三人組の珍道中~伝説!?の冒険者までの道~

キルト

プロローグ

第1話 プロローグ

 暑い。

 最初に感じたのはそのことだった。

 僕が進学した大学は、地元より西にあるため確かに暑かったのだが、ここまでではなかった。


 纏わりつく不快感を拭おうと何度も寝返りをすると場所が変わる度にひんやりとした感触が体の熱を奪っていく。まるで冷やされた石の上で寝ているような感じだ。


 あぁちべて~極楽じゃ~……ん? 石? おかしい……確か僕のベッドはパイプベッドだったはずだけど……? それに腕や足などに冷たさを感じるのは解るけど、なんで腹周りからも感じるんだ? 服を脱いだ記憶はないんだけどなぁ。


 僕は未だにボーとする頭を無理やり起動して、辺りを見渡した。その瞬間、一気に眠気が吹き飛んだ。

 まず目に入ってくるのは木を組んで作られた壁で、ログハウスを彷彿とさせる。部屋の中心には石で出来たテーブルが置いてあり、そのテーブルを囲むように木で出来た椅子が4脚置いてある。

 寝ていたベッドと思わしきモノも石で出来ておりガラスがはめ込まれていない窓の真下におかれていた。窓の外はまだ夜明け前なのか薄暗くしっかりと見えないが日本ではあまり見かけない建物が多いようだ。


 僕のヲタク趣味全開の10畳一間のアパートとはかけ離れすぎている。

 落ち着け、落ち着くんだ僕。何があったか思い出すんだ。

 僕は、昨日あったことを必死で思い出そうとした。


 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 僕の名前は宇栄原 和泉うえはら いずみ

 年齢は今年で20歳になり、年齢=彼女なしの立派なDTだ。

 成績は中の上と上の下を行ったり来たりしている。身体的な特徴は得に無いのだが、強いて挙げれば他の人よりも肉付きが良く、膨よかな所だろうか?

 地元を離れ、今は1人暮らしをしている何処にでもいる大学生だ。


 昨日は確か……大学が夏休みに入ったという事で、地元へ帰る前に仲の良い友人2人と遊びに出たはずだ。

 その友人というのが、新山 陽向にいやま ひなた武田 涼たけだ りょうだ。


 新山 陽向にいやま ひなた。あだ名は「ひなぞー」

 180cmを超える身長に細身の体躯は何処ぞのモデルのようだ。ベリーショートの髪型に、目元に光るメガネが特徴な僕の友人の1人だ。

 大学に入ってからの友人だが、たまたま同じサークルに入り、話しをしてみると地元が一緒な事もあり直ぐに仲良くなれた。

 かなりのイケメンで頭もいい。友人じゃ無かったら後ろから刺しているだろう。

 ただし、天は二物を与えずと言ったところで、とにかく口が悪いのだ。

 言葉に殺傷能力が付いていたらなば、週に100人は殺している位に口が悪い。


 武田 涼たけだ りょう。高校時代からの友人で、あだ名は「たけぞー」や「武さん」なんて呼ばれている。

 ショートヘアーをきっちりと整えて、いつも眠たそうな顔をしたる。しかし、全体的な雰囲気がそうさせるのか、ただ立っているだけでも十分絵になるイケメンだ。

 ただ、このイケメンにもひなぞー同様に残念な部分がある。

 それは……下ネタがひどいのだ。

 余りに言い過ぎる為、僕のアパート以外での下ネタ発言1回に付き100円の罰金制度を導入したのだが、3日も経たずに罰金が1万を超え、みんなの前で土下座をした過去を持つ。

 黙っていればイケメンなのに、まったく、残念な友人だ。


 僕とひなぞー、それに武さんで特にこれといった目的があるわけじゃなく、ブラブラと街の中を歩き、そしてあるネカフェに入ったんだ。

 そのネカフェでは、今僕達が大いにハマっているあるオンラインゲームの特殊筺体が導入されている店舗だった。

 そのネカフェで遊んだ時、僕のミスでゲームが終わってしまったんだ。そこで、2人に怒られたんだっけ……。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「報酬減らしてんじゃねーよ、デブ。刻んで角煮にして動物のエサにするぞ」


 相変わらずの口の悪さで、ひなぞーが罵ってくる。いつも思うが、よくそこまで人の事を悪く言えるよ。


「しょうがないよ、ひなぞー。ここは和泉さんを怒るよりも、デブの運動性能を正確にトレースした筺体を褒めてあげよう」


 武さんは武さんで勝手なこと言ってくれる。


「あのさ、デブデブって言われないでよ。僕は人より膨よかなポッチャリ系だよ?」


 僕は前々より思っていた事を口にする。

 まったく失礼な話しである。人のことを見ればデブだデブだと言いよってからに……。


「……いずんちゅよ、身長いくつだ?」


「ん? 春の健康診断で測った時は174cmだったよ?」


 ひなぞーの質問に答えると、今度は後ろから武さんが質問をしてくる。


「体重は?」


「101kg」


「「デブじゃねーか!!」」


 質問に答えてやったのに声を揃えて罵声を浴びせやがった。なんて友人だよ!


