第46話 試合終了です
アウルさんの宣言と同時に、僕はバックステップで距離をとった。
直後に元いた場所にレイラの強力なチャージが突き刺さる。
FAのくせに結構素早いじゃない。
距離を取りつつ、左のホルスターからガバメントを抜き、全弾撃ち尽くす。
相手の攻撃直後を狙い、見事に全弾命中したのだが、レイラは特にダメージを負った様子がない。
非殺傷弾と言えど、当たれば相当痛いのだが、やはりあの魔力耐久力アップがネックなんだろうなぁ。
新たに魔力をリロードしながら、試合前にウィルディさんから教えてもらった事を思い出す。
レイラの鎧は、この試合限定で、魔力耐久力が上がっているのだと言う。
もともとは、モンスターが使ってくる魔力を帯びた攻撃に耐えられる様に開発されたモノなのだが、魔力自体に耐性がある為、魔砲の威力も弱めてしまう。
ただし、弱点が無いわけじゃない。
後付けされた能力の為、限界があるのだ。
ダメージが一定量に達すると、飽和状態となり耐久力が元に戻ると言うのだ。
限界値は教えてもらえなかったが、攻撃し続ければいいって事でしょう? こちとらほぼ無限の魔力があるんだ。負ける気がしない!
僕は右側のホルスターからもガバメントを抜き出し、銃口をレイラに向けた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
何回リロードを繰り返しただろう。
その間に、レイラとの攻防は激しさを増していった。
最初の一撃からしておかしかったのだが、レイラの機動力は信じられないほど高かったのだ。距離を取り、リロードを済ませ魔砲を構えると、既に彼女の間合い間際まで近づいている。
もはや恐怖以外の何物でもない。
「レイラさ、ちょっと足速くない?」
『これも私のスキルの1つよ』
なるほど、スキルか……ここまでくるとなんでもありだな。
レイラの攻撃は、更に激しさを増していった。
重装甲に、この機動力。まだ1回も受けてはいないが、多分攻撃力を高いのだろう。
どうやら、特別なのは僕だけじゃ無かったみたいだ。
いつの間にか後手に回っており、レイラの猛攻を避け続けているが、いつ喰らうかヒヤヒヤしっぱなしだ。
(よっしゃー! イズミが反撃出来ねーぜ!)
(いいぞーレイラ! あと一息だ!)
観客(主に男性冒険者だが)のボルテージも上がって行く。
いくら賭けたのか知らないけど、彼らも必死すぎでしょう。
(なぁ気が付いたか?)
(お、お前も気が付いたか)
(何がだ?)
((あんなに激しく動いているのにパンツが見えないんだよ!))
そんなに僕のパンツが見たいのか!?
エディールさんの店で売っていた3枚1Gの特売品だぞ?
観客の中から聞こえてきた変態発言に、思わず動きを止めてしまった。
『余所見なんていい度胸じゃない!』
直後、レイラの声と共に悪寒が駆け巡る。
気が付いた時には、間合いに入り込まれ、今まさに鋒が僕のお腹に……。
腹部に圧迫感を感じた時には、僕の両足は地面から離れていた。
そして、背中から走る衝撃。
どうやらレイラに吹き飛ばされ、訓練場の壁に激突した様だ。練習用のランスだからこそ吹き飛んだだけで済んだが、これが普通のランスだったなら……ヤバい、想像したら漏らしそうになった。
腹部をさすると、特にこれと言って怪我もなく、衣服も破れなど無いようだ。
(大丈夫ですか和泉様)
ナビちゃん!?
