第2話 夏の大三角形
いつだって3人だったのにいつの間にかふたりとひとりになった。
ちなみにひとりっていうのは私のこと。長年の両片思いが実ったらしいまみちゃんとちづちゃんはお弁当のおかずに入っていた唐揚げと卵焼きをあーんし合っている。そんなふたりを見ながら嫌いなピーマンを隅っこによける。いつもだったらすかさずちづちゃんから「ピーマン食べなきゃ大きくならないよ」なんて言葉が飛んでくるのに。ふたりはお互いを見つめ合っていて、あたしの存在は心の隅っこのほうに追いやられてるみたいだった。孤独ってこういう感情のことをいうのかな、なんて考えながら、窓の外をアンニュイな感じで見つめる。
そのことについて深く考えるのはよそうと決めた。ふたりの関係がどう変化したって、あたしはふたりのことが好きだから。あたしたち3人はこれからも何も変わらない。そう自分に言い聞かせて、今日の天文観察どうしようねえなんて話題を差し込んで、鈍感でちょっとおバカな女の子みたいに振る舞う。これはあたしの得意技。
屋上から見える星空はイマイチだった。曇っていて小さな星が見えないからマイナス3点。「明日は晴れるかなあ」と言おうとして振り返るととんでもないものが視界に入ってあたしは動きを止めた。
まみちゃんとちづちゃんのキス。しかも超ノーコーなやつ。
ぺろりと舐めるちづちゃんの唇が月の光に照らされていやらしかった。
嫌な感じはしなかった。気持ち悪いとも思わなかった。でも寂しかった。何だかとっても幸せそうなふたりを見ながら、あたしたちはもう3人じゃないんだってことを思い知る。言葉にできない寂しさがあたしの小さな胸を貫いた。
もうあたしいらないじゃん。絶対それだけは思わないようにしてた言葉が頭にぱっと浮かぶ。幾千光年の孤独があたしめがけて降ってくる。
「ああっ」
まみちゃんが夜空の一箇所を見上げて指差した。夜空を切り裂くような指の先に描かれたのは3つの星でつくられた図形。デネブ、アルタイル、ベガ。誰だって知っている夏の大三角形。寝ころぶあたしのそばにふたりがやってきた。
「ねえ、夏の大三角って、あたしたちみたいじゃない?」まみちゃんは無邪気に言った。
「うん。一つ欠けると壊れちゃうところが似てる」ちづちゃんは格好つけて言った。
あたしは笑った。笑いながら子どもの頃を思い出していた。
3人で寝転んだ河川敷。手をつないで見上げた満点の星空。いつまでもこうしていようねと笑いあった夜のこと。あたしはふたりが思ってるよりずっと大人だから知ってる。このまま3人いっしょにはいられないってこと。だけどあたしはふたりが思ってるよりずっと大人だからそれを口にしないのだ。
ミニチュアみたいなこの街に降り注ぐ流星群のかけらに手を合わせてお祈りをする。わがままで甘ったれなあたしが、あたし以外の幸せを初めて願う。
ふたりがいつまでもずっといっしょに幸せでいられますように。
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