第13話 キャンプです①

 皆さんこんにちは、和泉です。

 僕達は、文明が何もない孤島へ来ています。

 そして、今まさに……


「おい! いずんちゅボケッとするな! 食材が逃げる」


「和泉さん! そっち行った!!」


「ほらほら、のんびりしてると夕飯が無くなるぞ~」


 森の中でウサギと追いかけっこをしています。


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 話しは少し遡る。

 冒険者ギルドで、装備とキャンプ用品を借り受けると直ぐに、今回の合宿の教官と名乗る男性が、僕達の前に現れた。


 教官の名前はアウルと言い、この町のベテラン冒険者なのだという。

 ひなぞーよりも背が高く、防具の上からでもわかるほど筋肉が発達している。爽やかな好青年風の顔は笑った時の白い歯が特徴だ。

 ただ、ひなぞーや武さんよりもイケメン度が低い為、後ろから撃たなくてすみそうだ。

 イケメン死すべし。


 そんなアウルさんに連れてこられたのは、南側の港より船で移動する事約30分の所にある無人島の1つだ。

 船が停められる海岸部分を除くと、全てが森となっている孤島だ。この森は、比較的大人しいモンスターしか生息していないとの事で、よく初心者の合宿に利用されるそうだ。

 そんな孤島で僕達は、1人前になるまでキャンプをするらしい。


 海にほど近い場所にギルドによって定められている宿営地がある。そこに荷物を置いたところで、アウルさんがとんでも発言をしたのだ。


「それじゃ晩御飯を獲りに行こうか」


 ギルドから借りたキャンプ用品の中には、食料はおろか水すら入っていなかった。そこで、アウルさんは今日の晩御飯を獲りに森へ入ろうと言うのだ。

 幸いな事に、宿営地の近くには飲み水が確保できる沢があるという事なので、最悪死ぬことはないだろう。

 僕達は、渋々と武器を片手に森へと足を運んだんだ。

 そして話しは、冒頭に戻る事になる。


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 などと思いに耽ってみたけど、これ全部今日1日で起きた事なんだよね……。

 僕は2人に追い込まれ、目前に迫り来るウサギにハミングバードの銃口を向ける。


 アウルさんが今日の晩御飯に指定したのは、この森に多く生息しているフォレストラビットと言うウサギのモンスターだった。

 最初ウサギと聞いた時は、楽勝だと思っていたのだが、その実物を目にした瞬間に僕の自信は、木っ端微塵に吹き飛んだ。

 なぜならこのウサギ、



 デカいのだ。



 遠目で見た時に、普通の大きさのウサギだった事を疑問に持つべきだったのだ。

 至近距離まで近づいたウサギは、大型犬と同じかそれ以上だった。


 直立のままでウサギと目が合う日が来るなんて思ってもみなかったよ。でも、今は怖がっている場合じゃない。なぜならここで仕留めないと晩御飯が無くなるんだ!!


「ごめん!!」


 僕は祈るように左手に持ったハミングバードのトリガーを引いた。左手に軽い反動が来ると同時に、森に発砲音が響く。

 僕達の世界のP90と性能が同じなら、マガジン内にある50発の弾が、毎分900発のスピードで発射される。フルオートなら約3秒で弾切れを起こす計算になるね。


 あれ? 何も反応が無い……。ウサギが鳴くかわからないけど、撃たれれば何かしらのアクションはあるよね?

 僕は恐る恐る目を開くと、そこにはどアップになったウサギが……。


「ボゥエ!!」


「「いずんちゅ!?」」


 腹部に強烈な衝撃を感じると、一瞬の浮遊感の後、背中に激痛が走る。

 どうやらウサギに吹き飛ばされたようだ……てかお腹と背中が超痛い!!


「痛い! あ~もう死んだ! これ絶対に死んだ!!」


「いや、イズミちゃん。ウサギの蹴りで死んだ冒険者はいないよ」


 真横からアウルさんの声がするってことは、僕は数メートル吹き飛ばされた事になる。

 ヤバイ、ウサギ、ヤバイ……。

 アウルさんに確認すると、ウサギは僕に一瞥もくれずに去って行ったそうだ。


「とりあえず、イズミちゃんはこれ飲んでおいて」


 アウルさんが、1本のフラスコを手渡してくる。

 見た目は、濃い青汁が入ったフラスコの様だが……ここで青汁を飲む理由がわからない。


「ポーションだよ、ギルドから支給されたものだから値段とか気にしなくていいよ」


 おお、ポーション! ゲームの中では、有名な回復薬が、今、僕の目の前に!


