第45話 試合開始です
ついに試合の当日を迎えた。
あの日シルノの作業場より、試作品の装備一式に武器まで借り受けた僕は精根尽きた状態で自宅へと戻った。
あの元気はいったい何処から湧いてくるのか不思議でならない。
そして、朝食を軽く食べた僕は時間より少し早めにギルドへと来ていた。
ギルドの周りは埋め尽くさんばかりに溢れる人でごった返している。
「あ、来た来た。イズミ、こっちよ」
そんな人混みの中から、ウィルディさんが手招きをしながら呼んでいるのが見えた。
「おはようございますウィルディさん。
ところで、この騒ぎはいったい……?」
近づき、奥の部屋へと案内してもらう間に表の騒ぎについて質問してみる。
「昨日のあなた達の会話を聞いた奴らが大騒ぎしているのよ。娯楽が少ないからって賭けまでやる事ないじゃない」
なんと……賭けまで成立しているとは……。
ちなみにレートは7:3でレイラが優勢らしい。
解せぬ。
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案内されたのは、ウィルディさんと腕試しをした時に案内された控え室だった。
あの時と違うのは、隣にウィルディさんがいる所か。
「そう言えば、今日はウィルディさんが一緒にいてくれるんですね」
「そうよ、私が勝ち取った権利だもの」
ウィルディさんは顔の横にピースサインをすると、指をチョキチョキ動かして和かに微笑む。
普段と違った印象に思わずドキッとしてしまう。
「それよりも、ちゃんと装備は持って来ているのか?」
同じく、控え室に入って来ていたひなぞーから、質問が飛んでくる。
そう言えば昨日、シルノに装備を見てもらうと言ったっきりだったっけ?
「大丈夫、ちゃんと持って来たよ」
「装備忘れたとか、目も当てられないからな」
今度は、武さんが苦笑いしている。
大丈夫、そんなに抜けてないよ!
僕はアイテムポーチから装備を取り出すと、何の躊躇いもなく着ていたワンピースを脱ぎ捨てた。
「何やっているのよ!?」
下着1枚になった所でウィルディさんの悲鳴が上がった。
何って……着替え?
「男の居る前で服を脱ぐバカが何処にいるのよ!! あんた達も! 見てないで部屋から出なさーーい!!」
キョトンとしている僕を余所に、ウィルディさんのカミナリはひなぞー達にも落ちた。
背中を押される形で、彼らは部屋から押し出されて行った。
「あのーウィルディさん? 僕は男なんですけど?」
「そんな格好で男も女もないわよ! 欲情した変な男に押し倒されても遅いのよ!!」
ふと、自分が押し倒される所を想像して、身震いする。
「なるほど、それは嫌ですね」
「わかったら、少しは気を使いなさい!!」
ウィルディさんに怒られつつも、着替えを再開するのであった。
装備を整え終えると、部屋の外で待機していた2人を招き入れる。
「お、ようやく……か……」
「和泉さん……何その格好」
僕の格好に、驚いている様子の2人。
まぁ部屋に入ったら友人がドレスを着ているのだ。その気持ちは分からないでも無い。
「どう? めっちゃ似合っているっしょ?」
クルッとその場でターンをして、ポーズをビシッと決める。
どうよ? 可愛すぎじゃね?
「「元のお前がチラついて軽く殺意」」
声を揃えて言うことかなぁ!?
まったく、たまには褒めて欲しいよね。
感想を求めた相手が悪かったと思い、僕は諦めて準備の続きをすることにした。
シルノから貸してもらった試作品をホルスターに収め、髪を纏める。
改めて姿見に今の格好を映すと、自然と笑顔になる。
「本当にその格好で戦うの? どう見てもパーティーに呼ばれたお嬢様よ?」
ウィルディさんが、半分くらい呆れた声で質問をしてくる。
まぁ僕もシュティーアさんから説明を受けなかったら、そう思っていただろう。
と、言うことで僕もこの装備について説明をした。全部を覚えていたわけじゃ無いので、途中を少し端折ったけど、大体の大筋は説明できたでしょう。
「シルノにシュティーアか……まったく、あの工房には変な子が多いわね」
説明を受けたウィルディさんも苦笑いだ。
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全ての準備を終え、意気揚々と訓練場へと足を踏み出した僕を盛大な歓声と罵声が出迎えてくれた。
(出て来やがった!)
