第43話 挑戦者現る②
宿の場所を聞いてきたレイラも連れて、僕達はファッカスを目指して歩いている。
「宿の場所くらいギルドの職員に聞けよ」とひなぞーが冷たくあしらったのだが、そのギルドの長であるマスターが、どうせファッカスに行くのならついでに案内してやれと、僕達に押し付けてきたのだ。
さっきまで試合がどうとか言い争っていた相手と一緒に行動するとか……おかげで、雰囲気が最悪である。
嫌な雰囲気を我慢する事数分、僕達はファッカスに辿り着いた。
「ごめんなさい! まだ準備中なの――ってイズミじゃない。どうしたのこんな時間に? もう朝食終わっちゃったわよ?」
「ごめんねルノン。ちょっと所用で、遅くなっちゃった。食材とお客さんを提供するからごはん作ってくれない?」
僕は鱒をアイテムポーチから取り出すと、そのままルノンに手渡し、今日は4人前だとお願いした。
ルノンは「しょうがないわね」と苦笑いをしながらも厨房に行ってくれる。優しい良い子だね、本当に。
さて、朝食が来るまで僕とレイラは明日の試合について確認する事にした。
まぁ僕の武器をどうするかと言った感じだ。
待つ事数分。
ルノンとアフロック、それにもう1人女性が料理を持ってきてくれた。
「イズミちゃん、いつも美味しい食材をありがとうね。ヒナタ君もリョウ君もありがとう」
料理を手渡したてくれた女性は、アフロックの奥さんで、ルノンのお母さんでもあるシーヴァさんだ。
ゆるふわウェーブの淡い水色の髪を、肩より少し長いくらいで揃えており、その小柄な体型と合わさると、人形の様に可愛らしい。
まぁ小柄に見えるのは、両隣に背の高い2人がいるからだろうけど。
最も、1番の驚きは、どう見ても20代前半にしか見えないのに、子持ちの人妻だと言うことだろう。
綺麗な奥さんだろう? でも三十路を超えてるんだぜ……。
双子の野球少年の兄が言いそうなセリフが自然と口から出てしまう。
一体何をすればここまで若さをキープ出来るのだろうか?
「……今日は一緒に食べないのか?」
僕とレイラ、ひなぞーと武さんと別々のテーブルに着いている僕達を見て、アフロックさんは疑問に思った様だ。
「明日、この子と腕試しをする事になりましてね」
僕がひと通り説明をすると、アフロックさんは納得した様で、頑張れと応援までしてくれた。
料理を置くとルノンを残し、2人は奥へと戻って行った。ルノンは当然の様に僕の横に座る。
「いずんちゅは、よく喧嘩売ってきた相手と食事が出来るな」
ひなぞーがぼそりと呟く。
その言葉に、レイラはしゅんと肩を落としてしまう。
まぁ普通なら僕だって絶対に御断りだけど、相手が女の子なら話しは別だよ別。
「ごめんね、悪い奴じゃ無いんだけど……女の子の事になるとちょっとね」
「いいえ、きっとヒナゾーさん? の方が正しいのよ。
えっとイズンチュさん……で良かったかしら?」
いずんちゅさんて……。
そう言えば、ちゃんと自己紹介していなかったっけ。
「僕は和泉だよ。いずんちゅはあだ名。まぁどっちでも呼びやすい方で呼んでよ」
「あ、ごめんなさい。じゃ『イズミさん』で良いかしら?」
「呼び捨てでいいよ。さん付けされる程の者じゃ無いし」
「……わかったわ。イズミ」
レイラが頷くと、武さんと一応ひなぞーも自己紹介をした。
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折角の美味しい朝食も、ギスギスした雰囲気では半減してしまう。
どうにかできないかと考えていると、隣に座ったルノンが口を開いた。
「レイラさんって、出身はどこなんですか?」
「私? 私は、ニヴルのスリーズっていう街の出身よ」
ルノンの質問に、レイラは素直に答える。
そういえば、他の国もあるんだよなぁ。レビストフから出たことないから、全然興味なかったよ。
「やっぱり! レイラさん肌がとっても白くて綺麗だから、そうかな~って思って」
何故か、ルノンが嬉しそうに質問攻めにしている。
だいたい、ニヴルってどこよ。
「でも、なんでそんな遠くの国から態々こんな町に来たんですか?」
「この町に来たのは偶然なの。もともと色々な国を巡っていたの」
へぇクエストを受けながら各国を巡る旅か……。面白そうだな。
「フンッ。どうせそのスリーズって街に居られなくなったんだろう」
ちゃっかりと話しを聞いていたひなぞーが茶化し始める。
「そんなんじゃないわよ!」
レイラは直ぐに否定する。
ふむふむ、居られなくなったんじゃないとしたら……、
「それじゃ……元々貴族な感じの暮らしだったけど、親が決めた結婚相手が気に入らず家を飛び出した……とか?」
「お、その線できたか。
なら、家を飛び出したはいいけど、手持ちのお金も少ないし何より親の手が届かない場所に行きたいと思うわな」
僕が仮定した設定に、武さんが後に続いて肉付けをし始めた。
