第62話 和泉の新たな力
僕たちは、ひなぞーの操縦の元、孤島の1つへたどり着いた。
結局、あの日は昼を過ぎていた事と、僕の精神的なダメージが大きかったと言う事で、大事をとり休みにしてもらった。
翌日、僕たちはちょうど発行されていたヴィズルクラブ討伐クエストを受け、この孤島へと赴いたのである。
「さて、装備を確認したら出るぞ」
キャンプに必要なものを船から下ろし、簡単に設営していたら、ひなぞーから声がかかった。
もうさ、このままリーダーやればいいのに……。
何時もの防具に身を包み、アイテムポーチやマガジンポーチを確認する。
そして、ハミングバードを肩から掛け、両足のホルスターに新武器を挿入する。
そう、ナビちゃんからもらった卵から、1組の武器を作り出していたのだ。今日がそのデビュー戦である。
「さて、最終確認だ。今回のクエストはカニの討伐だ。防具を作るのに、1人1体必要らしいので、全部で4体の討伐となる」
宿営地の真ん中、ちょうど焚き火をする場所に集まり最終確認をする。
カニの討伐か……今回も僕はサポートだな。
なんて考えに耽っている間に、ひなぞーの話しは終わった様だ。
さてさて、いっちょ頑張りますか?
「よし、出るぞ」
ひなぞーが宿営地から出ようとした時、珍しいことにレイラから待ったがかかる。
なんだろう、忘れ物かな?
「ねぇ、今回はアレやらないの? こう手を出し合って……」
ジェスチャーを含めてレイラが説明してくる。
多分、ジェスチャーから、いつもやっていた円陣の事だと思うのだが……。
「円陣の事?」
「そう! エンジン!」
思わず聞いてしまったのだが、レイラは嬉しそうに答える。
しかし、ちょっと発音が違うだけで、別のものに聞こえるね。
「まぁいいんじゃない」
別に、時間に追われている訳でも無いし。
僕たちは右手を出し合って、互いに重ねていった。
「それじゃひなぞー掛け声」
「何で俺だよ」
「リーダーでしょ?」
何を言うかと思ったら、このパーティのリーダーはひなぞーに決まっているじゃんね。
「可笑しな事を言う奴だ。リーダーはお前だろ」
「何でさ」
「誰が原因でこの世界に来たんだよ」
誰が原因でって……みんなでしょ?
「1番最初に、あの娘を見つけたのはいずんちゅだ」
「そう言えばそうだな」
こいつら……。
「そう言う訳だから、さっさとやれ」
理不尽だ……理不尽だが、ここでゴネても時間の無駄だろう。
ならここは流れに乗っといて、あとで追求してやる。
「帰ったら話し合いだからね」
「「いいが、結果は変わらないぞ」」
声まで揃えやがった!?
くっそー絶対にリーダーを交代してやる。
「あ〜では……安全第一で行きましょい」
「「うぇーい」」
「おー! って何か違うっ!!」
何とも、気合が入りそうで抜けて行く円陣を済ませ、僕たちは宿営地を後にした。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「違う……私がやりたかったエンジンはあんなのじゃない……」
理想の円陣とはかけ離れ過ぎた現実に、レイラはすっかり意気消沈してしまっている。
いったい僕たちに何を求めているんだろうね?
