アンデットオールドテールJps

いいじ「まま」め

第1話

いつのことやらはわからない。浦島太郎がいた。

太郎は汚染や塩害で好まれない「その」海の近くの小高い場所に家を建て、一人で暮らしていた。


太郎の仕事は海の状態が良い時だけでる近海漁船の乗組員。防護服でそれらは人間かはよく分からなかったが。

あるいは自分で釣りを行い汚染値の低い魚介類を売り、細々と暮らしていた。

「海はいいなあ」

毎朝、太郎はそう叫んでは海に向かっていた。


だがその海近くに住みたがるものは少なく。またかつて開設されていた公共住宅の多くいは低所得者あるいは行くところのないものばかりが住人だった。

汚染がコントロールされた一部の海遊できる海。

これを特海という。

「その」海は既に人もゴミも投棄されるような場所だった。

ある日太郎が、丘の上に建てられた巨大防波堤「地獄へようこそ」と落書きれたものを超え、岩だらけの海岸線。船着場だったでろうかつてのコンクリートを歩き、岩だらけの曖昧な海岸線を歩いていた。

そこでヤケに派手な洋服が見える。

見ればあまり海には来ない、10代前半だろうか二人の男と一人の女が何かを踏みつけている。

このあたりの人間としては懐古趣味の太郎は近づいた。

今では珍しいウミガメだろうか。大きな甲羅を踏みつけている。

「君たちやめなさい」太郎はつい声を出していた。


「なんだぁ。このおっさん、何か巻いてっぞ」

太郎はこの若者はかつての和服も知らないのかな。むしろこの若者たちが可愛く思えた。

すると、その三人組は甲羅から離れると太郎に向かってくる。一人はいつもそうしているのであろう。鉄線のような太い凶器を振り回し、一人は錆びた細い鉄柱を振り回してくる。女は笑って追いかける。

太郎はなお増して、このような人間が未だにいるのか。心でも顔にも現れたかもしれない。笑んだ。

さらに、ウミガメには使わなかっただけ、さらに好ましく思えた。単に太郎が久しぶりに見た若年の人間だったからもしれない。

「ッッッッッガァァウォオ」

闇取引の魚介商品のマスク姿よりはるかに奇妙な声が迫ってくる。鉄線が太郎の肩に食い込み、鉄柱は腕に絡んだ。

血が若者たちにかかる。その刹那、若者たちは勝利を確信したようにニヤついた。

太郎は一層ますます嬉しくなり、その鉄線を勢いよく返し、鉄柱を跳ね返した。


あ、しまったと思う瞬間。それらの凶器は持ち主に戻ってしまった。彼らの身体に。

後ろの女の薄ら笑いか消えるのが太郎に見えた。

「イテェェェ、ズゲェェェェ」

それは日本語かね。と太郎は思ったが、他人の血は見ていても、自分の血は見たことがないらしい。

追いかけもしないのにやたらと急ぐ振りで去っていく。

あゝ久方の人間に悪いことをしてしまったな。と太郎は嘆息した。全身保護装束の闇取引業者。決死隊の漁民以外は見ていない。いずれも顔は見えん。顔をよく眺めていれば良かった。太郎は自身の負った傷よりもおのれの人懐かしさに驚いていた。

そこには甲羅だけが残った。甲羅から手足が伸びている、あゝ生きている海亀なのか。そんなものが未だいるとは、人間に感心した後に、さらに生物に感心する自分の愚かさに嘆息するも心が動くのはおもしろい。

「もしもし、そこのお方」

太郎は自分の耳を疑った。カメ、が話しかけている?ついに自分が狂ったのでもない限り、カメだな。だいたいカメの声帯にこういう周波数を出せるのか?

「もしもし」

「ええ、カメさんですか?」

太郎が答えるとカメも答える。

「なるほど、あなたも言葉が使える人間なのですね」

カメ、そこかよ。自分の方がよっぽど言葉を使えるのが自然だろ。と思いながらカメに答えた。

「いかにも、しかし私に何のご用で?」

まぁ、自分でも少しおかしな返事だが予想外の生物から話しかけれれば、そう答えざるを得ない。

「はい。先ほど助けていただいたお礼を」

カメ、その口元から音を出しているのかな。結構低くていい声じゃないか、甲羅に反響しているのかね。と考えながら太郎は答えた。

「いえいえ、久しぶりに人間も見れたり、しゃべるカメさんにお会いできたし、世界も捨てたもんじゃないです。カメさん、早く遠くの海にお帰りなさいな。地上も海も危ないのでね」

カメは食い下がった。

「それではお名前だけでも」

「私は、太郎。浦島、浦島太郎だよ」

太郎は笑いながらその場を後にした。出血しながら。

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