第2話

太郎は灯りに驚いた。時間は何時かな?太郎は夜目が効くし、必要ないのもあるが、こんな場所に電気は通ってない。家の周りに複数の光がついている。少しの警戒とかなりの興味。この和風テイストの警備もない家に訪問者とは、それはそれで奇矯なものだ。だが、まぁ夜分の訪問者は困った本人か、こちらを困らせるかどちらだろうな。内心の興奮は抑えられない。

「あのの、のぉ、なぁー。いるガァ!」

聞いたこともない声だ。叫びつつ少しかすれている。誰だろう。

太郎が玄関先に出ると電気を持つ何人もが確認できた。認識すると6人。夜目をこらし、見た。なるほど、先日の若者とその関係者か。

「はいはい、逃げも隠れもしませんよ」

若者より頭ひとつ上か。追加は三人。こいつこいつ、と騒いでいる。

男性二人に女性一人。若者とその、保護者かな、構成もそのまんまか。単に二倍だ。親分?よくわからないが、まぁそんなところだろう。

「うちのらら、ら、に。やってくれてなぁ。どう返すんじゃあぁ」

あゝ、懐かしい。懐かしい。どこの言葉だったか。

「すいません、こちらに振られたものを、そのまま返してしまい。事故です」

太郎のそのイノセントな言いぶりに、これらの人間はさらに怒ったようだ。もちろん何してもそういう風に言うんだろうが。

「何で返すんじぉじぁゃ、何で返すんじゃゃ、ん?われりゃぁ」

われりゃあも何も、私一人しかいないわけだが、ここは突っ込んでもしょうがない。日本語なんて、とうに変わったんだろう。

「カネか、お前が死ぬか、どうすんじゃ。アァォアァァ。」

ああ、二回目も崩壊した人間の言葉か、次第に飽きてきた。このパターンに。

ということなので、太郎は使うあてのない金銭を持ってきた。使う機会もないし、使えたとして意味もないので玄関においてあった。黒装束と防護服がもたらす交換品だ。交換できれば結構な金額のはずだ。

「こんな、なんじゃ意味ないやろぉぉぉぉ。うちのが、こんなんんじゃぁろぉぉぉがァァ」

後ろにいる若者は大した怪我ではなかったのだろう。キズと思しきところにメディカルパックを貼り付けただけだ、良かったと安堵した。津波が来ないものすごい遠方まで医者などいなしいな。

手に入るもので何とかなったのか。ここにいる人間は、分けられた用途別のメディカルパッチ、パック、シート。いくつかの色分けされた何にでも効くと言う名の、カプセル。そして、シリンジ。ぐらいしか医療を知らんだろう。これが効かなきゃ基本的に死ぬ。

もちろん、金の価値も知らないだろう。

もしかしたら医者も知らんだろう。メディケアなんてもってのほかなのだろう。それより武器の方が手に入れやすいのか。

しかし、しみじみ懐かしくも興味深い。何しろこんなに人間をみた。僅かだが。面白い。

「こんなぉ、カネでなにできんのや。できんの、のぁや。こんなカネで、お前、元に戻せんのかぁ?」

この質問は哲学的だった。世界は元に戻らない、ほぼほぼ絶対に元に戻らない。カネを使ったことなどないだろう。だからこの人間もわからないはずだ。だからこそ怒っている。なぜかは考えず、怒り、泣き、笑う。自由はここにある。使い方を知らないだけで。

「すいません。すいません。」

太郎は、初めて玄関で、正座した。頭を下げる。これが土下座だよな。あゝ。らしさ。

「おのれ、れ、なぁ。あやまって済むならケ、けーイサツ。いァ、いらんのでなぁ」

しかし警官か。たくさん見たし、死んだなぁ。こんな場所にはいない。呼んでも来ない。警察というものは知ってるのか。見たことはないだろうが。

「アァぉ、なぁ。だからなぁ」

脅しなのか。それとも殺意なのか。ありし日のの短銃と、オールドタイプのドス。ドスというのは握りてが真っ直ぐ。ナイフとは違う。二つの前時代らしいものに太郎は涙が流れそうだった。そうだ、そうだ。かつて人間は暴力の象徴がこんなものだった。だが暴力を手にした人間の行動はあまり代わり映えしないものだ。