「もっと『努力』『友情』『勝利』みたいなのを期待していたのに……」
「そう言うのはジャ◯プに任せているからね。僕達の出番はないよ」
最近は、その傾向も少ない様に感じるけどね。
「そんな事より、いずんちゅのソレは新作か?」
レイラと並んで歩いていると、ひなぞーが両足の腿に取り付けたホルスターを指差して来た。
「そうだよーこの間の卵から孵った、第1号だよ」
僕はホルスターから1丁抜くと、ひなぞーへ手渡した。
正直、出来るかどうか不安だったのだが、魔砲の卵は、見事に僕の要望を叶えてくれた。
見た目は、リボルバータイプのハンドガンに、ボルトアクション・ライフルの様に後ろへ真っ直ぐ伸びているグリップが付いている。
ライフルにしては短く、ハンドガンよりは大きい。そんな中途半端な大きさだ。
「おい、これマズルが無いのだが」
全体を興味深く見ていたひなぞーから、声がかかる。
そう、この魔砲の最大の特徴が、マズルが無いと言う事だ。
マズルが無ければ、弾を打ち出す事は出来ないのだが、この魔砲『弾』は打ち出さないのだ。なぜなら、
「接近戦用の魔砲なんさ」
僕は物は試しと、もう1つの魔砲をホルスターから引き抜くと、ハンマーを上げトリガーを引く。すると、銃身に沿う様に青白い光が伸びていき、日本刀の形になった。
「形は使用者……まぁ僕だけど、僕の思い通りななる。大きさはこれが限界で、分類的には大脇差になるのかな?」
「新しい魔砲なんて凄いわイズミ!」
「なるのかな? じゃんねーよ! もはや魔砲じゃねーだろうが!」
「和泉さんが接近戦をする必要無いじゃん」
せっかく披露してやったのに、驚いたのはレイラだけで、2人からは何とも余り良くない評価が来た。
僕だって、出来る事なら接近戦はしたく無い。
でも、何が起こるかわからないじゃ無いか。懐に急に飛び込まれる事もあるだろうしね。
そう言った時の自衛手段としての魔砲なのだ。
まぁ双剣スキルが勿体無いからってのもあるけど。
理由を説明したら、2人は渋々だが納得してくれた。最初から驚いてくれたレイラを見習って欲しいよ。
「んで、仕組みは?」
「ん? 簡単だよ。このトリガーを引き続ける限り刃を形成して、トリガーを放すと、刃が飛んで行く」
僕は近くにあった木に鋒を向けると、トリガーから指を放した。
すると、刃の部分が勢いよく射出され、的であった木を簡単に貫通してしまった。
多分、この刃を飛ばす機能を付けていなかったら、魔砲として認識されず産み出される事も無かっただろう。
「なるほどな、このグリップも振り回しやすくする為か」
「でも消費魔力が半端じゃ無いだろう?」
消費魔力に関しては、確かに省エネとは言えない消費量だが、【急速回復】のスキル持ちの僕にはどうって事は無い。
「完全にイズミ専用ね」
「バカは何考えるかわからないな」
「でも普通に強い武器じゃん」
そうでしょうそうでしょう、これこそが僕の産み出した第1の魔砲。
〈飛刀型魔砲:
なのさ!
「チェシャ猫って……アリスかよ」
「いい名前でしょう?」
呆れた様なひなぞーに、僕は笑顔で答える。
出たり消えたり、銃であり剣でもある。
人を惑わし、小馬鹿にした様に笑う猫の名前は、ぴったりだと思うよ。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
チェシャ猫をホルスターに戻し、僕たちは索敵を再開した。
ウィルディさんの話しでは、この時期はヴィズルクラブの繁殖時期と重なるから、簡単に見つかるはずなのだが。
僕たちの目の前には、白く綺麗な砂浜が広がるだけだった。
「いずんちゅ、本当にここなのか?」
先頭に立ったひなぞーが質問をしてくる。
いくら見つけやすいとは言え、何もしない訳にもいかず、僕の【探知】スキルで調べてもいたのだ。
そして、スキルで反応があった場所がここなのだが……。
「その貝殻に反応しているんだよね」
僕が指差した場所には、砂浜から飛び出した1つの貝殻があった。
「これは貝殻であり、カニじゃねーだろうが」
「スキルがバグったんじゃね?」
「スキルが誤作動したなんて、聞いた事無いわよ」
貝殻は、地面から突き出した部分だけで、僕の身長よりはるかに大きい。
こんな大きな貝殻は見た事無いが、カニではない。
「ん〜考えても仕方ないし、1発やっとく?」
僕は赤いポーチから一抱えもある大樽を取り出すと、貝殻の周りに設置して行く。
「おい……まさかとは思うが……」
「置いてから20秒」
若干、顔色が悪くなったひなぞーに、指をV字にして答えた。
「それじゃ〜置くよ〜」
「このバカッ!」
「レイラ走れ!」
「何なの!?」
みんなが走り出したのを確認して、僕は手にしていた木の実をそっと大樽の上に置くと、全力でダッシュした。
そして、砂浜に倒れ込むとほぼ同時に、砂浜に爆音が響き渡った。
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