第2話 契約書類はよく読もう
「アルバイト?」
「はい! アルバイトです!!」
武さんの質問に女の子は笑顔で返している。
「お兄さん達には、うちで開発しているゲームのテスターをやって欲しいの」
ゲームのテスターか……何か難しそうだなぁ。
「俺らはただの大学生で、専門的な事は何もわからないぞ?」
僕の気持ちを代弁する様にひなぞーが質問をする。
まぁ誰でもそう思うよね。
「大丈夫。テスターと言ってもただゲームをしてくれればいいの。ただ……」
「「「ただ?」」」
何だろう、その後の言葉が怖くてしょうがない。
「お兄さん達はゲームをクリアするか、1ヶ月経つまで泊まり込んで欲しいの」
「泊まり込みでゲームのテストかよ」
「だって、このゲームはうちの社運を賭けたゲームだもの。データを持って行かれたら困っちゃうわ」
女の子は苦笑いをしながら答えてくれる。でも、
「そんな重要な事なら尚の事僕達じゃ不味くない?」
僕は思った事をそのまま女の子に質問をした。
そんな社運を賭けたゲームのテストを僕達の様な素人に任せるのは危ないと思う。
「お兄さん達が怪しむのも無理はないわ。でも、お兄さん達はゲームが好きでしょう? そう言う人達の意見が欲しいのも事実なの。ね? お願い、引き受けてちょうだい!」
女の子は顔の高さで両手を合わせ拝む様に頭を下げて来た。
んー女の子にここまでお願いをされたら引き受けたくはなるけど……何とも釈然としないなぁ。
「報酬は、1ヶ月分の謝礼として1人につき20万用意するわ。もちろん1ヶ月経つ前にクリアしても同じだけ出すから! お願いします!!」
今度は深々と頭を下げ始め、1人づつ手を握ってお願いし始める。
正直、ゲームをするだけで20万ってかなり怪しいと思う。
思うんだけど、何かこの女の子のお願いを聞いてあげたくもなっている自分もいる。
「どう思う?」
「怪しい。怪しいが……何故か受けてもいい気がして来ているのも事実だ」
「ひなぞーもか。実はオレもさっきから変な感じだ。詳しい事はわからないが、何故か受けた方がいいと思ってる」
僕の質問に2人が答える。どうやらひなぞーも武さんも受けようと思い始めている様だが……何かおかしい。
武さんの性格からいけばわからないでもないが、あの頭がキレて用心深いひなぞーが明確な説明も回答もないのに納得しようとしているなんて……。
あれ? 何が問題何だろう?
ダメだ、頭にモヤがかかっているみたいだ……。
「受けてくれるんですね! ありがとうございます!! では、早速こちらへどうぞ!!」
女の子の満面の笑みに、僕達はただただ頷きビルの中へと入っていった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
案内された応接室はお世辞にも広いとは言えない部屋だった。
部屋の真ん中に長机が2つ並行に並べられ、そこにパイプ椅子が片側に3個ずつ置かれている。僕達はその片側、部屋の奥側の椅子に座っている状態だ。
あとは壁に業務用棚が2つに壁掛けの時計が1つ……。
「本当に大丈夫かな?」
思わず口から出てしまった僕は悪くないと思う。
いきなりビルの中へと連れてこられ、急造としか思えない応接室に通される。ここって本当に会社なのだろうか?
なんだかヤバイ所に来ちゃったかなぁ? 20万も払ってもらえるのかなぁ?
「お待たせしてごめんなさいね。貴方達がテスターを受けてくれる子達ね」
入り口から入って来たお姉さんは笑顔で僕達の正面に座り、1人づつ書類を手渡していく。
まるで、何の問題も無いかのようだ。
「初めまして、今回のテストの担当をしますアマツカと申します。よろしくお願いしますね。まずは1枚目の書類を見てちょうだい」
アマツカさんはそう言うと僕達に手渡した書類と同じものから1枚目を手に取ると僕達に見える様に持ち上げた。
書類はアルバイトの契約書類ともう1つ。情報を漏らさないと言う誓約書になっていた。
しかし、こんな名前のゲーム会社は記憶にないんだよなぁ。新規参入の企業なのだろうか?
