第61話 Cランククエスト

 ナビちゃん襲撃から数週間たち、遂に雨季が明けた。

 今日からギルドも通常営業に戻ると言う事で、クエストボード前には大勢の冒険者が集まっている。


「どれにするか」


「出来れば実入りが良いのがいいな」


「僕は、美味しい素材が手に入れば文句ない」


「新しい武器の試しもしたいわ」


 Cランクに上がって最初のクエストと言う事で、僕たちはやいのやいのとクエストを吟味していく。

 多いのは、雨季の間に消費した食材を補充するクエストだが、報酬金はそれほどの高くない。ボランティア的な位置づけなのだろうか?


 まぁ先ずは様子見という事で、Cランククエストの中でも比較的簡単な分類に当たるクエストを受注する事にした。



「ダメよ」


 しかし、いざ受注しようとしたところで、カウンターにいたウィルディさんに門前払いにされてしまった。


「理由を聞いても?」


 そんなウィルディさんに、ひなぞーが質問をする。

 ウィルディさんは、ため息混じりに理由を教えてくれた。まぁ理由は簡単な事で、僕たちの防具が問題だったのだ。


 僕たちは、ロック爺の店で買った最初の装備から変えていなかったのだ。そう初心者用の革装備から。


「レイラはまぁ良いとして、あなた達の今の装備じゃ死にに行く様なものよ。別にCランクだから良い装備を買えって訳じゃないのよ?」


 なるほど、確かにキングフォレストボアには殺されそうになったっけ。


「あなた達、この前大きな収入あったんでしょう? このクエストを受ける前に、ロック爺の所で装備を見てもらってらっしゃい」


 しょうがない。命あっての物種だし、僕たちは回れ右してロック爺の工房へと向かった。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「それはウィルディさんが正しいっすよ」


 工房に到着すると、ロック爺にも怒られた。

 そのまま怒ったロック爺に、武さんとひなぞーが拉致されたので、僕とレイラはシルノの所へ顔を出す事にした。


 最初シルノは、僕の顔を見ると顔を真っ赤に染め、になりあわわあわわと言葉にならなかったのだが、今は落ち着いたのか普通に話している。

 いったい何だったのだろう?


「だいたい、イズミさんはこの前のクエストで大怪我をしたんすよ? その装備で不安にならないんすか?」


「当たらなければどうと「そう言うのは良いっす」……」


 渾身のボケが潰された……。

 正直なところ、【電光石火】のスキルを取得してから、ビックリする程体が軽い。今ならキングフォレストボアの突進も避けれる自信がある。


「そうやって慢心して怪我をするんでしょう」


「その通りっすよ。えーと……」


 2人に怒られてしまった。

 どうやら2人は初対面だったらしく、挨拶をしている。

 そして、そのまま装備の話しに移っていく。


「う〜ん……レイラさんが、今以上に防御力を得る装備となると……」


 シルノは、棚にあるカタログを引っ張り出すと、ペラペラと捲り始める。

 凄いな、カタログなんてあるんだ。


「時期も考えると、このヴィズルクラブなんてどうっすかね?」


 ヴィズルクラブは最大で10mにもなるカニの一種だ。その甲殻の固さから、防具や武器などに重宝されているカニだ。

 注意することは、左右のハサミと口から放射される水鉄砲か。


 シルノは僕たちの新装備にカニの素材をオススメしてきたのだった。


 素材が決まれば、次は採寸をして必要な量を算出する。取り敢えず3m級のカニを1体づつあれば大丈夫だろうと言う事になった。


「イズミさん、サイズ変わってないっすね」


「そりゃ20歳も過ぎれば成長も止まるっしょ」


 レイラの採寸を終えた後に、僕のサイズも念のため測り直したのだが……。


「あ……そう言えばイズミさんはもう20歳だったっすね」


 今の見た目は、完全に10歳児なのだから、シルノが勘違いしてもしょうがないだろう。

 何たって、僕は可愛いのだから!!


「身長もそうっすが、ココとかココに余分なお肉が付いていないのは、羨ましいっすね」


「ひゃんっ!?」


 シルノがいきなり脇腹を摘んできたので、思わず変な声が出てしまった。採寸する為に、下着姿になっていたのが仇となってしまった様だ。

 てか、『ひゃん』は無いな『ひゃん』は。


「本当に……あれだけ食べているのに、何でかしらね。理不尽だわ」


「あひゃっ!? レイラさん!?」


 シルノに気を取られていたら、今度は逆側の脇腹をレイラに摘まれた。

 てかさ、野郎の腹摘んでも楽しく無いよね!?