(てめぇイズミこの野郎! 大人しくボコボコにされちまえ!)
(そうやって可愛い格好をして俺たちを惑わすな!)
罵声は100%男性冒険者達からだった。
未だにあの事件を根に持っているようだ。いい加減忘れればいいのにね。
(イズミちゃ~~~~ん!!)
(やだ! 超可愛いんですけどーー!?)
(ファイトーッ!!)
(怪我しないでねー)
(頑張れよー!)
続いて声援の方は、ほぼ女性だが、中には男性の声もちらほらと聞こえる。
さっきの賭けのレートだが、男どもが僕に負けて欲しいからレイラに賭けたんじゃないの?
とりあえず、試射として1番口の悪かった男性冒険者に向けて発砲しといた。弾自体は、観客を守る為に設置していた防御装置に阻まれてしまったけど。
やっぱり非殺傷のマガジンじゃ無理か。
ちなみに、狙われた男性冒険者の周辺は、目の前で起きた出来事に言葉を無くしている。
言いたいことがあるなら、正々堂々と目の前に来て言えばいいのにね。
そんな観客との触れ合いを楽しんでいると、物凄い重音が訓練場に木霊する。
何事かと音源を辿れば、とても大きな鎧が動いているではないか。
「……レイラ?」
僕の目の前で動きを止めた鎧に、思わず確認してしまった僕は悪くないと思う。
昨日ギルドで見た鎧に、更に追加装甲が施され、僕なんか簡単に貫けそうなランスを右手に、自身の姿すら隠す程の大きな盾を左手に装備しいる。
パッと見た感じ完全に
『そうよ、レイラよ。ねぇイズミ、私たちこれから手合わせをするのよね? 晩餐会に出席するんじゃないのよね?』
目の前の鎧から、ちょっと篭って聞き取りづらいが、確かにレイラの声が聞こえて来る。
うん、これは
(((うおぉぉぉぉ! レイラーーーッ!!)))
(((レ・イ・ラ! レ・イ・ラ! レ・イ・ラ!!)))
レイラの質問に答えようとしたところで、訓練場内全部に野太い声援が響き渡る。
観客の男性冒険者達だ。
大応援団と化した男性冒険者達は、声が枯れるのも構わないと、力の限りレイラに声援を送る。
『何あれ? 私何かしたかしら?』
「気にしないで、ただの僕に対するやっかみだから」
『イズミは何をやらかしたの!?』
まぁレイラが驚くのも無理はない。
彼女が勝てば、負ける僕の姿が見え、賭けた賞金が手に入り、今までの鬱憤も晴れるのだ。
まさに一石三鳥。これに乗っからない手は無いと集まったのだろう。
しばらくレイラと観客を眺めていると、マスターとスルト、それにアウルさんが連れだって歩いて来た。
アウルさんが審判役で、マスターとスルトが立会人といった感じか。
僕達の前に立つとアウルさんが今回の試合のルールを再度確認し始める。
今回のルールは、
• 行動不能もしくは、ギブアップした方の負けとする
• 殺人はご法度
• 時間制限はなし
• レイラの鎧から、魔力耐久力が無くなった時点でレイラの負け
• 魔砲に魔力をリロード出来なくなった時点で、イズミの負け
となっている。
上の3つは通常ルールだが、下の2つは今回の特別ルールとなっている。
『魔力耐久力が無くなった時点』と言うのは、いくら非殺傷とはいえ魔砲の威力は高く、レイラの身の安全の為に設定されたルールだ。
『魔砲にリロード出来なくなったら』と言うルールは、逆に僕の安全を考慮されたルールだ。
まぁ膨大な魔力を持ち、尋常じゃ無い回復速度の僕には要らないルールなんだけどね。
「双方準備はいいか?
それでは……始め!!」
アウルさんの宣言により、試合が始まった。
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