第27話 仲直り

 僕は、シルノと試射の約束をすると、作業部屋を後にした。

 採寸は済んでいるので、あとは出来上がるのを待つだけである。


「あ、そうだイズミさん。そのマガジンを1個貸して欲しいっす」


 スルトの元へ戻る途中で、シルノに声を掛けられる。


「マガジン? 別にいいよ。はい」


 僕は、ポーチからマガジンを1個取り出すと、そのままシルノに手渡す。

 マガジンなんて何に使うのだろう?

 ふと疑問に思ったが、シルノが何か作ってくれるのだろう。


「ありがとうっす! 防具の受け渡しの日に返すっす!」


「うん。よろしくね」


 僕達は、そのままスルトが待っているカウンターへと戻っていった。



 カウンター前には既にひなぞー達が待っていた。どうやら、僕が最後のようだ。


「お待たせ~」


「遅いぞ」


「ごめんて」


 腕を組みながらひなぞーが文句を言ってくる。それにしても、そんなに時間をかけた覚えはないのだが……。


「まぁまぁ。女の子の買い物は時間がかかるんだよ」


 何故か武さんが仲裁に入る。しかし、何故彼は僕の事を頑なに女の子扱いをするのだろう? ……はっ! もしや、僕の処女を狙っている!? ……んなわけないか。


「さて、会計も済んだし。ちょうど時間も時間だから、このまま昼に行かないか?」


 どうやら話しをしている間にスルトが会計を済ませてくれたようだ。

 どこまでもモテそうな男なのだが、未だに未婚なのだという。世の中平等だよね。


 と、スルトの事はどうでもよくて、時間は昼である。ならば、当然お昼を食べなければ!!


「おススメのお店は……」


 何となく質問をしたのだが、返ってくる答えは予想がついている。


「ファッカスだな」


 やっぱり。

 でも、実際にあのお店の料理は美味いのだ。

 僕達は満場一致で、ファッカスに行く事が決まった。


「それじゃロック爺、頼んだぞ」


「完成は3日後と言ったところか。

 まあ任せておけ! 初心者にはもったいない装備を作ってやるわい!!」


 もったいないって……まぁそれ程までにいい装備が出来ると思っておこう。


「イズミさん、ウチ頑張るっすよ!」


「うん、お願いします。あ、そうだ、シルノも一緒に行く? お昼」


「いいんっすか? お邪魔じゃなければ御一緒したいっす!」


 シルノは嬉しそうに声を弾ませている。

 一応上司でもあるロック爺にも許可を取りシルノを加えた5人で移動を開始した。



 昼時と言うことで、ファッカスは大賑わいを見せていた。


「……よく来たな。今席を片付けるから少し待っててくれ」


 店先で待っていたら、アフロックが出て来てくれて、席へと案内してくれた。

 アフロックは注文を取ると、厨房へと戻って行ってしまう。ボーと店内を見回していると、ウェイトレスが3人忙しそうに働いている。その内2人は昨日の夜も働いていた人で、もう1人はここの娘さんのルノンちゃんだ。


