31話 黒に染まる
「杜若せんぱーい、そうなんですかー、残念ですー、ぼくぅ、こんなことしたくないのにぃー」
棒読みの口調とは真逆に笑顔を浮かべた蜂谷は金槌を振り上げた。
「暴力馬鹿、私に代われ」、そんな鞘橋の声も聞かないくらいにノリノリだ。
「50とはいかなくても30なら!30なら確保出来るんだ!ただー」
「知ってますよ、椿さん渡利前会長に投票するんですよね」
口を噤み、杜若さんは黙った。汗が額から滴り落ちる。
「わたし、約束を守れない人が嫌いっていいましたよね。30、守れているじゃないですか。顔を上げてください、杜若先輩」
「安倍ーー」
「でも、お姉ちゃんと辰巳さんを検挙しちゃって、この混乱はどうするんです?」
「ふ、風紀委員会が安全を守る」
ダラダラと脂汗を流しながら他所を向く杜若先輩の顔を両手で持って、固定する。
「流石風紀委員立派ですね。でも、飢えた蜂谷を私は止められないので、よろしく頼みますね」
パソコンの電源をつける。馬鹿でかい学園の片隅にある廃倉庫なんて、誰も気に留めない。もしも誰かに見つかったら、私は会長なんて目指さなくてもいいのかもしれない。目指したい、目指したくない、ジレンマを抱えながら目の前の画面と向き合う。
蜂谷の振り下ろした金槌が、先輩のどこかにあたって悲鳴と共にグチャっとした音が聞こえる。満面の笑みを浮かべる蜂谷が頭を狙おうとしたので、慌てて抱きついて止めた。人は死なせちゃいけない。
杜若先輩は必死に走り去った。血が出なかったことに不満げな蜂谷は、口を尖らせてソファーに寝転がった。
「2人とも、満足させてあげられなくてごめんね。」
呟いた言葉に2人はきょとんとした顔を浮かべる。
「先輩、馬鹿なんですか。暇なら暴力馬鹿と遊べばいいんですよ」
「僕も先輩だけど~?!刀馬鹿!怖がって逃げていかないだけで僕は嬉しいよ」
暴力の権化ともいえる2人は笑う。私はもう戻れない。黒に染まってしまっていた。
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