夜が終わり、朝が恵む。

「朝恵、ドライブ行こうぜ」

 恋人、と言えるかどうかも微妙になってきた同居人は唐突にそんな言葉を口にした。

「啓次車持ってたっけ」

 唐突な言葉に返せたのはこの一言。その言葉には「兄貴に借りた」との返事。「久々に写真撮りたくなった」と更に付け加える啓次に、行き先は海だな。と当たりをつける。啓次が写真を撮りたいと言い出すときは大抵海だ。「いいよ、つき合ってしんぜよう」そう返せば、私も自分のカメラを持ち出しに部屋に足を向ける。


「それにしても、久々だね」

 啓次が車を飛ばして着いたのは、家から一時間も掛からない場所にある海岸。私たちの他には誰もいない雪の浜辺に波が静かに打ち寄せている。

 カシャリと海岸線に向けてシャッターを切りながら、後ろでファインダーをのぞき込む啓次に声をかける「ホント久々だよな。お前はフラフラ海外で撮ってるんだろうけど」啓次の言葉に「まぁね」と返しながら、私にレンズを向けていた啓次へレンズを向け返す。「でも、啓次昔から変わらないなぁ、その癖、まだ直ってなかったの?」

 大学時代にサークルで写真を撮りる為に一緒に行動していた時からの癖だ。啓次は同行者の写真を撮りたがる。シャッターを切っている姿を後ろから撮る啓次の写真は嫌いじゃないけども、まだ続けてたのか。とちょっとだけ呆れる。

「癖じゃねぇよ。大学の時に他の奴らも撮ってたのはカモフラージュ。撮りたかったのは朝恵だけだぜ?」

 そんな軽口を叩きながら、私に向けてシャッターを切る啓次はいつも通りの軽薄な表情で、私は更に呆れてしまう。

「それって告白のつもり?」

 そんな軽薄な表情を浮かべる啓次をレンズに納めてシャッターを切りながら問えば、「まさか。告白はちゃんとしただろ、大学時代に」という返答。

「そういえばそうだったね」

「俺の一世一代の告白はそういえばで片付けられるのかよ」

「え、あれ一世一代だったの?」

 私の純粋な疑問に、啓次はマジか。と思わず出てしまったような声を上げる。首からカメラをぶら下げて、ため息と共に自分の頭を掻く啓次の姿にあ、コレは本当にそうだったんだ。と納得をする。ダラダラと続いているこの関係は惰性だと思っていたけれど、啓次としては違うのかもしれない。再考の余地がある。そんな事を考えていれば。啓次は上着のポケットから何やら取り出して私に向けてその何かを放り投げる。思わずキャッチしようと伸ばした手の中にその小箱はスッポリと収まって相変わらずな彼のコントロールの良さに心の中だけで拍手を送る。「ホント、こう言うところ器用だよね」「俺を何だと思ってるんだ」

 器用貧乏。と言ってやれば、啓次の表情は呆れの表情に歪む。「良いから、開けてみろ」と手の内にある小箱をいつの間にか出していた煙草で一歩すら踏み出しもせず指し示す。

「何に見える」

 啓次の問いに「給料数ヶ月分位しそうな高級指輪」と返せば「その心は」と更に重ねられる。

「結婚しようぜ?」

「正解」

 籍入れたって関係はかわんねーだろ。と付け加えながら啓次は煙草の煙を吐き出す。

「え、何、私三上朝恵になるの?」

「俺が終夜啓次になるんだよ」

「婿養子?」

「ちげーよ。名字をお前の方にするだけ」

 折角綺麗な名前なんだから変える事もねーだろ。と啓次は笑い、「で、どうする?」と私の返事を促す。

「プロポーズするなら私に指輪填めてよ」

 そう返せば、意外と環境に優しい啓次は携帯灰皿に煙草を押し入れ、笑って私の元へと足を踏み出した。

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