第14話 キャンプです②

 孤島に連れて来られてから、3日の時間が流れた。

 あれから僕達は、各々の武器を最大限に使いこなせる様に練習を重ねた。

 ひなぞーと武さんは武器の握り方から素振り、時には木なんかを標的とした練習もやっていたそうだ。

 僕は、木の的に単発とフルオートを交互に撃ったり、動いた敵を想定して、アウルさんに投げてもらった木の実なんかを撃っていた。


 当然練習に時間を割くため、僕達の食事は日に日に質素になっていく。

 保存食を食べきったという事は、事実だったらしく、アウルさんと一緒に探したキノコや薬草、木の実などが主食になった。

 おかげで、僕達は【採取】のスキルを取得出来たのだが、弊害も起きていた。それは……、


「キノコはイヤキノコはイヤキノコはイヤキノコはイヤキノコはイヤキノコはイヤキノコはイヤキノコはイヤキノコはイヤキノコ……キノコ……キノコ……」


「お肉が食べたい……お肉が食べたい……お肉が食べたい……お肉が食べたい……お肉が食べたい……お肉……にく……ニク……」


「…………………………」


「あはは……完全にね、これ」


 アウルさん以外壊れたのだ。

 キノコキノコと連呼する武さん、お肉の欲望に憑りつかれた僕、ここ数日一言もしゃべらないひなぞー。傍から見たら、このパーティはもう終わっているだろう。

 しかし、よく考えてほしい。大の男が3日間もお肉を食べないのだ。これは壊れて仕方がないだろう。

 この際、食べられるのならもう何の肉でも構わない。ウサギが可愛そう? 知ったことか!!


 これ以上は危険だと判断したアウルさんは、僕達を初日にウサギと遭遇した場所まで案内してくれた。町に引き返すのではなく、ウサギが居るところへ連れて来てくれたのは未だに訓練が続いているからだろうか?


「さぁ君たち、リベンジだよ!」


 リベンジ。

 その言葉を聞いた瞬間、ひなぞーと武さんの目の色が変わった。その瞳は確実に獲物を捕らえ様とする狩人の目だ。たぶん、僕も同じ目をしているんだろうな。


「準備はいいかい?」


 アウルさんが、確認のため聞いてきてくれる。が、その質問は、今の僕達には愚問だろう。

 武さんは既に片手剣を抜いているし、ひなぞーも背負った大剣を何時でも抜ける様に柄を握りしめている。かく言う僕もハミングバードに魔力を装填済みだ。


「いいかい、あくまでも食料調達の為の狩りだからね? 狩りすぎはよくない。1人1羽迄だからね?」


 アウルさんは若干引きながらも、さらに注意を重ねてくる。たぶん僕達の目が尋常じゃないほど鬼気迫っているんだろう。


「はぁ……もう行っていいよ」


 アウルさんのGOサインが出た瞬間に、僕達は、目標に向かって走り出した。

 お肉、お肉様が目の前に! 待っていろよ、お肉様!!


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 一斉に走り出したのはいいが、何故か発見するたびにウサギお肉たちが逃げていくのだ。この前来た時は、むしろ向こうから挑んで来たくらいなのに……おかしいぞ。


「おい! ウサギどもが逃げていくぞ!」


 武さんも不思議に感じたのか、一旦足を止めると話しかけてくる。


「武さんはバカだなぁ、逃げるウサギお肉以上のスピードを出せばいいんだよ!」


「和泉さんは天才か!?」


 逃げるならそれ以上のスピードで追えばいいだけじゃない。簡単な事さ!

 僕達は1回頷きあうと、立ち止まり開いてしまった差を埋めるべく足に力を入れて走り出した。

 が、走り出す瞬間に首が絞まり、後ろへ引っ張られてしまった。横を見ると武さんも同じように尻餅をついている。

 僕と武さんがやられたのなら、犯人は奴しかいない。


「けほっけほっ。何するよ! ひなぞー」


「首がっ……オレの首がっ!」


 せっかくのお肉様が逃げてしまうではないか! と抗議の意味も含めて、僕はひなぞーを睨みつける。

 しかし、そのひなぞーから返ってきたのは、とても残念なものを見る目だった。


「少しは落ち着け。そんなに殺気立って追いかけたら、捕まるものも捕まらん」


 落ち着けと? 3日間我慢したお肉様が目の前にいるのに、落ち着けと??