 その後、体の各部署(彼女らの気になる場所)を丹念に調べられた。解放されたのは実に2時間後の事だった。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「疲れた……」


 ロビーに戻ってくると、僕は直ぐに机に突っ伏した。

 何故かレイラ達は、肌がツヤツヤしているのだが、色々と吸い取られたんじゃなかろうか?


「いずんちゅは、何をしてきたんだよ」


 ひなぞーに質問されるが、本当に何をして来たんだろう?

 ひなぞーに答えようとした時、後ろから肩を叩かれる。


「和泉さん、ちょっとこっちで話そうか? 何、直ぐに終わるさ」


 振り向くと、武さんが肩に手を置いていた。

 とても素晴らしい笑顔だったのだが、目が充血し、口から血が出ているのがマイナス点か……。


「武さん大丈夫?」


「大丈夫さ、和泉さんがちょっとの世界に逝ってくれればね!」


 あ、あかん。こいつる気や。


 結局、武さんに何もなかったと説明するのにまた数時間もの時間を費やしてしまった。

 そんなに気になるなら、さっさと告白でも結婚でもすればいいのに。

 レイラだってまんざらでも無いんじゃ無い? 知らんけど。


 暴走気味の武さんを放置し、ひなぞーから話しを聞くと、どうやら彼らもヴィズルクラブの防具にした様で、何と図らずもパーティ全員が同じ防具を身につける事になった。

 まぁパーティカラーって事にすればいいのか?


 その後、ロック爺と支払いの件(今回も一括払いは無理だった)や納品時期を話し合い、工房を出ようとした時だった。

 後ろから息を切らして、シルノが走って来た。


「はぁはぁ……間に合ったっす……」


「どうしたの? そんなに慌てて?」


 こんなに慌てているなんて、よっぽどの事なんだろうか?


「はぁはぁ……この時期、ヴィズルクラブを狙うフレイムクックの姿が目撃されているっす。注意して下さいっす」


 フレイムクックとは、この世界に生息しているワイバーンの種類の1つで、鶏とワイバーンを足して2で割った様な姿をしているとの事。

 ワイバーンの中では比較的弱い分類に入りCランクモンスターに区分される。


「ありがとう、態々教えに来てくれたの?」


「イズミさんは、絶対に無茶をして怪我をするっす。キングフォレストボアの時も、事前に情報が無い状況で格上の相手に挑むとか、正気の沙汰じゃ無いっすよ」


 なんか散々な言われようだ。

 けど、何も間違っていないので、返答に困るね。


「どうか、どうか無事に帰って来て欲しいっすよ」


 どう返したらいいのか迷っていると、そのままシルノに抱きつかれてしまった。

 何というか……女の子の体って柔らかいんですね。やっぱり野郎の体とは根本的に違うんだと思い知らされる。

 しかし、今日に限って僕は革の胸当てを装備してる……。せっかく……せっかくシルノが抱きついてくれていると言うのに! これじゃ1番味わいたい柔らかさがわからない!!

 今から胸当てを外すか? いや、急に外したら不自然か……だからと言って、この状況に甘んじる訳にはいかない。シルノの程よい大きさの至宝を味わう為にはどうすればいい? 考えろ和泉! 全力で考えるんだ!!


「こいつ……絶対に変な事考えてるぜ」


「いつになく、和泉さんが真剣な顔しているもんな。こんな顔しているのはホテルのビュッフェに並んでいる時か、エロDVDを選んでいる時だけだ」


 友人2人の声で、ハッと我に帰る。

 いけないいけない、ここは我慢だ。てか武さんは、何故僕がオカズを選んでいる時の顔を知っているんだ?


「大丈夫だよ、シルノ。僕はちゃんと帰ってくるよ。無傷って訳にはいかないけど」


 僕は平静を取り戻し、シルノの頭を撫でながら、ゆっくりと話しかける。


「何と無く良い感じに終わらす気だぜ」


「抱きつかれた時点で事案なのにな」


 うるさいよ! 少し黙っときなさいよ!

 レイラやロック爺を見習いなさいよ! 黙って見守ってくれているじゃない。

 まぁちらっと見た時に、ロック爺は驚きで動けないだけだと思うけどね。目を見開いたまま立っているし。


「待っているっすよ。そうしたらウチが最高の装備を作るっすよ!」


 ヤバイ、シルノの笑顔が眩し過ぎる……。

 僕は、過去最高の罪悪感に苛まれながら、工房を後にした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る