「赤くないんですね」


「お、よく知っているね。基本的なポーションは“レッドポーション”って言う赤色なんだ。この“グリーンポーション”はギルドが独自に開発したもので、効力は落ちるが値段が安い。

 逆にレッドポーションよりも強力な“ホワイトポーション”っていうのもあるけど、これは値段がね……」


 アウルさんは、そう苦笑いをした。

 言いたい事はわかる、きっと高いのだろう。どの世界も世知辛いね。


 その他にも、痛み止め的な“イエローポーション”。魔力の回復に使う“ブルーポーション”があるのだと。

 魔砲を使う僕は、ブルーポーションを多めに所持する事を薦められた。途中で魔力切れを起こすと、何も出来なくなってしまうから備えは大事だね。


 頂いたポーションは、見た目程苦くはなく、スッキリとした味だった。


「あと、俺は魔砲については、よくわからないんだけど、目を瞑って攻撃するのは、やめた方がいいよ」


 ポーションを飲んでいると、アウルさんにちょっとしたアドバイスを貰った。

 アドバイスと言うか、何と言うか……。


「あ……」


「いずんちゅよ、お前はどんだけバカなんだ?」


「目を瞑って銃をぶっ放すとか、マジ和泉さんクレイジー」


 ひなぞーと武さんも集まって来てくれた、軽く暴言を吐きながら。こいつらは優しさってものが無いのだろうか?


「とりあえず、君たちはまず自分の武器を理解する所から始めようか?」


 アウルさんは、苦笑いをしながら提案してくるのだった。


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 宿営地に戻り練習を……と思ったが、まだ自分たちが寝る用のテントを、設営していなかった事に気がつく。と言うわけで、僕達は練習を明日に控え、テントの準備をする事になった。


 借りてきた装備の中には、1人用のテントがあり、今日からそれで寝泊まりする。

 アウトドアの経験なんてほとんど無い僕達は悪戦苦闘の末、ようやくテントを張り終えた。


「思ったより時間がかかったね。今日はしょうがないから、俺が用意したごはんを食べるとしようか」


 アウルさんはそう言うと、次々と食材を取り出した。

 今日のメニューは、干し肉に水っ気のない硬いパン。それと簡単なスープだ。

 食材が無いなんて言っといて、十分に用意してあるじゃない。


「それじゃイズミちゃん、火を熾してくれるかい?」


「わかりました、アウルさん。わかりましたけど1つ訂正を、僕はじゃないです。です」


 最初の自己紹介の時に、男だとはっきり言ったはずなのだが、何故か付けで呼んでくる。

 いい加減覚えて欲しいものだ。


「…………そうだったね。ごめん、ごめん」


 一瞬黙ったが、アウルさんはそのまま簡単に謝ると、直ぐに準備を始めてしまった。これは絶対にわかっていない。


 アウルさんに、僕が男だとわかるまで説明しようかと思ったが、それでは夕飯が遅くなると思ったので、僕は諦めて火を熾す事にした。

 確か借りた荷物の中に、火打ち石があったよなぁ。何処に入れたっけ?

 ごそごそと荷物を漁り、ようやく火打ち石を見つけると竃へ直行する。


 しかし、竃の中には何もなかった。着火剤は無理だとしても、薪くらいは入れておいてくれてもいいじゃない?


「アウルさ~ん、薪が有りませ~ん!」


 薪ってあるのかな? まさか今から森に取りに行くって事ないだろうけど……。


「あれ? 魔石が入っていなかったかい?」


 アウルさんは首を傾げながら、自分の荷物の中を探し始めた。

 ここでも魔石か、本当に生活の中心なんだな。


「あったあった、はい、イズミちゃんこれを使って」


 そう言って差し出してきたのは、どう見ても火打ち石だった。


「いや、アウルさん。火打ち石はあるんです。薪が欲しいんですけど……」


「ヒウチイシ? これもそれも、火の魔石だよ?」


 アウルさんは、そう言うと手に持っている火打ち石を竃の中に置き、片手剣の鋩でコンッコンッと2回ほど叩いた。

 すると、火打ち石がだんだんと赤く変色したと思ったら一気に燃え上がった。


「こう、石に刺激を与えると、保有している魔力分だけ燃え上がるんだ。魔力が無くなったらまた補充してもらえば何回でも使えるしね」


 アウルさんは、笑顔で説明をしてくれるが、僕はそれどころじゃなかった。

 刺激を与えると燃える石。それを火打ち石の変わりに使おうとしていたのだ。あのまま手に持ってカチカチとやっていれば……。

 なんか知らないうちに大火傷を回避できたことを、神に感謝しよう。

 

 その後、ほどなくして料理が完成した。


「まさか初日で非常食を使う事になるなんてね、これで僕の手持ちも無くなったから、明日から真剣に食材を探すよ」


 アウルさんが笑顔で言ってくるが、内容は決して笑えるものでは無い。

 明日からは真剣にやろう。心からそう思った夜だった。

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