「ルノンちゃんも働いているんだね」


「ルノンはお手伝いっすね。まだ夜のお店には出させて貰えないって愚痴っていたっす」


 そう言えば、今朝も本人から同じ様な事を聞いたっけ。その後の鯖折りが強烈過ぎて忘れていたよ。


「お待たせしました~ランチで~す」


 シルノと話していると、ちょうどルノンちゃんがランチを持って来てくれた。


「あ……イズミさん……と、シルノじゃない。どうして一緒に?」


 一瞬僕を見て気まずそうになったルノンちゃんだが、すぐに隣に座っているシルノを見つけると話しを変えて来た。

 シルノはそんな僕達を見て首を傾げるが、ルノンちゃんに僕がお客としてロック爺の工房を訪れた事を伝えてくれた。


「それにしても、イズミさんはルノンと顔見知りだったんすね」


「あ~昨日の夜泊まったんだ。そして朝食の時に知り合ったんだよ」


 朝食と言う単語にルノンちゃんは過敏に反応する。その様子を見て、シルノは納得した様に頷いた。


「それじゃその時にやっちゃったんすね……イズミさん可愛いっすから」


「シルノ!?」


 なんと、シルノは苦笑いをしているが、今朝あった事を的確に当てて来た。


「シルノは知っているの? ルノンちゃんの癖」


「ウチも昔やられたっすからね~。あ、ウチとルノンは同い年なんすよ」


 なんと、シルノも被害者の会のメンバーだった。それに2人は同い年の幼馴染なんだと言う情報も手に入った。


「だってしょうがないじゃない……可愛いものが好きなんだから……」


 ルノンちゃんは、どこか拗ねた感じで呟いている。


「これからは、少しずつ抑える様に努力していけばいいんだよ。練習には付き合うからさ」


 僕の申し出に、ルノンちゃんはやっと表情を和らげた。

 ルノンちゃんは何方かと言えば綺麗系に入る。そんな彼女の笑顔は、正直ドキッとさせられる。


「そ、それじゃ温かい内に頂こうか? シルノ」


「そうっすね。いただきますっす」


 僕は動揺がバレない様に、運ばれて来た肉料理を頬張る。勢いよく口に掻き込んだ肉料理だが、豚の生姜焼きに近い味がして是非ともごはんが欲しくなる。


「ねぇイズミさん。なんでシルノは呼び捨てなのに、私はちゃん付けなんですか?」


 そんな時、横からルノンちゃんの声が聞こえてくる。それも先ほどの様にどこか拗ねた感じで。


「え? えっと、シルノに呼び捨てで良いと言われたからだけど……」


 少し馴れ馴れしかったかな? 親友を取られた感じになっちゃったかな? ならば、


「シルノちゃん?」


「!? 何なんっすか!? 小っ恥ずかしいから止めて欲しいっすよ!!」


 物は試しにと、シルノをちゃん付けで呼んでみたが、予想外に顔を赤くして照れてしまった。

 見ている僕は楽しいのだが、これでは話しが出来ないからダメだろうな。


「違います! シルノをちゃん付けで呼ぶんじゃなくて、私を呼び捨てで呼んで欲しいんです!!」


 何と、いきなり呼び捨てとな?

 まぁ仲直りのしるしとして呼んでも良いのかもしれないなぁ。


「えっと、じゃあルノン?」


「!? はいっ! イズミさん!」


 ルノンは、呼び捨てにされた事に最初は驚いた様だが、直ぐに満面の笑みを浮かべると、僕に抱き付いてきた。全力で。


「ありがとう! イズミさん!」


 座っている状態だったので、顔がモロにお腹に埋まる。もう少し上だったらオッパイを堪能出来たのに……なんて一瞬思ってしまったが、相変わらずの(物理的な)包容力で一気に息が出来なくなる。


「のぉぉぉぉぉ……」


「ルノン! 締まっているっすよ!!」


 女の子の柔らかい感触と甘い匂い。そして背中の激痛に挟まれ僕は意識を手放した。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 僕が命がけのじゃれ合いをしている間に、スルトとひなぞー達は、お金の事について話し合いをしていたそうだ。

 とりあえず、レビストフから1万グラーが貸付られる事になっていた。

 この1万Gだが、日本円に直すとおよそ100万円にもなる。異世界で借金100万円とか……なかなかヘビーな話しである。


 因みに、ムスペルで流通している硬貨は3種類あり、金貨、銀貨、銅貨である。

 銅貨は1枚1Gで、銀貨はこれの100倍の1枚100Gになる。金貨はさらに100倍の1枚1万Gとなっている。


 1万Gの使い道だが、1人頭3000Gで装備代を残りの1000Gで生活費をと考えていたそうだ。

 しかし、ひなぞーの装備で4000G、武さんは4500G掛かってしまった。

 これでは、僕の分の装備代が払えない上に生活費も無くなると言う事で、3000Gを頭金にして、残りはツケにしてもらえるように頼み込んだとの事。

 因みに、僕の装備代は全部で2800Gだったらしい。武器が無いぶん安いのだろう。お釣りの200Gは受け取って、僕の財布の中だ。


 さて、返済期限だが、今年の雨季迄の返済となった。例年ではだいたい3ヶ月後には雨季に入ると言う。

 それにしても、3ヶ月で100万円の借金返済って……これまたヘビーだ。


 と言う事で、今僕の目の前には、1000Gの入った革袋が置かれている。どうやらお金の管理は、僕がやるそうだ。気絶している間に決めないで欲しい……。


 生活費の中から先ほどの昼食代と、もしもの為に今晩の宿泊代をアフロックに支払い、ファッカスを後にした。

 ずっとファッカスにお世話になってもいいのだが、宿泊代を考えると家を借りた方が安い。雨季迄は町で家賃を持ってくれるしね。


 シルノとは店の前で別れ、僕達は念願の? マイホームを見にスルトの後を歩いていくのだった。

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