第65話 孤島の双鋏(告白?大作戦)
「そんな事があったんだよー」
「へぇイズミの世界は面白いわね」
一夜明け、僕達は残りのカニを討伐するべく、森の中を歩いている。
昨日と違うところは、僕がレイラの横を歩いている事と……僕の装備が
何故こんな事になっているかと言うと、話しは昨日の見張りの時まで遡る。
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ひなぞーと、ちょっとしたいざこざが収まると、普通の話し合いが始まった。
「たけぞーには、危機感を持ってもらう」
「「危機感?」」
僕とレイラの声が重なる。
ひなぞーが言うには、武さんに「今のままではレイラが他の男性に取られてしまう」と思わせる事が重要なんだと。
でも他の男性と言っても、そこらの冒険者を使って本気になられても困る。
そこで、僕の出番という訳だ。
こんな姿になってしまったが、武さんは僕の事を『男』と認識している。
そんな僕が、レイラと親しくしている姿を目撃したら……。
「なるほどね、武さんは僕らが付き合うんじゃないかと、焦るわけだ」
「でも、それでリョウが手を引いてしまったら?」
納得する僕の横で、レイラが不安そうに質問をした。
そうか、武さんが身を引くという場合もあるのか。
「そこんとこは、どうなのさ?」
「やり過ぎればその危険性もあるが……まあ大丈夫だろう」
最後の方で、サッと目線を逸らしたのを僕は見逃さなかった。
さては、そこまで自信があるわけじゃないな。
でも、今の段階でひなぞーの案以外にいいものが無いのも事実だ。
レイラとも確認した結果、その方向で作戦を進めていく事になった。
「それで、具体的にはどうするのさ。レイラと腕でも組むの?」
僕は、隣に座っているレイラの右腕を取ると、自分の左手をそっと絡み付けた。
案外お似合いのカップル(死語)なんじゃないの?
「お前らが腕を組んだ所で、所詮は仲良し姉妹にしか見えないが、そこまでやらなくていい。流石に探索の途中で腕を組むとか怪しすぎる」
それもそうか。
僕は、レイラから腕を放すと作戦を考える事にした。
要は、武さんに『ヤバいぞ』って思わせる事が重要なんだ。
でも、腕を組むとかあからさまなのはNGと、それに今はクエストの最中だ。自然に振る舞いながら、見せつけるって実は大変なんじゃ?
「ウンウン唸りながら考えている所悪いが、いずんちゅは何もしなくていい」
なぬ? 何もしなくていい?
そいつは、どういうことだい? 陽向さんよ。
「そう『何故?』って顔をするな。今から説明する」
ひなぞーは、お茶をすすりながら説明を始める。
「さっきのを見てわかると思うが、思ったことがすぐに顔に出るいずんちゅに演技力を求めるのは無謀だ」
「そんな事ないよ! 僕だって演技のひ「無謀だ」……」
何てやつだ。被せ気味に言ってきやがった。
そりゃ僕は『思った事がすぐに顔に出る』とは親にも言われているけどさ……。
ちぇ。
「そこで、この作成のキモはレイラ、お前だ」
それから、ひなぞーはレイラにだけ聞こえる様に作戦を話し始めたのだった。
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という訳で、現在その作戦を実行中なのである。
え? 何で僕が
あ~それは、革の装備が濡れてたからだよ。はい、説明終わり。
何時もと違う並び方に、違和感を感じつつも僕達の探索は続く。
途中何回か現れたイノシシを危なげなく討伐し、順調に島の中心へと向かう。
宿営地を出発して数時間後。僕たちは昼ごはんを兼ねて休憩を取ることにした。
まぁ昼ごはんと言ってもこの後戦闘を控えている為、携帯食と呼ばれるとても簡素なものだったけどね。
そんな昼ごはんは、最悪と言ってもいい位のものだった。
携帯食は『最低限の栄養を摂取出来ればいい』と言う考えの元作られており、味っけのないカ◯リーメイトの様で、不味いは口の中はパサパサになるわで散々だった。
それに加えて、武さんが鬼の形相でこちらを睨んでいるのだ。普通の食事だって、睨まれながら食べたんじゃ不味いに決まってるじゃんね?
