第26話 ロック爺とシルノ

 スルトに連れてこられたのは、町の北西部。商業区の中でも更に奥の方だった。

 今まで知らなかったのだが、北西部には北の山から流れている大きな川が西の側へと流れているのだ。

 その川の近くに鍛冶屋があるのだと言う。


「ロック爺? おーい、ロック爺! 居ないのかー?」


 到着した店先で、スルトが大声を上げている。

 確かに金槌の音が鳴り響くこの店先では、大声を出す必要があると思うが……少々大きすぎじゃないかな?


「煩いわ! そんなに怒鳴らんでも聞こえとるわい!!」


 やっぱり。

 スルトは、店から出てきた爺さんに怒られている。

 この爺さん、背は低めだが体つきががっちりとしており、若々しい印象を受ける。

 頭頂部が寂しくなっていなければ、爺さんとは思えない程だ。


「おお、ロック爺居たか。

 紹介しよう、この人がこの町1番の鍛冶師であるウトガルデロック氏だ。

 ロック爺、この子達はこの町の専属冒険者になってくれたヒナタ、リョウ、イズミだ」


 スルトの紹介でお互いに挨拶をする。


「それで? 今日は何の用だ?」


「この子らの装備を作って欲しいんだ!」


 スルトがそう言うと、ロック爺は舐め回す様に僕達を見てくる。

 そんなに見られるとなんだか照れるのだが……。


「ふんっ小童こわっぱ供はいいとして、そこの小娘は戦えるのか?」


「こう見えてもイズミは魔砲師だ。実力は折り紙つきだぞ?」


 小娘て……まぁいいけどね……。


「魔砲師か……それならばうってつけの奴が居る。シルノ! こっちへ来い!」


 ロック爺が、店の奥に向かって怒鳴りつける。ここは怒鳴らないと人が来ないシステムなのだろうか?


「師匠~怒鳴らなくても聞こえているっすよ~」


 すると、奥から女の子が1人出てきた。

 身長は僕よりも10cm程大きく、150cm台だろう。

 肩口迄のダークブロンドの髪を三つ編みにしている。

 顔は、前髪が目元迄延びているのでわかりづらいが、きっと可愛い。地味だけどよく見ると可愛い系な気がする。もう少しおしゃれに気を使えば絶対にモテる素質はあると見た。


「あ、お客さんっすか? いらっしゃいませっすー」


「シルノ、お前はそこの小娘の面倒をみろ。儂はこっちの小童供をみる」


 挨拶もそこそこに、ロック爺がテキパキと指示を出す。


「了解っす。じゃあお嬢ちゃん、こっちっすよ~」


 僕はシルノに手を引かれ奥の部屋迄連れていかれたのだった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「さてと……改めまして、シルノと言うっす。師匠、ロック爺の元で勉強中の見習い鍛治師っす。お嬢ちゃんは……」


「あ、これは丁寧に。和泉です。20歳の男で、今日冒険者になったばかりの駆け出し冒険者です」


 僕は、連れて来られたシルノの作業部屋で再度自己紹介をする。

 部屋の真ん中に大きな作業台が置かれており、手前の入り口側に僕が、奥の材料や工具が転がっている方にシルノが立っている。


「今、なんて言ったっすか?」


「ん? 駆け出し冒険者です?」


 やっぱり駆け出し冒険者はダメだったのだろうか? 「アタイの装備はそんなに安くないよ! 出直してきな!!」的な事だろうか?


「違うっす。ウチも見習いなんで、そこは気にしないっす。それよりも! 20歳の……男って聞こえたっすけど……」


 よかった、装備は作ってもらえそうだ。

 そんな事よりも、シルノは僕の年齢と性別が気になる様だ。

 まぁ珍しい生き物だと自分でも思うけどね。


「そうだよ、今年20歳になったばかりのバリバリの男だよ」


「え? でも師匠も小娘って……嘘っすよね?」


 僕は苦笑いしながらギルドカードを取り出し、シルノに見せた。

 自分で選んでこの姿になったのだが、会う人全員にこう言う反応されると……ゾクゾクするね!