 あれから僕はデブじゃないと丁寧に説明してやったのに、2人は全くと言ってもいいほど耳を貸さなかった。

 それどこか、時間だからと説明している僕を置いてさっさと帰ろうとしやがった。なんて奴らだ。


「腹減ったから、何か食べて帰ろうぜ」


 ネットカフェを出た所で武さんがそんな事を言ってきた。

 まぁ時間も時間だし、良いんだけどね……良いんだけど、なんか言って欲しいよ。

 夏休みの初日と言うことで、いつもより若い子が多い繁華街を少しムッとしながら歩いていく。


「どこ行く、ここからなら『松竹梅』か『ヒダ牛』だな」


 そんな僕を無視する様に、ひなぞーが候補を挙げていく。ちなみに松竹梅はラーメン屋で、ヒダ牛は牛丼のチェーン店だ。

 何時までもむくれていてもしょうがない、ここは僕も意見を言おう。


「僕は松竹梅がいいかなぁ」


「「じゃヒダ牛で」」


 こいつら声を揃えて否定しやがった……。

 あぁ僕はなんでこんな奴らと友達をやっているんだろう?


「え~~じゃヒダ牛でいいよ……」


「ほら松竹梅に行くぞ」


「置いてくからな」


 ちきしょい! じゃぁ最初から素直に松竹梅に行けばいいじゃない!

 でも……なんだかんだ言ってもこうして僕の意見を優先してくれるんだ……はっ! こいつらツンデレか!? ツンデレってやつなのか!!


「何ニヤニヤしてやがる」


「別にぃ~」


 僕達はふざけ合いながら夜の街を歩いて行った。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 僕の提案通り松竹梅でラーメンを食べ帰路へとついた。

 その途中、一軒の雑居ビルの前に差し掛かった時あるものが目に入った。

 それはアイドルとしてテレビに出ていても何ら不思議ではない程可愛い女の子だった。


「ねーねー、あの娘可愛くない?」


 どこか不思議な雰囲気のある女の子を見ながらひなぞーの脇を肘で突く。

 彼も女の子に気がついた様だが、1回は目を向けるが直ぐに進行方向を向いてしまった。


「いずんちゅの好みはああいう娘か」


「そうだねぇ好みっちゃ好みだよ?」


「うん、可愛い。可愛いけど……」


 ひなぞーとは逆に武さんは女の子を凝視している。

 てか武さん凝視しすぎだからね?  変な人と思われるじゃない。


「『けど』? けど何なのさ?」


「若かすぎね?」


 武さんの言葉を聞いてよくよく見ると、確かに若い。中学生を卒業した位だろうか? だが、


「それが? 可愛ければいいじゃない」


「「…………」」


 どうした? 空気が変わった様な……?


「いずんちゅ……」


「ロリコ「違うからね!?」ン?」


 武さんの発言に被せる様に怒鳴りつける。

 何を言い出すかなぁ! 僕がそんな訳ないじゃない! まったく、失礼しちゃうよ!


「お兄さん達、ちょっといいですか?」


 武さんに鉄拳と言う名のツッコミを入れていると、横からコロコロと鈴の音の様な声が聞こえてきた。

 3人がほぼ同時に顔を向けると、先ほどの女の子がニコニコと笑いながら立っていた。


 これは……終わった……。

 きっとこの笑顔の裏では、

「気持ち悪い顔でこっち見てんじゃねーよ! お前らみたいなキモオタはブタ箱にでも入って入ればいいのよ!」

 なんて思っているに違いない。


 よし、ここは武さん辺りを人柱にして逃げるか……。


「すまなかったな、俺らの会話で気分を害したのなら謝ろう。お詫びと言っちゃ何だが、このブタを煮るなり焼くなり好きにしていいぞ」

「ごめんよ、オレらは止めたんだがこのデブが勝手に言い出して……手出しはさせないから君の好きにっちゃっていいよ」


「ふぁっ!?」


 しまった! 出遅れた!

 こいつらノータイムでほぼ同時に僕を売りやがった!!

 ここままじゃ僕がタイーホされる!?


「クスクス、お兄さん達とても面白いわ。大丈夫、取って食べたりしないから。

 お兄さん達にはお願いを聞いて欲しいの」


 え? お願いを聞いて欲しいだって? お願いを聞いたら僕はタイーホされなくてもいいの?


「せっかく見つけた私を人達だもの……逃さないわ」


「え? よく聞こえなかったけど……何かな?」


 考えに耽っていると、女の子が何かを呟いた様だがよく聞こえなかった。武さん達も聞こえなかったのか直接聞いている。


「ううん、何でもないの。それでね? お願い事なんだけど……」


 女の子はそこで一旦言葉を切ると、僕達の顔を1人ひとりしっかりと見てから言葉を続けた。


「アルバイト……しませんか?」


「「「はい?」」」


 この時、この言葉が僕の平凡だった人生を一変させるとは思いもよらなかった。

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