「この2枚目の契約書は?」
僕が1枚目の書類を見ていると、ひなぞーがアマツカさん質問をしている。
2枚目って何が書かれているんだろう?
僕は書類を捲り、2枚目を読んだ。
そこには、このアルバイトで見聞きしたものを外部へ漏らさないと言う事と、漏らした事が判明した時厳しい罰則が加えられると言う内容だった。
「ごめんなさいね、あの娘が選んだ人達だから心配はしていないのだけれど。どうしても規則で書いてもらわないといけないの」
ひなぞーの質問にアマツカさんは苦笑いをしながら答えてくれる。
まぁ企業としては規則を守らないといけないのだろう。が、2枚目に書かれている罰則は少々厳しすぎないか?
脅し文句なのだろうか? 多少疑問に思う所があったのだが、僕達はアマツカさんに言われるままに書類を書いていった。
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書類を書き終えた僕達は、アマツカさんに軽く今回のゲーム内容の説明を受けつつ別室へ案内された。
ゲームの内容は僕達が今ハマっているゲームと同じ様な内容で、モンスターと呼ばれる生物を狩る狩猟系のゲームとのこと。内容的には既存のゲームと似たか寄ったかなのだが、そのハードの方が凄いらしい。
「ここでテストをやってもらう事になるのだけど……驚くわよ~」
アマツカさんはイタズラをした子供の様な笑顔で実験室と書かれた扉を開けた。
部屋の中は所狭しと機械やコードが乱雑に置かれている。しかし、1番目を惹くのは部屋の中央に置かれた見たことも無い機械が3台並べて置かれていることだろう。
アマツカさんは3台のうち、真ん中の機械の前に立つと勢いよく振り返った。
「これこそが、我が社が全精力を注ぎ込んで製作した世界初の家庭用フルダイブマシーン……
ジャジャーンと効果音がなりそうな勢いでアマツカさんが紹介をしてくれる。
Cocoon……繭を意味する言葉だと思ったけど、確かに見た目は大きな蚕の繭のようだ。
「家庭用フルダイブマシーンって……本当なんですか?」
ひなぞーは軽く機械を見るとアマツカさんに質問をしている。
確かに僕もそれは疑問に思った。
VRの技術が進んだといっても多くがヘッドマウントディスプレイで映像を見て体験するのが殆どで、フルダイブシステムを使ったものは昨日行ったネットカフェや映画館など大型の商業施設か研究施設などでしかお目にかかれない。
家庭用に普及するのには後10数年間掛かるだろうと言われていたのだが……。
まさかそんな夢のマシーンが目の前にあるだなんて、とても信じられない。
「皆さんが疑うのも無理はありませんね。でも、あるんです。今、皆さんの目の前にあるこのCocoonがその証拠です!
物は試しです、早速体験してみませんか?」
アマツカさんは笑顔でCocoonの入り口の思われるハッチを開けた。
正直、怖いと感じている自分がいる。
でもそれ以上にこの機械、もしくはゲームを試したいとも思っている。それは両隣にいる友人達も同じ様で2人とも同じ笑みを浮かべている。いや、僕も入れれば全員か。
僕達は迷うことなくCocoonの中へ入っていった。
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Cocoonの中はとても快適な空間だった。
中全体に不思議な素材が敷き詰められており、仰向けで寝ると体全体を優しく包み込む様に沈み込み、まるで誰かに優しく抱き抱えられている様な錯覚を起こす。
しばらく絹の様な肌触りを堪能していたのだが、アマツカさんから頭上にあるヘッドマウントディスプレイをつける様に指示が入った。
用意されていたヘッドマウントディスプレイは頭全体がすっぽりと入る様になっており、顔の前は特殊な液晶画面になっている。
「これさ、ヘッドマウントディスプレイと言うか……フルフェイスヘルメットだよね?」
「ディスプレイのデザインは開発部に言っておくわ」
どうやら僕の呟きが聞こえていた様で耳元からアマツカさんの声が聞こえてきた。
「さぁ始めるわよ。皆さん頑張って来てくださいね」
アマツカさんの声が聞こえるが、頑張って来てください? 一体どう言う意味なのだろうか?
僕はその意味を考える前に急に襲って来た睡魔に抗えず、意識を手放した。
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