原因は僕の隣に座るレイラの存在。
昨日までは隣に座っていた女性が、今日は別の男性、それも友人の隣に座っているのだ。
そりゃ鬼の形相になっても仕方ないと思う。思うのだが、それを僕に八つ当たりされても困る。
さっさと告白なりすればいいのに。
地獄の様な昼ごはんが終わり、少し移動をすると、ようやくカニが姿を表した。
もうさっさとこのクエストを終わらせよう。
じゃないと、僕の精神がもたないよ!
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「ふんっ!!」
気合いと共に振り下ろされたひなぞーの大剣は、カニの頭? に直撃した。
動き出す気配が無いところを見ると、この1撃がトドメだった様だ。
目の前で倒れているカニで、2匹目の討伐となる。
最初に発見したカニは、楽々討伐出来たのだが、直後に足元から2匹目のカニが現れたのだ。
地中に潜るカニは知っていたが、まさか地中を移動するカニが居るなんて思いもしなかった。
完全な不意打ちをくらった僕達だが、何とか立て直すことに成功し、そして今さっきひなぞーがトドメをさしたのだ。
「まったく、カニの癖に不意打ちとか」
「いきなり足元を狙われると、危ないわね」
僕とレイラは武器を仕舞いながら、軽くおしゃべりをする。
そう、レイラとだ。
いつもなら、戦闘ではひなぞーのサポートをする事が多い僕だが、今回は武さんを応援する作戦の為、レイラと組んでいたのだ。
何時もと勝手が違うので、結構苦労するかと思ったが、意外とそうでもなく。
むしろいい連携が取れていたと思う。
僕が狙われれば、レイラが盾で防ぎ。
逆にレイラが狙われれば、僕が注意を引く。
「イズミと組むのもいいわね。今度2人でクエストに行きましょうか?」
なんてとてもいい笑顔で話しかけてくる。
うん、レイラのお誘いはとても嬉しいのだが、その後ろで
血涙なんて、漫画の中だけかと思ったよ。
僕は、レイラの誘いを適当に誤魔化しながら、最初に討伐したカニの方へ歩き始める。討伐して直ぐに2匹目が現れたため、今まで放置していたのだ。
今は、ひなぞーが1人で後処理をし始めている。ここで手伝わないと後がうるさいのだ。
「お疲れ~これで何とか人数分集まったね」
「おう、いずんちゅか。そうだな、4匹もあれば十分だろう。1人1匹使えるわけだしな」
滑車とロープを使い、器用に大八車にカニを乗せているひなぞーに近づくと、軽く声を掛けた。
今回討伐したカニは、小さくても標準の大きさはあるので、僕達4人の装備を作る分の素材は確保できただろう。
しかし、問題と言うものは気が抜けた所でやってくるものである。
ひなぞーを手伝い始めようとしたところで、視界の端で何かが動いたのだ。
動いたものを確認する為、目線を動かすと、そこには仕留めたはずなのに起き上がっているカニと、こちらを向いている為、カニに気づいていないレイラの姿だった。
カニの口元には大量の泡が漏れている。
これは、奴らの必殺技が放たれる予兆だ。
その必殺技は、体内にある水を高圧縮して放つ水鉄砲だ。
その巨体から放たれる水鉄砲は、もはやウォーターカッターと言っても過言ではない。正真正銘の必殺技なのだ。
「レイラ後ろ!!」
慌てて声を掛けるが、レイラが振り向くよりカニの一撃の方が早いだろう。
駆けつけるにも距離が離れすぎているし、武器を構える時間もない。
今の僕には何も出来る事が無い。
「え?」
僕の声に反応して、レイラが振り向くのと、カニの口から水が放たれたのはほぼ同時だった。
「レイラーーーー!!」
水しぶきが舞い、視界の悪くなった密林に僕の声が虚しく響いた。
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