第6話 イケメン現る

 何故だ……何故相棒が居るんだ?

 いや、20年間連れ添った相棒だ。側に居てくれることは大変ありがたいのだが……この格好でも居てくれるの?

 あれ? でも僕は女の子になったんじゃ? ん?


「どうしただ? 何か問題でも起きただ?」


 どうやら先ほどの叫び声を聞いてお婆さんが来てくれた様だ。確かに相棒の事は重大な案件だが、お婆さんに相談出来る事でもない。


「だ、大丈夫でーす! ちょっと驚いただけでーす!」


 と言う事で、何事も無かった様にお婆さんに答える。

 あまり長居をしても心配をかけるだけだし……さっさと顔を洗っちゃおう。

 僕は改めて洗面台に近づき水を出そうとして固まった。僕の目の前にはハンドルの無い蛇口がポツンと置いてあるだけだったのだ。

 これでどしろと?


「これどうやって使うんですか?」


 問題ないと言っておきながら早々にお婆さんを頼ってしまった……。情けない。

 お婆さんは苦笑いをしながらも丁寧に使い方を教えてくれた。どうやらこのゲームでは魔石と呼ばれるモノが暮らしの中心にあるそうだ。

 魔石とは魔力を含んだ石……ではなく、魔法の効力がある文字いわゆる『魔文字マジック・ワード』を刻んだ石なのだと言う。

 使い方は簡単で、この魔石に触れるだけでいいそうだ。人には微力ながら魔力があり、その魔力に反応して魔石が力を発揮するとの事。簡単な原理だが、実に面白い。


 魔法を直接使う事は出来るのか? と、若干の希望を込めてお婆さんに質問したが、返ってきた答えは残念なものだった。


 魔法を魔法として使う術は、既に無くなってしまっているのだと言う。それにもし、魔法を使う術があったとしても今の人達では魔力が少なすぎて魔法が発動しないのだと。


「まぁたまに人より大きな魔力を持って生まれてくる子がいるみたいだが、そう言う子らはみんな魔砲師になるだなぁ」


「魔法師? でも魔法は使えないって……」


「魔砲ってあれだ、『魔』の『砲』と書いて魔砲だよ」


 あ~そっちの魔砲……それって僕が引いたレア武器の事?

 やった……何だかわからないうちに人生勝ち組じゃない?


「冒険者なら誰で憧れるんだが、なっかなか成れるもんでもねーでよ」


 お婆さんは笑いながら服を手渡してくれる。キャミソールの様な上着とショートパンツだ。

 確かに、この気温だとこういう服装がありがたいかもね。


「何時までも下着のまんまでうろつくもんでねーよ。婆と2人きりならともかく、男の子も居るだでよ」


 これ下着だったのかよーーーー!

 スタートから下着って酷くない? せめて『布の服』位は用意してよーー!


 僕は叫びたいのを我慢してお婆さんから服を受け取った。

 それにしても初期装備が下着て、スライムにも瞬殺されるよ?


「うんうん、よっく似合ってる。孫が残していった服が役に立ったよ~」


 え? そんな……じゃこの服はお孫さんの形見……?


「お婆さん、そんな大事な服を……」


 僕は服の裾をぎゅっと握りしめた。

 この服にはお婆さんとお孫さんの思い出が詰まっているんのだろう。そんな大事な服を僕なんかが着ていい訳が、


「いいで、着てましょや。孫はもう大人になって着れないで。捨てるのももったいなくて、残しておいて正解だったわ」


 お婆さんはHAHAHAと笑いながら洗面所を出ていった。

 何故この場面で外人風に笑ったのだろうか? そもそも笑いの要素は何処に?

 自分が勝手に勘違いしていた事などマッハで消え去り、僕はただ正解の見えない問題に飲み込まれていった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 なんとか再起動をすませた僕は、また処理落ち仕掛けていた。

 お婆さんにリビングと思われる部屋に案内されたのだが、部屋の中央に置いてあるダイニングテーブルにイケメンが2人、大人しく着いていたのだ。

 そして、あろうことかそのイケメンの前に座らされると、お婆さんは朝食の準備をすると台所に消えてしまったのだ。


 この状況で、僕にどうしろと? 殺られる前に殺れってこと?

 そういう事なら、敵戦力の確認をしなければ。


 僕から見て右側のイケメン、仮にAとしよう。

 ベリーショートの髪を某スーパーな戦闘民族の様に逆立っている髪型で、髪の色も丁寧に金色だ。顔立ちはメガネの奥に光る眼光が鋭いイケメンっと言ったところか。

 服の上からでは分かりずらいが、首や肩などにしっかりと筋肉が付いているところを見ると相当鍛えている細マッチョだ。

 あだ名を付けるとしたら『ドSメガネ』がしっくりくるだろう。確証はないけど、絶対Sだ。


 次に向かって左側、イケメンB。

 こちらは、茶色のショートヘアーと優しそうな目元が特徴的な、これまたイケメンだ。

 某有名アイドルプロダクションに所属していても不思議ではないレベルのイケメンがこちらを見ながらうっすらと笑みを浮かべている。なんだ? 喧嘩を売っているのか?

 体つきは隣のイケメンA程ではないが、しっかりと鍛えられている。

 うん、2人とも軽く殺意が湧くほどのイケメンだ。NPCってイケメンじゃないといけないんですか?


「やぁ、君はあのお婆さんのお孫さんかな?」


 などと考えているとイケメンBの方から優しく声をかけられた。

 なんだろう、自分が優しく声をかけたら答えが返ってくるとでも思っているの? これだからイケメンって種族は……てかどこかで聞いた声なんだけど……?


「あれ? 聞いちゃまずい質問だったかな?」


「あ、いえ、大丈夫です。僕はお婆さんに助けられただけで、別に血縁者って訳じゃないですよ」


 少し考え事をしていたらイケメンから追撃がきた為、僕は少し慌てながら答える。

 それにしてもやはりどこかで聞いた覚えがある声なんだけどなぁ。


「そうか、君も助けられたのか。実はオレ達も同じく助けられた者でね」


 なんと、このイケメン達もお婆さんに助けられたと? この家には遭難者が集まる仕組みなのだろうか?


「実は俺等の仲間がもう1人いるんだが、どうもはぐれてしまったようでな」


「無事だと思うけど、ちょっと心配でね」


 なるほど、そういう設定のなのか。これはあれかな? 僕がその仲間を見つけるイベントなのだろうか? その前に装備を整えたいんだけど……。


「おっと、自己紹介がまだだったね。オレの名前は涼だ。気軽に涼と呼んでくれ」


「俺は陽向だ」


 あ? 涼に陽向だって? もしかしてこのイケメン達が?

 まさかと思いながらも、僕も自己紹介をした。


「僕の名前は和泉……と言うんだけど……」


「「………………」」


 2人は驚いたようにお互いの顔を見合っている。この反応を見ると十中八九間違いなさそうだ。


「あの、間違っていたならごめんなさい。もしかして、武さんとひなぞー?」


「「!?」」


 僕が確認のため、2人のあだ名を口にすると、今度は目を見開いて固まった。


「もしかして、いずんちゅか」

「和泉さんでいいのか?」


 2人は驚きを隠せないようで少し怒鳴るような形で質問をしてきた。

 どうやら僕の親友は元ともイケメンだったのだが、さらに進化したイケメンになったようだ。


「そうだよ。宇栄原 和泉だよ」


 改めてフルネームで自己紹介をすると、今度は2人そろって声を上げた。


「「なにやってるんだ、このデブ!!」」


 ひどくないですか?

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