「本当っす……年齢も性別も間違いないっす……。あの……イズミ……さん?」


「そんなに畏まらなくてもいいよ。こんな姿だしね。今まで通り接して欲しいな。シルノさん」


「ウチの事は呼び捨てでいいっすよ。歳下ですし、そっちの方が慣れているっす」


 本人もそう言っているため、シルノと呼び捨ててにする事にする。


 さて肝心の装備だが、まずは防具から決めて行こうと言う事になった。


 まずサイズを測るため、服を脱ぐ事になった。

 今持っている服は、貰った1着しかないから洗っては着て、洗っては着てを繰り返したので既にボロボロだ。

 お金が入ったら服も買わないとなぁ。


「イズミさん……これ女性の下着っすよ? 本当に男の人なんすか?」


 マジか。

 胸元にも布を巻くからおかしいと思っていたけど、やっぱり女性ものだったか……。


 サイズを測り終えると、今度は防具の種類だ。

 僕は、防御力よりも機動力を重視したい旨を伝えると、金属鎧ではなく、革製の鎧を勧められた。


「胸当てとグローブにグリーブ、フォールドは絶対として……ヘルムはどうするっすか?」


 ヘルムか……出来れば視界は確保したいんだけどなぁ。


「無いと危ないよね?」


「それはそうっすよ。ガブリとやられれば一撃っすよ?」


「一撃かぁ……一撃はやだなぁ」


「それじゃ、ピアスとかはどうっすか?」


 シルノ曰く、ピアスは魔法石をそのまま加工して使うため、特殊効果を持ちつつそこそこの防御力を得られるとの事。


「特殊効果はわかるけど、なんで防御力が得られるの?」


「魔法石にはちょっとした、本当にちょっとした防御壁を形成する力があるっす」


 なんと、いきなりSFちっくな話しになってきたぞ?

 防具に用いる場合、その防御壁を強化する術があると言う。ただ、元の防御力が微々たるものなので、精々が革製のヘルムと同等か少し劣るくらいとの事。

 しかし、ヘルムを被るよりは視界を確保出来るのは素直に嬉しい。

 僕は迷う事なくピアスを選択し、さっそく着けてもらう事にした。


「色はどうするっすか? 今なら黒、赤、青、白があるっすよ」


「色の違いによって性能に差とか出る?」


「出ないっすよ。単純に好みっすね」


 好みと言う事なので、黒を選んだ。

 シルノは黒色の石を2つ選ぶと、別の作業場へ行き数分ほどで帰ってきた。どうやら魔文字を彫る専門の人が居るそうで、その人に彫って貰ったのだと言う。

 刻む魔文字なのだが、右耳に『集音』の文字を、左耳には『探知』の文字を入れて貰った。


「これは常時発動しているの?」


「そうっすよ。装着者の魔力を使って半永久的に発動するっす。永久的じゃ無いのは、外したり壊れたりするとダメだからっすね」


 なるほどねー。でも着けている間中発動しているのは楽でいいな。

 僕は初めて耳に穴を開け、ピアスを装着した。


「どうっすか? 違和感とか無いっすか?」


「違和感は無いよ。スキルも……うん大丈夫、普通に動作するよ」


 試しに探知のスキルを使ってみたのだが、ひなぞーや武さんの位置が手に取る様にわかる。なんとも素晴らしいスキルだ。


「それじゃ最後に武器っすね」


「あ~言い忘れていたけど、武器は持っているんだ」


 僕はハミングバードをポーチから取り出すとシルノに見せた。


「魔砲っすか!? しかもこれ、ギルド本部でも適応者が居なかった連射式っすよね!!」


 おぉう? 意外とシルノの食いつきがいいぞ?

 ロック爺も、うってつけが居るって言っていたけど、まさかこれほどとは……。


「連射式は複製が難しくって、レプリカの数も少ないんっすよね~」


 シルノは、ハミングバードを手に取ると色々と弄り始めた。


「撃ってみる?」


 余りにも撃ちたそうにしているものだから、つい声を掛けてしまった。

 しかし、シルノは少し寂しそうな笑顔を見せると、僕の申し出を断った。


「お気持ちだけ頂くっす。ウチ、適正がないので撃てないんっすよ」


 魔砲がだれでも撃てる代物じゃないと、今更ながら気が付いた。

 これは申し訳ないことをしてしまった。


「あぁイズミさんがそんな顔しなくても大丈夫っす! ウチ撃つことはできないけど、作る事が出来るっすから! これはこれで、人にはない才能だと思っているっす!」


 シルノはそう言うと、確かに笑った。

 その笑顔は、無理をして作ったものではなく。心の底から出たものだろう。


「そっか……じゃあ僕はシルノが作った銃の試し打ちをするよ。いや、やらせてもらえないかな?」


 僕は、シルノの為に僕が出来ることをやりたいと思ったのだ。


「え? いいんっすか? 本当に?」


 シルノは信じられないといった顔で、何回も確かめてくる。僕は、その度に頷き、言葉で肯定をする。

 すると、両目に涙をためたシルノが飛び込んできた。本来の僕なら難なく受け止めるのだが、いかんせん背が足りない。

 僕らはもつれ合う様に床に倒れてしまう。

 しかし、どちらの顔にも笑顔が浮かんでいた。

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