第15話 キャンプです③

「元気な声が聞こえてきたけど、無事狩れたのかな?」


 僕達の声を聞いて、アウルさんが駆け寄って来てくれた。


「フォレストラビットが3羽だね。おめでとう、よく頑張ったね」


 アウルさんは、倒れているウサギを確認すると、僕達を褒めてくれた。

 こうして素直に褒められると、嬉しいやら気恥ずかしやらで、顔が赤くなる。


「それじゃ急いで血抜きをしよう!」


 チヌキ? はて、チヌキとは……?


「緊張を緩めてひと息つくことだよ」


「それは息抜き」


「縁日などでよく見る決まった形にくり抜く遊びだろ」


「もしかして型抜きの事かな?」


「ははは、バカだなぁ2人とも、塩漬けした食材の塩分を抜く事ですよね? アウルさん!」


「うん、それは塩抜きだね。しかも、自分から“塩”って言っちゃってるね」


 見事にアウルさんが、ツッコミを入れてくる。てか、よく型抜きを知っていたなぁ。


「はいはい、冗談はそこまでにして、さっさと処理をしよう。血抜きに失敗するとせっかくの肉が不味くなるよ」


 肉が不味くなる。その一言は、僕達を働かせるには十分すぎるほどの威力があった。


 まず、ウサギの状態の確認をする。2羽のウサギは首から上がなく、残りの1羽は、頭を射抜かれている。弾の貫通力が強かったため、綺麗に穴が空いている。

 自分達がやっておいてなんだが、けっこうグロい。


 アウルさんがお手本として1羽の血抜きをしてくれて、残りの2羽は、ジャンケンで負けた僕とひなぞーがやることになった。


 血抜きを済ませたウサギは、宿営地に戻ってから解体することになった。なら「宿営地で全部済ませばいいのではないか」とアウルさんに質問したら、

 もし、匂いを辿って肉食のモンスターが宿営地に来たら全滅するから。

 と回答が返って来た。

 まぁ寝てるところをモンスターに襲われたくないよね。



 さて、宿営地へと戻って来た僕達は、早速解体作業を行うことになった。

 ここでも、アウルさんがお手本に1羽を解体し、残りの2羽を僕と武さんが解体した。

 なぜ僕が両方やっているかって? ジャンケンで負けたからだよ!!


 見よう見まねの解体作業は、やはりと言うか難航した。

 内臓を潰してしまったり、肉を削ぎ落としてしまったりと散々な結果だった。


「まぁ、初めから上手く出来る人はいないからね。焦らず、じっくりやっていこう」


 その日の夕食は、念願の肉を食べれたのだが、やはり処理に失敗している肉は美味しくなかった。

 次こそはと、決意を胸に眠りについたのだった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 初狩り成功から、さらに3日が過ぎた。

 あれから、1人1日1羽の制約を設けて、狩りの練習を続けた。ウサギは大量に居るのだから、それこそ1日中狩りをしたかったのだが、アウルさんからストップがかかったのだ。


 いかにウサギがモンスターだとしても、自然の一部であることに違いはない。

 人里近くならば、農作物を荒らす害獣なのだが、ここにはウサギしか居ない。であるのならば、駆除するのは御門違いというものだろう。


「要は、バランスなんだよ」


 とアウルさんは、笑顔で言っていた。

 バランスか……。わかっていた様で、全然わかっていなかったんだなぁ。

 アウルさんから、冒険者として1番重要なことを学んだ……気がした。


 さて、3日間で3羽のウサギを捌いた僕達は、新しいスキルを習得した。

 それは、3日目の作業を終えた時だった。


-•ー•ー•ー•ー•ー•ー•ー•ー•ー•ー•ー•ー•ー•ー•ー•ー•


 特定の経験値が一定に達しました。

 スキル【解体】を獲得しました。

 スキル【野営】、【採取】、【解体】のスキル獲得を確認。

 3つを統合し、【冒険者】に進化しました。


ー•ー•ー•ー•ー•ー•ー•ー•ー•ー•ー•ー•ー•ー•ー•ー•ー•


「何度聞いても、このアナウンスは慣れないな」


 どうやら、ひなぞー達にもアナウンスが流れた様だ。ひなぞーが、頭を振りながら愚痴ってくる。


「まぁねぇ。もう少し柔らかい物言いなら良かったのにね~」


 実を言うと、僕も、機械的なアナウンスが苦手だった。

 もっとこう、フレンドリーな感じで、報告してくれた方が好きだな。


 さて、僕達は【冒険者】のスキルを獲得したのだが、これで何個目のスキルなんだろうか?

 確か、メインの武器で4つ。サブで幾つか貰っていて、そこに僕は【格闘】と【冒険者】か。

 メインの4つも、何を貰っているのかわからないし……。どこかで確認出来るのだろうか?


「うん、狩りも解体も問題なしだね。野営の準備も出来るし、薬草などの採取も出来る。

 それじゃ町に帰ろうか」


 アウルさんは、僕達が解体したウサギの肉を見て、笑顔でOKサインを出してくれた。


「「「っしゃーーーー!!」」」


 これで、このキャップ生活からオサラバ出来る!

 1週間とちょっとしか経っていないが、それでもこの1週間は長かった。


「まさか、7日程で出来る様になるなんてね。1ヶ月は掛ると思っていたのに」


 多分、アウルさんが言っている1ヶ月と言うのが、正規の平均時間なんだろう。

 毎日1羽のウサギを狩って、解体をする。それを30日続けて、ようやくスキルを習得出来る。僕達は、それを3日で獲得しているので、通常の10倍近い習得スピードと言うことになる。チートが凄まじいね。


 夕飯を食べ終えた僕達は、後片付けを始める。

 明日の朝には、町に帰るため、調理道具など全て綺麗にして片付けることになる。


「アウルさん、残ったお肉は、またこの箱で良いんですよね」


 いくら僕達が食べると言っても、大型犬サイズのウサギ3羽を食べきる事は出来ない。

 余った肉は、アウルさんが用意してくれたこの『保存箱』に入れる様に言われている。どうやらこの箱、魔文字による処理がされている様で、『中に入れた物を、現在の状態のまま保存出来る』とのこと。

 なので、この箱で保存し、町に帰ってからギルドに売るそうだ。レビストフでは、肉と言えばウサギの肉を指すくらいよく食べられているので、高く売れるそうだ。


 まぁ箱にデカデカと、『保存』なんて書かれていれば、バカでもわかると言うものだ。


「それにしても、こんなに大きく書かなくてもいいのにね~」


「え? イズミちゃん、この文字が読めるのかい?」


 どうやら、口から漏れた呟きを、アウルさんが聞いていた様だ。しかし、そんなに驚く事だろうか?


「え? 読めますよ?」


 漢字で書かれているのだから、真面目に学校に行っていれば嫌でも読めるのに。この世界には、学校が無いのだろうか?

 僕は、何をそんな事をと思いつつも、箱入れ作業を続けた。


「それ、魔文字マジック•ワードだよ? 読める人なんて、それこそ国の研究員か専門の鍛冶屋位じゃないかな?」


「……え?」


「え?」


 おや? これはいったいどう言う事だい?

 僕達は、お互いに首を傾げるだけで、答えは出てこない。

 まぁこの事は、次にナビちゃんが来た時にでも質問しよう。どうせ、ここ町の専属冒険者になった時に来るだろうし。

 僕は、勝手に納得し、未だに悩んでいるアウルさんを放置すると、片付けを再開したのだった。

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