第7話 ここはどこ?
「それにしても見違えたぞ、デブ」
「まったくだよ、このおデブ」
「あのさ、再会してすぐに罵倒するってどうなの?」
その後、なんとか落ち着きを取り戻した2人にいきなり罵倒されるとか、僕そんなに悪いことしましたかね?
「しっかし、その姿。完全に女になったのか」
「それが、こんななりなんだけど、男なんだよ」
ひなぞーの質問に僕は正直に答える。まぁこんなところで嘘をついてもしょうがないしね。
「マジか、男の娘ってやつか。それにしても見た目は完全に女の子なんだな」
武さんは興味深そうに人の頬を指でぐいぐい押してくる。
触るでもつつくでもなく、ぐいぐい押してくるのだ。
普通に痛い。
「やめれ! 痛いわ、まったく……。
ここがゲームだとすると、少しおかしいんだよね。ナビちゃんの所で僕は『女』を選択したのに、僕は容姿だけ変わって実際は男のままなんだよ」
武さんの指を払いのけると僕はひなぞーと会話を再開する。
ひなぞーは僕の言葉を聞くと顎に指を添える格好で考え始める。
何をするにも格好良くなるからイケメンって嫌いだ……。
「まぁオレ達は性別を男にしたから、なんら違和感がないけどな」
払いのけられた指をさすっていた武さんも参加してきた。
てか、そんなに強く払ってないでしょうに。嫌味か。
「もしかしたらゲームじゃない……のかもな」
「「ゲームじゃない??」」
ひなぞーの呟きに僕と武さんは声を揃えて聞き直してしまう。それもそうだろう。ゲームじゃなかったらここはいったい何処さ。
「ひなぞー、ゲームじゃないってどう言うことだ?」
「まず、いずんちゅがさっき『痛い』と言ってたが、ゲームではありえないんだよ」
フルダイブ型のVRゲームの場合、安全対策の為痛みに対する設定は出来る限り厳しく設定されている。精々がちょっと強めのバイブレーション位と言う話しだ。
そう言えば、先ほどの武さんの指で突かれた時、僕は普通に痛みを感じた。
「次にいずんちゅの姿。このバカは、ネカマでもしようとしたのか女の性別を選択した。だが、姿は変わっても肝心の性別は男のままだ」
バカて……実際にそうなので反論出来ないけどさぁ……もうちょっと友人を大事にしようぜ?
「これは脳の作りやホルモン辺りが関係していると思うのだが……聞くか?」
ひなぞーの問いかけに、またもや武さんとシンクロして首を振る。そんな専門店な事を言われたところで理解できるなんて思っていない。
「まぁいい。そして最後に……もし、仮にこれがゲームだとしてだ、どうやって終わらすんだ」
どうやってって……普通にログアウトすれば良いんじゃないの?
「ログアウトすればいい。だろう?」
僕の代わりに武さんが答えてくれた。
てかゲームを辞めるにはログアウトしかないでしょ?
「どうやって」
どうやって? メニューを開けば……。
「そうか! メニューがない!!」
僕は思いつく限りの方法でメニュー画面を表示させようとするが、一向にメニュー画面は表示されなかった。
「どうするのさ!」
「いいから落ち着け、こちら側からログアウト出来ないとなると、後は向こう側から操作してもらうしかないと思っている」
向こう側? 向こう側って何処さ?
「アマツカさんか」
「そうだ。きっとモニターしていると思うのだが……これも確証がないな」
ダメだ。話しについていけない。2人は僕をおいてどんどん話し合っていく。
これ僕いらなくない? お婆さんの手伝いに行こうかしら?
