ける言葉が見つからず、ため息ついたとき……。


いきなり、中央のガラスの仕切りが開いた。


驚いて、MO-14(男)はイスから立ち上がった。

急に心臓がドキドキし始め、自分でも顔が赤くなるのが分かる。


「こんばんは……」

小さな震える声で彼女が挨拶をしてきた。

「そっちに……行ってもいいんですか?」

MO-14(男)は彼女に訊くと、

「ええ……」

小さく頷く。


ゆっくり歩いて、ベッドまで行くと彼女の隣に静かに腰かけた。


「はじめまして……」

「よろしく……」


この世界“ 群れ ”では名前を名乗る習慣はない。


間近に見た彼女は憂いをおびて哀しげで愛らしく……。

一瞬、胸がしめつけられるようなが、MO-14(男)の身体を駆け抜けていった。

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