10話 さよなら(上)


安倍真理は平凡ながらも目を離せない魅力があった。ところが今日、以前のポニーテールから、肩くらいのミディアムヘアにさらに眼鏡もコンタクトになり、全く違う人物のような姿になっている。昨日も4限以降学校にはいないし何が起きたのだろう。

「委員長、どうしたの」なんて言葉を口からようやく絞り出した。

「似合ってる?ちょっといいかな?」と、彼女は笑い近づいてくる。

いいけれどー。危うさを秘めた瞳が私をじっとみつめたかと思うと腕を引き、教室から外に出た。


空き教室にはいくつかの机と椅子が置かれていた。唐突に委員長はこちらにお願いをしてきた。「美東さんとデートをして欲しいの」、なんて不思議お願いだ。

「委員長、美東さんとは付き合ってないよ」なんて困り顔で断ると

「美東さんとデートしてくれたら代わりになんでもするよ、」なんて怪しく微笑んだ委員長はわたしにキスをした。

呆気に取られふと、気づくと委員長はまだ笑ったままで妖しい色気を放っていた。

「渡利さんが私に何を見ているかはわからないけれど、私は渡利さんにお姉ちゃんを倒して欲しいから。だからなんでもするよ」

無垢な少女を装った買春宿の情婦のように、彼女からアンバランスさを感じた。

「いいよ、なにもしないでいい」絞り出した声は多分震えていたのだろう。きっと委員長は生徒会長のお人形だった。わたしのように。いや、今のわたしと同じ歪な人形だったんだ。

ただ、委員長は人形であることをやめようと踏み出したんだ。だからわたしには彼女が以前より色褪せても見えた。


「なんでデートなの。どこにいくの。」

「それは美東さんが言ったから……考えていなかったや。」

「いいよ、その前に委員長。私のお願いも聞くべきじゃない?」

「そう……?!」

返事を聞かずに手を引いた。唖然とした委員長を連れてそのままわたしは街へ出た。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る