34話 渡り鳥は飛び立つ


「続きまして、渡利千冬さん」

カタ、と隣の椅子が揺れる。役者でしか生きられない彼女は"今の役"に集中する。私や亜美の描いた役になる。

にーー。


「皆様、御機嫌よう。2年3組渡利千冬です。先程の姉の演説より内容は劣りますが、聞いていただけると幸いです。

私の掲げるマニュフェストは、今まで言及されたことのない裏派閥の廃止です。夢物語かもしれません。でも、私は潔白な学園になることを信じています。」

一礼をし、千冬は壇上から降りた。

「よく言わせたね、一番クリーンじゃないキミがさ」、二つとなりの千春さんが皮肉を込めて私を笑う。

なんかいない、千冬は役を演じただけ。

2日前に提案した役をすぐに作り上げ役になりきっている。天才はやっぱり違う。

「言わせてなんかいませんよ、分かっている癖に」

口角があがる。これはよくない笑いだ。口元を隠し口角を下げる。

「この状況で笑えるなんてとんだバケモノだね」

ーーバケモノ。驚いた。だってそれは

「私みたいな凡人にはもったいない言葉ですね」

天才は超えられない。だから団結するしかない、一人は多数に勝てない。

しかしまた、その有象無象を破るのも天才だ。

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