「そこでピンとくる。高ランクになれば、どこでも最低限の収入が見込める冒険者になろう……と言ったところか」
ひなぞーも加わってきた。
それまでの話しを聞いてたレイラの顔色はだんだんと悪くなっている。
「そこで、まずは町で冒険者登録をしたんだね?」
「初期のクエストはほぼ雑用……それもでも、我慢と努力を重ねて、何とか討伐クエストを受けれるDランクに昇格した」
「しかし、この町でいきなりDランクになった冒険者の話しを聞いてしまった」
「自分が今まで頑張って努力してきたのに、そんな苦労を知らず、いきなりDランクになった冒険者。気にならないという方が嘘になるな」
「本当にDランクの実力があるのか。もしかしたらマスターとかの口利きでズルをしたんじゃないか……」
「なら、いっそ自分が戦って実力を確かめればいいと考えた。ついでに今までの鬱憤も晴らしてやろうと思ってたりして?」
「それでギルドで僕達を探して、今ここにいるんだね? 合ってる?」
僕達が考えた設定を言い終えて、レイラを見ると顔は蒼白になっている。
「あなた達……私の事知ってるの?」
レイラが、恐る恐る聞いてきた。
この反応を見る限り、あながち間違っていないのかもね。
「「「いや、すべて想像だが?」」」
「何で……何でそんなにわかっちゃうのよ……」
「なるほどな、俺達が言った事はまんざら間違いでもないわけだ」
「間違いどころか……ほとんど言われた通りよ」
おやおや、もしかしたら僕達は探偵の才能もあるかもしれないよ?
がっくりと肩を落とすレイラを見てそんな事をふと思ってしまった。
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まぁレイラにどんな理由があったとしても、そのことで手加減する事はない。
もともと僕達の実力を知りたいのだから、手加減はしないのだ。
「さて、飯も食ったし、俺らは先に帰るわ」
食事を終えた2人は、先に帰るようで席を立った。
僕は、もう少しレイラ達と話す旨を伝えると、ついでにお風呂の準備をお願いした。
「レイラさんは宿泊のお客さんでいいのよね?」
2人が帰るのを見送ると、ルノンはレイラに確認をとる。
もともと、そのつもりで来ていたのだが、すっかり忘れてしまっていた。
レイラが肯定すると、ルノンは部屋が空いているかどうか調べに行ってしまった。フットワークの軽い子だ。
暫くすると、台帳を片手にルノンが戻ってきた。
「お待たせしました~今ならシングルが空いてますがどうします? 長期滞在ですか?」
急に店員モードで話し始めるルノン。これでも一応気は使っているようだ。
ルノンの質問にレイラは頷いて答える。
どうやら、長期滞在のお客さんはちょっと割引が適用されるようだ。
値段を聞いたレイラは財布を取り出すと、中身を確認し始める。
「40…40…あっ」
レイラは銅貨を数えていたが、小さく声を出すと、そのまま黙ってしまった。
「お金、足りないの?」
「……大丈夫。足りない分はクエストで稼いでくるわ。予約って事でいいかしら?」
どうやら、持ち合わせがなかったようだ。
レイラは、財布をポーチに仕舞うと、いそいそと準備をし始めた。
「それは構わないけど……大丈夫なの?」
「ええ、こういう事は旅をしていればよくあることよ」
それを見てルノンは何かを言いたげにこっちを見つめる。
「イズミ……」
「はぁ……しょうがないね。これで泊めてあげて」
解った。解ったから、そんな目で僕を見ないで!
まったく、僕も甘いな……。
僕は、自分の財布から銀貨を取り出しルノンに渡す。
「さっすがイズミ! だから大好きよ!!」
そういうと、銀貨を受け取ったルノンが思いっきり抱き着いてきた。
一応ルノンにも、僕が男だと伝えてあるのだが……この“大好き”はどっちの好きなんだろう?
「ダメよイズミ。そこまではしてもらえないわ!」
そんな僕達を見て、レイラは声を荒げてくる。
その後、何回か払う払わないのやり取りを行う。
「明日全力で戦うんでしょ?」
「そうだけど……」
「クエスト行ってました、本調子ではありません。じゃやる意味がないよ?」
「…………」
「もし気になるなら、試合の後にでも返してくれればいいから」
「絶対に返すわ!」
「うん、いつでもいいんだけどね。さて、僕はこれで帰るよ。この後シルノの所にも行きたいしね」
実は、試合の際に使う武器の事で相談があるのだ。
あと、この濡れている革装備についても話しを聞いてこよう。メンテとかありそうだし。
「シルノの所に行くの? じゃあ私も行く!!」
何故か、元気に答えるルノン。なんだかとっても嫌な気がしてきた。
僕は、何となく不安な気持ちになりながらも、また迎えに来ると伝えファッカスを後にした。
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