3話 バラードを聞きながら


なぜ、つきまとわれているか、それは多分口封じだ。

クラスメイトの渡利わたり千冬ちふゆはファンクラブが出来るほどの美人だ。平々凡々な私ではなく、あの日逢瀬を楽しんでいた美東みとう愛美あみと居ればいいのに、と心底思う。

放課後の鐘も鳴り寮に帰ろうと席を立つ。

「委員長、帰るの?ねえねえ軽音部来ない?」

「部員じゃないから、」なんて断ったのに渡利さんは強引に手を引いて第3音楽室に向かった。


第3音楽室は、唯一部室棟にある防音された音楽室であり代々軽音部が使っている。

「おい〜っす」、なんて軽快な挨拶をして渡利さんは中に入るけれども誰もいる気配がない。

「普段ならそのへんでヤってたりするんだけど、今日はラッキーだよね」なんてヘラヘラ笑っているけれど、話の内容に絶句した。そしてそっと距離を置いたら「ひどいよ〜」なんてヘラヘラ笑って肩にもたれかかってくる。

まるで猫のような渡利さんはそのままギターを弾き始めた。

「ねえ、人を惹き付けるものってなんだと思う」と、唐突に渡利さんはつぶやいた。

「え、ええと、魅力?美貌に財力、あとはカリスマ性とか……?」思いつくだけあげてみる。

「想像力豊かだねえ、委員長さんは、」じゃあ、なんていって渡利さんは立ち上がった。

「人を狂わせるほどの魅力を持つ人間って何だと思う?」

そう尋ねた渡利さんの表情はやけに悲しそうで、まだ弾き続けるギターのバラードと相まって涙を誘った。


「……それはきっと生まれ持った才能だね」

ぽつり、と溢れた言葉に拍手が響いた。

その音がなる方へ向くと、2人の影が見える。

「部長、どうしたんですか」

渡利さんの使い慣れない敬語から、その2人が上級生で渡利さんの尊敬している人だろう、と推測できる。


「安倍、真理さん、ようやく見つけた。生徒会長の妹のー。よくやった千冬」

そばかすのある顔に大きな丸眼鏡をかけて、入念に手入れされていないであろう薄茶色のツインテールをもつその女性は、満面の笑みを浮かべた。

「大人しく誘拐されてくれ」

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