しばらく2人の話しを流し聞きしながら、自分の髪をいじっていると頭上に衝撃が走った。
「痛った!? 何するよ!」
「ちゃんと話し合いに参加しろ、オカマ野郎」
目線を上げると拳を握りしめたひなぞーが目に入る。
こいつめ2人だけで話してたクセに黙ってたら殴りやがったよ! なんて奴だ。
「実際に殴ったのに、さらに言葉の暴力まで振るうなんて」
「話しを聞いていないお前が悪い」
ひなぞーはまったく悪びれる様子もなく話し始めた。
すぐに暴力に訴えるとかどこのチンピラだよ。まったく……。
「さすがにこのままログアウト出来ないとまずいな」
まだログアウトの件で話しをしていたようだ。他に話題も無いのだろうけどさ。
「何がまずいのさ。もう向こう側から連絡が来るのを待つしか無いんじゃないの?」
僕の意見に武さんも頷いているが、ひなぞーだけは1人だけ渋い顔をしている。
「お前ら、飲まず食わずでどれだけゲームをやっていられるんだよ」
飲まず食わずでゲームを? そうだね、ゲームの種類にもよるけど……まぁ、
「「1週間かな?」」
またもや武さんと被って回答をする。
何かと意見が合うのだが、まぁ6年近くも友達やってればこんなものか。
武さんとハイタッチをしていると、ひなぞーが大きくため息をついた。
「普通は72時間が限界なんだがな」
はてさて、何の事でしょう?
「まぁいい。変態なお前らでも1週間しか持たないんだぞ? もし、ログアウト出来るのが1ヶ月後だとしたら……」
「そうか!」
「気がついたか」
「63食分も食いそびれる!」
「違うわバカ、その前に死ぬんだよ。てか計算もできないのか? 1か月だと90食分だろうが」
「え? 和泉さん、さすがに冗談だよね?」
「え? 朝、昼、晩が2食分で、あとブランチとおやつと夜食の合計を1週間分だったんだけど……」
あれ? 計算間違えた? 僕はてっきり1週間分の事だと思ったんだけど
「おい、このデブ1日に9食分食ってるぞ」
「デブっていったい……」
なんか2人から残念なモノを見る目で見られているのだが……。
成人男性ってそれくらい食べるよね? ね?
「やっぱり仲間だっただか。元気な声が台所まで聞こえてきただよ」
ちょうど区切りがついたところで、お婆さんが料理を運んできてくれた。
「すみません、うるさくしてしまって」
ひなぞーが頭を下げた!? 僕は何か悪い夢でも見ているのだろうか?
「ひなぞーが頭を下げるなんて……」
「天変地異の前触れか?」
「お前ら人を何だと思っているんだよ」
「いいで、いいで、気にすんなぁ。久しぶりに家が明るくなった気がするでよ」
お婆さんは笑いながら僕達の前に朝食を並べてくれる。
メニューはパンに焼いた肉、それに野菜のスープだった。
どれもお婆さんの手作りの様で、美味しいと褒めると嬉しそうに笑っていた。
何だかとても久しぶりに暖かい食卓についた気がする。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
食事が済むとお婆さんは食器などを片付けに行ってしまった。ごはんをご馳走になったので、片付け位はやると申し出たのだが、お客様は座っていろと断られてしまった。
「美味かったな~」
「ね~お店で食べるのとは、また一味も二味も違うよね」
僕と武さんはホクホク顔で食事の感想を言い合う。
「美味かったが……また問題発生だな」
ひなぞーも美味しいと言うのだが、どこか苦笑いだ。
だが、その気持ちはわかる。
「そうだね、これは問題だね」
「お、今度はいずんちゅでもわかったか」
「そりゃ~わかるよ。こんなに美味しかったらついつい食べ過ぎちゃうよねって事でしょう?」
何故でしょう? 僕の言葉を聞いた途端、ひなぞーの笑顔がどんどんと曇っていくではありませんか。
おや? またやっちゃったかな?
「もう死ぬまで食ってろよ、このファッキンデブが」
ファッキンデブって……。
「ゲームじゃ味なんてしなかっただろうが」
ひなぞーに言われてハッとなる。
ゲームではスペックの問題で、匂いや味などはほとんど再現出来なかったのだ。
ほとんどと言うのは、出来る限りリアルに作りたいというエンジニアの方々の暴走……もとい努力のおかげでポーションなどの回復薬系には僅かながらではあるが、味が付いていたのだ。しかし、それ以上はスペック的に無理と判断され、その他料理系のものは味がしない。
「しっかし、ここまで味がするなんてな。ますますゲームじゃないみたいだ」
「困ったな~答えがわからんぞ」
「どうしようね~」
僕達が頭をひねっていると、急に周辺の色が消え、音が消えた。
「その質問私がお答えしましょう」
驚く僕達の前にコロコロと鈴の音の様な声が聞こえてきた。
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