「あァァ。お前こいつらに、もぉぁっと謝れやぁ。」

刃物は胸先に拳銃は頭に。シンプルだ。殺傷率は高い。少しは刃傷沙汰にはいたかもだが、実行はしてないな。ルール通りは素人のやることだ。彼らは怯えるのを待っていた。命乞いを待っていた。そうだ、あっちに6つ。命があって、何かしようとしている。なるほど。怯えてみよう。命乞いをしてみよう。こちらは被害者の素人だな。

「すいません。すいません。すいません。なんでもしますから。助けてください」

若者たちが感心している。成功かな?奴らは満足するか。

「お前、たて。たてぉ。たてぁ。歩けゥ。あほぁァ」

エスカレートするのか。ルール通りは現実に対応しない。

こだての階段を降りて、海に向かう。え?まだ、そこまひっぱるの。まぁこっちは楽しいから良いけど。飽きてはきた。

15分歩く。撃てばいいのに。刺せばいいのに。とっとと。

「ここか?」

「ここにカメがいてさ、おっさんかかってきて」

太郎は大柄に、頭を掴まれ岩に擦り付けられ、細かな血が流れる。

「殺せォ、殺せォ、殺せォ、殺せォ」

数人が叫ぶ。もっと痛めつける演技か?

「わかった、おまえ死ねや」

二人目の男、小さめの。こいつは奇妙な言葉じゃない。

が、あいくちを腹に刺した。言葉と暴力は反比例か。いい判断だ。

太郎の腹からそれほどでもない血が流れる。

「オヤジ、こいつゥ苦しんでるォ?苦しんでるァ?」

「ショウ待てや、わからん、わからぁんァ、コレもサしたん初めてやォぉし」

刺した二人目は黙り込んでる。他は騒ぐ。

女の年上がいう。

「生きてる?」

また数分がたった。だいたいここにいる総員?死体すら見たことなかったんだろう。確かめたことも。何も。

顔が近づいてきた。太郎の顔に誰かがよる。

「こいつ息してない。動いてない。死んだんじゃないか。」

刺した小男が言った。確かめるように、慰めるように。宣言する。

こいつは死んだ。

後の5人の落胆がもれる。もっと遊びたかったのか、其れとも殺した後悔か。

「終わり?」

小さな女が言う。そう終わったのだ、おもちゃが動かなきゃ、もうどうしようもない。

「お前らォさ、死んだ奴ォ、はじめて見てォない?」

太郎はそれらの顔は見ていない。動いてないし目を閉じてたし。気配で動きはわかるが。

小さい男がわきに。結局、六人が、血を流し倒れた太郎を囲むことになった。

笑っているものもいれば、奇妙そうに覗き込むものもいる。

「まま、ま、ぁ、ォ、いるゥから。そコォぁ。カメもやっちゃう?ショウ、こよぉカメやぉ。」

運悪く横にカメが近くに来ていた。太郎へとは違い話さない。

マズイな。太郎は考える。この人間だがヒトガタだかを少し止めて、それから100kgは下らないカメを逃す。

カメは手足を甲羅に入れていたが、首元から何か液体が流れていた。

太郎は起きた。6人は反応しない。動けない。

とりあえず、喉を手首の返しで突き、胸を手のひらで強くおさえ、背中を肘で打った。一人2秒。

これほどではケガもしなければ、倒れもしまい。

腕が落ちたな。こんなにかかるとは。久方の人間を止めるためとはいえ、手を出すのは心苦しい。と見極めの不手際がよぎる。

そして、問題のカメだ。人間をこれで止めれて90秒は稼げる。なんとかせねば。

振り返ると、高速の光る物体が現れた。回りながら飛んでいる。

太郎は伏せた。

多分、選んではいないのだろう。少なくとも見ていない。その場の人間のすべてがチギレ、ハギレ、6人分の残骸が発生した。もはや遺体と確認できるのは膝からしただけだ。地上近くまで飛んだのか、肉と体液だった何か。


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