第42話 挑戦者現る
魚を回収し終わり、宿営地へ戻って来た時には、すっかり日が暮れてしまっていた。
と、言う事で当初の予定通り、僕達は1泊してから町へと帰る事にした。
夕食は、僕の発破漁でとれた魚を食べた。やっぱり獲りたてが1番だよね。
翌朝、町に戻りギルドへ鱒を持っていくと、今日の担当はヴェルさんだった。
鱒を外の倉庫に預け、番号札を貰うと、ヴェルさんに会計してもらう。
4匹獲った鱒は、2匹は納品し、1匹を換金。そして最後の1匹は持ち帰ると報告した。
肉や魚なんかもそうだが、ギルドで捌いてもらった方が綺麗に仕上がるのだ。その分手数料は取られるんだけどね。
肉もそうだが、魚も捌くのは意外とめんどくさい。なら、多少のお金を払ってでも綺麗に処理してもらった方がいいと僕は思うのだよ。
しばらく待っていると、ヴェルさんがお金を持って来てくれた。
「お待たせ~お金を持ってきたわ。今回はマス・マス・マッスルの捕獲という事で報酬の500Gと、こっちは契約金ね」
ヴェルさんは銀貨7枚と銅貨50枚を持ってきてくれた。
「はい。確認しました」
「次にギルドで買い取ったマスマスマッスルのお金ね。今回は2mだったから200Gね」
ヴェルさんはさらに銀貨を2枚渡してくれる。
「はい、ありがとうございます」
僕は他のお金を混ざらないように新しい袋に銀貨7枚をいれた。契約金の方はそのまま生活費の袋の中に入れる。
ヴェルさんと別れ、今回の報酬を持ち、2人が待つテーブルへと戻ってくる。
「どうする? これで家に帰るか?」
「ファッカスに寄って朝飯を食べるのもいいな~」
基本的に、ファッカスの朝食は宿泊者限定なのだが、町にいる時は必ずファッカスに通っていたら、朝食を作ってくれる様になったのだ。
もちろんお金は支払っているよ。
とりあえず、ここで話していてもしょうがないという事で、僕たちはファッカスへ向かう為に席を立った。
するとほぼ同時に、入口付近で一人の女性が大声を上げた。
「この町の専属冒険者“ヘレンローゼカッツェ”が居たら今すぐ出てきなさい!」
何やら威圧的で怒っているようだ。
女性を怒らせた記憶はないのだが、とりあえず犯人と思われる人物に話しをふる。
「何やらかしたの? 武さん」
「オレじゃないよ! ひなぞーだろ?」
「俺があんな女の相手をすると思うか? いずんちゅがその容姿で騙したんだろう?」
3人が3人とも罪を相手になすりつけようとする。
うん、素晴らしい友情だね。
それにしても、全員身内が犯人と思うのはいかがなものだろうか?
「どうしたの! 怖気づいて出て来れないの! それともこの町の専属冒険者は揃いも揃って腰抜けばかりなの!」
大声を上げている女性は、僕たちが一向に名乗り出ない為、さらに苛立ち始めている。
このまま見てたら、どうなるか気になる所だが……。
「どうする?」
「このまま好き勝手に言われるのは、気分が悪いな」
「そいじゃ、一言ガツンと言ってやりますか。和泉さんが」
「自分で言いなよ。僕は関わり合いになりたくないよ?」
僕達は、渋々と入り口に向かって歩き出した。
「俺達がお前の探してるヘレンローゼカッツェだが? 何のようだ?」
女性の前に立つと、いきなり高圧的に話しかけるひなぞー。身長がある彼が、フル装備で威圧的に話しかけると、僕たちですらちょっと怖い。
だが、さっきまで大声を上げていた女性は、ひるむことなくひなぞーを睨みつける。
女性は、金属製の少し豪華な鎧を着込んでいる。しかし、決して派手ではない。
なんと言うか……上品? と表現するのが1番しっくりくるだろうか?
ウィルディさんと同じ綺麗系の美人さんで、燃えるような真っ赤な髪をポニーテールにしているのが印象的だ。
「あなた達がヘレンローゼカッツェね! 私はレイラ。本拠地を持たずに各地を回る冒険者よ!」
女性は腕を組み、これでもかと偉そうに自己紹介してくる。
「はぁ……そんな旅芸人さんが何の用で?」
「旅芸人じゃないわよ! 冒険者よ!」
「そうだよ武さん。旅芸人なんて失礼だよ? 行商の方ですよね?」
「あなた達の目は節穴なの! この鎧が目に見えないの?」
レイラと名乗った女性は自らの鎧を叩き、僕たちに見せつけるように構えた。
「「見えてますけど何か?」」
「何なのよ!! あなた達は!」
レイラは、少しからかうと盛大に地団駄を踏み始める。さっきまで怒っていて怖い印象があったが、からかうとちょっと楽しい。
「お前ら少し黙れ。話しが進まない」
「「は~い」」
ひなぞーが、ため息混じりで言ってくる。そんなにふざけたつもりは無いんだけどなぁ。
「それで? 流れの御嬢さんが俺達に何の用だ?」
高圧的な態度は変わらず、ひなぞーはレイラと名乗った女性に質問をする。
「……あなたは、まともに話せそうね。さっきそこで、あなた達の噂を聞いたわ」
「「
僕と武さんは、同時にお互いを指差した。
「「あん? やんのか?」」
お互いの発言が気に障ったようで、睨み合う。
僕は武さん程変態じゃないぞ?
