見習い冒険者編
第5話 目覚めた場所は?
そうだ、思い出してきたぞ。
僕は変なビルでアルバイトの契約をして、ゲームを始めたんだ。と、言う事はここがゲームの中……ってこと?
それにしては、感触が妙にリアルだ。いくら新しいハードで、フルダイブシステムだといってもここまでリアルに再現できるものなのだろうか?
「おやぁ目が覚めたようだねぇ」
その時何処からか声が聞こえる。どうやら声の感じからお婆さんの様だ。
「あんたらぁこの家の前で倒れてただよ~? 覚えてるかぁ?」
誰かと会話しているようだ、それにしても姿が見えないのに老婆の声がするのはこれ如何に。
………あらヤダ、心霊現象? 怖いんですけど……。
一旦お婆さんの幽霊はなかった事にして、状況を確認しよう。うん、そうしよう。
部屋の作りは先ほど見た通り、完全トロピカルな南国テイストで肌に張り付くような気温にぴったりの部屋だ……。
そして僕が寝てるベッドのような石の台。触るとひんやりして肌触りはとてもいい。僕が横になっても余裕が有るからかなり大きい台のようだ。
ってこれ昔の生け贄の台みたいだけど……はは、まさかね~生け贄は美しい女性って相場が決まっているし、こんなおデブちゃんが生け贄なんて……無いよね……?
そんなことを考えると明らかに気温以外が原因の汗が背中を流れていく。
そして汗が流れたジャストのタイミングでガチャリとドアが開き、問題の老婆が顔をのぞかせた。
「おや、こちらも目が……」
「ひゃぁぁぁ~ごめんなさいごめんなさい。こんな運動不足と脂肪でブヨブヨの僕は食べても美味しくないです。きっと生け贄にしたら神様も嫌がると思いますので命ばかりは御容赦を~」
混乱した僕の耳は、助けを呼ぶ少女の声がログハウスに木霊したのを聞いた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「落ち着くだよ~。この国には生け贄の風習はないで~」
混乱した僕にお婆さんは優しく声をかけてくれた。その優しい声色で何とか僕は混乱状態から立ち直れた。
頭が落ちついて来ると今度は別の問題が浮上してきた。
それは『声』だ。
先程の悲鳴から意味のわからない命乞い、間違いなく僕が喋ったはずだ。だが聞こえてきたのは明らかに女の声、しかも声変わりを迎える前の子供の声である。
どういうことだ? 自慢じゃないが、僕の声は間違いなくおっさんの声で、こんな女の子声なんかじゃないぞ?
「ほれ、目が覚めて元気があるなら服を着て一緒に朝ご飯を食べるだよ」
考え事をしている僕にお婆さんの追撃が来た。
服を着ろとな? そういえばナビちゃんのところでは真っ裸にさ……れ……て……。
恐る恐る下を向き僕は自分の体を見る。そして、目に入った光景は、
なんて事でしょう、運動不足と食べ過ぎで脂肪の倉庫となっていたお腹周りがスッキリしてるではありませんか。
更に筋肉ではなく脂肪で太くなり男性でもやや毛深い方に分類されるであろう腕や足などはツルツルで、程よく筋肉の付いたスレンダーな手足に早変わりです。
とどめは下を向いていると自然に垂れてくる髪。長く垂れ下がった髪は日本人特有の漆黒ではなく高級な銀糸と見間違えそうな銀髪が太陽の光を浴びキラキラと輝いているではありませんか。
ビフォーア〇ターも真っ青なナレーションが僕の頭に木霊した。
そこにはいつもの見知った醜いデブボディではなく、まったくの別人の体があった。
あ、一応胸のところにはちょっとした布が巻いてあるし、ダボっとしたパンツも履いている。良かった、素っ裸じゃないよ。って違うよ! そこじゃないよ!! あ、いや素っ裸じゃないのはいいことなんだけどね?
「大丈夫だか? そんな自分の体をマジマジと見て……どこか具合が悪いだか?」
すっかり変わってしまった手や足、胴回りを観察していたらお婆さんが心配して声をかけてくれた。
おっと、いつまでもお婆さんを無視して自分の考えに浸ってちゃダメだな。顔でも洗ってスッキリしよう。そうすれば多少頭の回転も上がるだろう……洗面所貸してもらえるかな?
「あ、大丈夫です。あの、お婆さん洗面所貸してもらえます?」
お婆さんはすぐに洗面所の場所を教えてくれた。なんて優しお婆さんなのだろう。
洗面所のドアを開けると正面に大きな鏡があり、そこに写っていた姿を見て愕然とした。
生れてこの方20年間見慣れてきた顔ではなく、つい最近作り上げた自慢の美少女の顔が写っていたからだ。
まさかとは思ったけど、マジでゲームの中なのか?
ペタペタと顔を触ると、鏡の中の美少女も同じ様に呆然とした表情で顔を触っている。
それにしても、リアル過ぎるだろう。
首は細いし、肩だって華奢とかいうレベルじゃ無いだろう。胸だって……そう言えば身長を140cmに設定したんだっけ? 140cmと言えば大体小学生の高学年くらいか? それじゃ胸は無くて正解か。いや、最近の発育のいい子ならもう少し……って胸はどうでもいいんだよ!! 次だ、次!
この腰。リアルでは見られなかったくびれだよ! くびれ! 全くどこまでも忠実に再現している……。
僕は上から順に確認していくと、最後の1箇所で手が止まった。
もし、ここが正確に再現されていたとしたら……。
そこは、画面の中でしか見たことがなく今後の人生においても見る機会など来ないであろう場所だ。
いや~確認は大事だよね? 決してやましい気持ちで見るわけじゃ無いよ? もし、何かあれば大変だからね? そう、これは大事な事なんだよ!!
誰に対しての言い訳なのかわからないが、ひと通り言い訳を考えてから僕はパンツに手をかけ一思いにずり下げた。
そこには、生で見ることは叶わないと思っていた夢の丘ではなく、20年間連れ添った相棒が鎮座していた。
「な……なんでだーーーーーーっ!?」
その叫び声は20年生きてた中でも最大級のモノだった。
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