32話 笑顔
西寮2階。渡利千春個室前、妹・千冬の姿がそこにはあった
「千冬。どうしてアンタがここにいるのよ」
「お姉、わたしわかったよ。どうしたいのかも、どうするべきなのかも。」
虚ろな目に虚ろな表情をした妹は、哀れにもぼろぼろの心で生きている。演じては裏切られ、傷つけられ、罵詈雑言をぶつけられ、それでも立ち上がっている。
「休むべきよ。もう見てられない」
「またお姉を食い止める。だから、ちゃんと出来たら褒めてね」
虚ろな目で、空虚な笑みで、そう言って笑う。
「やめろ、やめてくれ。誰の脚本だ。安倍真理か。許さない。」
こんな哀れな人間は見たことがない。また、誰かを千冬は純粋に信用しているのだ。私に晴香になれと言われたように。私を突き落とすように誰かに言われたように。
「お姉ちゃん、もういいの。千冬はね、たくさん舞台を用意して貰ったよ」
誰に、と私は考えるより先に口が動いていた。
『謎解きは最後にしないと』
妹は役のままわらった。その笑みは残酷な程美しく、醜いほど歪んで見えた。
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