「お前ら……」
「ほっときましょう。それより私が聞いた噂はね……」
そんな僕たちを無視し、レイラはひなぞーに話し始める。
「“この町の専属冒険者は登録初日でDランクだった”そんな噂を聞いてね」
「それで?」
「もしそれが本当なら一度手合せして貰いたいと思ったのよ」
「そいつはご苦労な事だ」
「どうなの? その噂は本当なの?」
「……本当だ。俺達3人は登録初日からDランクだったな。仮だったが」
「やっぱり! それじゃ私と手合せしなさい!」
「「「断る!」」」
「何でよ! て言うか後ろの二人も当然のように話しに入ってきてるのよ!」
レイラは、僕たちに向って指を指す。
親御さんに『人に指を指すな』と教わらなかったのだろうか?
「だってオレたちヘレンローゼカッツェの話しだろう?」
「僕達がいないところで勝手に話しを進められると困るよ~」
「あなた達は今まで別の話しをしてたでしょう!」
「まぁ落ち着けレイラとやら。俺達は別に自分達の力を誇示しようとは思っていない」
「あなた達がどう思っているかは関係ないわ。私は単純にあなた達の実力が知りたいだけなのよ。
それとも、実力が無いとバレるのが怖いのかしら?」
「なんだと?」
あからさまな挑発に、ひなぞーが律儀にも反応している。珍しい事もあるものだ
「あんたのランクは?」
「Dランクよ。何? 自分達より低いランクじゃないと戦えないの?」
「いいや、結構挑発してくるからな。どんだけ高ランクなのかと期待していたが……まさか俺らと同じランクとはな」
「…………」
ひなぞーの言葉にレイラは黙り込んでしまった。しかも、恥ずかしいのか怒っているのか顔を真っ赤に染めて。
いや、両方か。
「いいだろう、その勝負受けてやろう。ただし、戦うのはこのチビだ」
ひなぞーは、そう言うと僕の首を掴むと、そのまま持ち上げレイラの正面に突きつける。
チビって僕のことか!? てか猫じゃないんだから首を掴むな! 締まって死ぬわ!
「あなたは戦わないの?」
「生憎と女を痛ぶる趣味は持ってないんでね。
それに、このチビを侮るなよ? この間Bランクパーティを1つ、1人で壊滅させているからな」
ブラブラと揺らしながら、僕の事を説明して行く。
と言うか、本当に放してください……そろそろ息が……。
「そ、それくらいで怯むと思ったらお、お、大間違いよ!」
いや、レイラさん十分に動揺しとりますがな……。
「話しは聞かせてもらった」
ひなぞー達の会話を遮るように奥からマスターが歩いてきた。今日は横にウィルディさんがついている。
「初めまして御嬢さん。ここのギルドマスターをしているエルトガルザだ」
「レイラと申します」
「御嬢さんが言いたい事はわかった。しかし、今こいつ等はちょうどクエストから戻ったばかりなんだ。どうせなら万全の状態で戦いたくないか?
あとヒナタ、いい加減イズミを放してやれ、死んじまうぞ?」
「そ、それは……そうだけど」
「おっと、いけねー」
マスターの助言で、ようやくひなぞーが手を放してくれる。危なかった……もう少しで有名な川を渡るところだった。
「場所はこのギルドの訓練場を使うといい。時間は明日の午前10時でどうだ?」
「わかりました。私はそれで構いません」
「俺らも大丈夫です」
「よし、それでは話しはこれまでだ。お前ら! さっさと仕事へ戻らんか!!」
いつの間にか大勢のギャラリーに囲まれていたようだ。まぁ娯楽の少ない世界だし、しょうがないのかな?
「あなた達! 明日遅れずに来なさいよ!」
「はいはい……」
ひなぞーが気だるそうに返事をする。結構時間が経ったけど、ファッカスの朝食に間に合うかな?
「ま、待ちなさいよ!」
ギルドを後にしようとしていた僕達にレイラが慌てて声をかけてくる。まだ何か用でもあるのだろうか?
「どうした? まだ何か用か?」
「……宿の……宿の場所を……教えてください」
顔を赤くし、少し涙ぐんだ声の彼女を見た僕たちは、言葉を失った。
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