30話 プレゼント


「話ってなにかな、渡利さん。」

「勘のいい君ならわかっているだろ、吹坂風紀委員長殿」

淡々と書類をこなしている吹坂椿は顔をあげないまま口を開いた。

「検挙の話しなら私は一切関係がないわ、だから帰ってくれませんか」

「違う違う。2年生の策略にやられっぱなしで苛ついてないかなーって」

うっすらと眉間に皺をつくるプライド高き風紀委員長は、怒りを笑顔で隠した。

「選挙管理委員会が出てこなかったということは、安倍晴香は立候補しなかったということ、杜若が何故それを知っていたのかは不思議よ」

自分が盤面上の駒にすぎないことにお怒りの彼女は、簡単なことさえ気づいていない。

だよ、やられちゃったね」

見ない間に彼女はどこまで手を伸ばしているのか。多分、次の当選者は高確率で彼女だ。

「あの暗そうな子がーー?どうやって?」

こちらが聞きたい。どうやって懐に入り込んだのか、どうやったらそれだけの人脈が出来たのか、わからないことだらけだ。

「この際、風紀委員会としては貴方を推してもいいわ。考えるだけ無駄な気がするの。」

「無駄じゃないさ、考えないと晴香みたいに人柱を作らなきゃいけなくなる。」

"偉大なる会長様に相応しい人物"、なんてものを押しつけてしまった。私があの日階段から落とされなければ、会長候補もたくさんいたのかもしれない。

「真面目な意見をどうも。もうしばらく考えてみるわ。あと5日のイベントだもの」

次期風紀委員長の選出は遅くてよかった、と頭をかかえた椿の瞳には光が戻っていた。

重く硬い風紀委員室の扉を閉める。

もう、覆らない結果なら掻き乱してぐちゃぐちゃにしなくちゃね。"私は嫌われ者の元会長"、混乱と混沌をプレゼントしてあげる。

鼻歌を歌いながら、廊下を歩く。今日もいい1日だ。

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