「ひなぞっ!?」


 文句を言いかけたところで、口を封じるようにひなぞーの手のひらが掴みかかってきた。

 というか、これは既にフィンガークローだ。


「落ち着けと言ったんだ。いいか、ここで奴らを逃したら今晩もキノコと草だぞ」


 キノコと草。その一言で、一気にテンションが下がる。

 武さんもその一言で落ち着けたのか、静かに隣へと移動する。


「落ち着けたか」


ほひふひはほ落ち着いたよはほひはひあと痛い


「今のオレは賢者タイム真っ只中だぜ?」


 若干1名言っている事がアレだが、ここで話しを聞いているって事は理解しているのだろう。


「よし、それじゃ作戦をねるぞ。さっきこのバカが言ったウサギよりも早く移動するってのは、当然だが却下だ」


「だよなぁ、野生動物よりも早く移動って、和泉さんバカじゃね?」


 武さんが、明らかにバカにした顔でこっちを見てくる。

 提案した時は乗り気だったくせに……取り敢えずムカついたから撃っちゃえ。

 僕は、左隣にいる武さんに銃口を向けると、なんの躊躇いもなくトリガーを引く。しかし、残念な事に丁度左手に装備していた盾に当たり武さんには直撃しなかった。


「っぶね!? 本当に撃ちやがった!!」


「チッ、はふひはは外したか


じゃれるな、バカ。もうさっさと説明するぞ。

 まず、このバカが獲物を追い込む。そうしたら、待ち構えている俺らが1匹ずつ仕留めて終わりだ」


 このバカの部分でひなぞーに持ち上げられる。僕は物じゃないんだけどなぁ。あと、いい加減放して欲しい。

 しかし、作戦自体はなんとまぁ簡単で、覚えやすいんでしょう。

 でも待って欲しい、その作戦だと2人は狩れるが、僕の分はどうなるんだろう?


ほふは僕は? はははひへひひほ狩らないでいいの?」


「いずんちゅは遠距離かられるだろうが」


 なるほどね、残ったのか逃げ出したのを狩ればいいのね。


「なぁ、なんでそれで会話が出来るんだ?」


 武さんが、僕らの会話に疑問を持った様だが……はて? 何処か問題でもあっただろうか?


「別に普通だが?」

へふひ別にふふふはへほ普通だけど?」


「もういいよ、お前達に聞いたオレが、バカだったんだ」


 なんか、1人で悩んで1人で解決しちゃった様だけど。何がしたかったんだろう?


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 作戦開始という事で、ようやくひなぞーのフィンガークローから解放される。なんか下顎がおかしい気がしないでもないけど……。


 僕は今、ウサギが逃げ出した方向へと全力で走っている。ひなぞーと武さんは、作戦通り待ち伏せをしているはずだけど……。この運動量から考えるに、1番キツイ担当なんじゃなかろうか?

 疑問に思いながらも、森の中を疾走すると、ようやく逃げ出したウサギ達が視界に入ってきた。しかも、御誂え向きに3羽に増えている。

 ここからは、慎重に行動をしなければならないね。


 なるべく音を立てずに反対側へと移動すると、ハミングバードをセミオートで乱射する。

 すると、案の定ウサギ達は今まで僕達がいた方、つまり、ひなぞーと武さんが待ち伏せしている方向へと逃げ出した。


「ほらほら、逃げないと撃っちゃうぞ!!」


 僕は、ウサギ達が待ち伏せのルートから外れない様に、牽制をしつつ追いかける。

 撃ったり、走ったり……やっぱり僕が1番キツイんじゃないの?


 走り続けること数分。ようやく2人が隠れている近くまで接近する。


「武さん! ひなぞー! 準備!!」


 僕の言葉に反応して、武さんとひなぞーが進路を塞ぐ様にサッと現れる。

 しかし、さすが異世界のウサギ達と言ったところか。急に現れた武さん達に驚きはしたものの、逃げる素振りを見せない。

 それどころか、むしろ蹴り倒すと言わんばかりにさらに加速した。


「はっ!」


 ひなぞーが鋭い気合いを入れ、両手で持った大剣を一閃する。


「そぉーい!」


 武さんは、逆に気の抜ける気合いを入れた。しかし、その気合いとは裏腹にウサギの蹴りを上手く受けると、右手に持った片手剣を振り抜く。


 2人の動きが止まった時、2羽のウサギの頭と体がサヨナラをした。僕もその隙を逃さず、驚きで動きを止めた最後のウサギを狙撃する。動いているならともかく、止まった的は外さない! と思う!!


 1発の銃声が轟き、最後のウサギも地に伏せた。そして今、僕達の周りで動くものはいなくなった。


「「「よっしゃーーーー!!」」」


 僕達は、初めての狩りを成功させたのだった。

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