頭にいつもの鈴の音の様な声が響いてくる。
結構頻繁にこうして話しかけてくれるのだが、こうした試合や腕試しの時はほぼ確実に話しかけてくる。
(和泉様の醜態。失礼しました勇姿を見たいと思う乙女心です)
「今、普通に醜態って言ったよね!?」
思わず声に出してしまった僕は、悪く無いだろう。
『余所見の次は意味不明な事を言って。イズミ、貴女本気で戦う気が無いの?』
ナビちゃんとの会話に気を取られて、レイラの接近に気付くのが遅れた。
何とか転がりながら回避をして、距離を取る事に成功したが、下手をしたら串刺しだ。
(大丈夫ですその様な事にはなりません。今和泉様が着ていらっしゃるドレスの性能で和泉様が怪我を負う事はありません)
ナビちゃんが、さも当然と言ってくる。
彼女の説明によると、どうやらこのドレスのスキルは、僕の魔力を直に使って起動している様だ。
漏れ出す魔力で発動するスキルに直接魔力を注ぎ込む。そりゃ強力にもなりますわな。
(ただしデメリットもあります。装備全体の消費魔力が和泉様の魔力回復量とほぼ同じです。ですので魔砲へのリロード分が消費魔力として蓄積されます)
何ですと? という事は……。
(今の和泉様の魔力は有限。リロードするたびに魔力が減っていきます)
なるほどね。
まぁ元の魔力が多いからまだ大丈夫だけど、いつかは枯渇するって事か。
撃ち続ければいいと思っていたけど、どうやらその作戦は失敗の様だ。
(1発の威力が低いなら威力を上げれば良いのではないですか)
そうは言っても、ここで魔砲を改造するわけにもいかないし、マガジンも非殺傷の物しかない。
これでどうやって威力を上げればいいんだろう。
(撃ち方を変えてみてはいかがですか)
撃ち方を変えて? それって……そうか!
ナビちゃんの一言で、ある方法が思い浮かぶ。
成功するかどうかはわからないが、やってみる価値はある。
(御力になれてなによりです。では和泉様御武運を)
ありがとうナビちゃん、やってみるよ。
僕は、レイラに向かって笑みを浮かべた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
僕は、右手に持っていたガバメントをホルスターに戻し、左手に持っていたモノを両手で構える。
チャップマン・スタンスと呼ばれる形に近い体勢になると、レイラに照準を合わせる。
意識する事は、マガジン内に残っている全ての魔力を放出する事。
イメージするのは、某アクションゲームの主人公である青いロボットの岩男さん。
上手くいけばめっけもん。ダメだった時は、その時に考えればいい。
僕は、意を決してトリガーを引いた。
響き渡る轟音が、観客たちから声を奪う。
そして、静まり返る訓練場に、重たい物が落ちる音がなる。
僕の放った1撃が、レイラの盾を吹っ飛ばしたのだ。
1撃で盾を持っていかれたレイラは、驚きのあまり動きが止まっている。
僕はその隙を逃さず、マガジンに魔力をリロードすると、レイラのランスに照準を合わしトリガーを引く。
再び響き渡る轟音と同時に、レイラのランスが吹き飛ぶ。もはや訓練場には、轟音の余韻を残すだけで、誰も口を開かない。
僕は、3度目となるリロードを行う。
今までのリロードと違い、1回行うだけで体から力が抜ける感覚がはっきりとわかる。
僕は、がら空きとなったレイラの体に照準を合わすと、躊躇わずにトリガーを引いた。
「くっ……」
3度目のトリガーを引いた瞬間、魔砲がバラバラに砕けてしまった。魔砲の破片が手に突き刺さり、僕の両手は血だらけだ。
レイラの方を見ると、大の字で地面に横たわっている。どうやら魔砲が砕ける前に撃つ事が出来た様だ。
元々、この様な使い方は、想定していないのだ。3発も撃てただけで御の字である。
アウルさんがレイラに駆け寄り、安否を確認している。
そしてゆっくりと立ち上がると、高らかに宣言した。
「レイラの気絶を確認しました。よって、戦闘不能とみなし……勝者、イズミ!!」
僕はその言葉を聞いた瞬間、全身から力が抜け目の前が真っ暗になった。
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