第五話 壊れた足
自分の足は、12歳の時になくしてしまった。
詳しい話をするわけではない、ただ言うならあれは事故だった、と自分に言い聞かせている。
それは今でも自分のトラウマで、絶対消えなくて、夜もまともに寝れない、ただただそれだけのことだ、そうだ、結局のところ自分も壊れた人間だった。
外側も・・・
内側も・・・
「なんで、あいつにはわかったんだ・・・」
昨日の事件現場で彼女が去り際に言った言葉。
『左足は大事にしろよ』
自分の足が義足だということは極力人には話さないようにしていた、『人口AI搭載の義足、2050年の最先端医療の結晶、神経の接続により自然な歩行を再現!激しいスポーツにも対応できる耐久力を備えた、まさに本物に近い義足!』その広告を搬送先の病院の机に置かれ、そばのセールスマンから無理やり丸め込まれた結果、手術を受けた。
自然な歩き方は徹底的に研究した、誰しもが本物の足だと思うように、なのにあいつはたったの20分の時間で見破った。
「・・・くそっ・・・」
『左足』、その一言で全てのトラウマが、忘れようとしてたものが、またじわじわと溢れてゆく。
ただ、それを振り切ろうと、街灯と車のライトで照らされた夜道をひたすら歩く。
「よかった、まだやっている・・・」
居酒屋 「十勝」
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「どうも・・・」
「はいっ!いらっしゃいっ!何名様ですかって、純ちゃんひっさしぶりっ!」
「はぁ〜、相変わらず元気そうだな、舞」
暖簾をくぐるのと同時に深夜とは思えない晴れやかな笑顔で迎えてきたのは、浜田 舞、26歳、俺の幼馴染で親が北海道出身ということから、北海道の郷土料理や地酒などを出す、「十勝」という居酒屋で従業員をしている。
彼女とは小、中、高と同じ学校で過ごし、その性格の明るさが持ち味で彼女の周りには友人が絶えなかった。
だが、家が自営業ということもあり、進路は進学ではなく、「十勝」の看板娘に就職した、「十勝」は署の近くにあり、少し細い路地にポツンと佇んでいる、基本、北海道直送で送られた野菜や魚で作る郷土料理などがメインではあるが、焼き鳥などの居酒屋にあるようなメニューも充実している。
「純ちゃんは、またボトルキープしてたの飲む?」
「あぁ、そうしようって、腐ってないのか?」
「フッフッフっ!最近の冷蔵庫は舐めちゃああかんのよぉ純ちゃん?」
これでもし俺が腹痛を起こしたら、この店に食品衛生法違反の疑いでガサ入れを行うとしよう。
そうだ、これは無駄な話かもしれないが、身長は160センチで髪はボブで短くしており、服装は前掛けエプロンの紺の和服だ。
「あらっ、いらっしゃい純君!最近さこなかったけど、警察のお仕事さ大変なんかい?」
「えぇ、そこそこですかねぇ」
カウンターに座った俺の前に現れたのは、舞の母である晴子だ、生粋の北海道県民で、東京でも方言が抜けないのが悩みらしい。
この店のママをやってる。
「今日も、またあれさ飲むんかい?」
「えぇ、もう舞に頼みました」
「そうかい、まぁ今日はこの時間にお客さんさあと一人くらいだから、ちょっとサービスさするからね」
「いつもすみません」
時間はもう2時を過ぎたというのに、まだ客がいるのか。
「はいっ!純ちゃんおまったせいぃ!」
「クンクン・・・腐ってはないようだな・・・」
「もぉ何気にしてんの純ちゃん!ほらほらっ飲んで飲んでっ!」
「それじゃあ、いただきますか」
そう言って、差し出されたグラス一杯に注がれた、十勝名産の一つである牛乳を一気に飲み干した。
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「でも変だよねぇ、せっかくの居酒屋なのにお酒飲まないなんて」
「まぁ、俺は下戸だからなぁ」
そう、俺は体質のせいで酒は一切受け付けられない、初めて酒を飲んだ時は記憶が飛び、そこから手がつけられなかったと、大学の友人から聞いた。
それ以来怖くなって酒は一切飲んでいない。
「そういえばお前は仕事大丈夫なのか?」
「んっ?そんなの全然平気だよっ!それ以上に純ちゃんが心配だよ、足悪くしてない?」
「あぁ、相変わらずうるさい」
彼女は自分の足がどういうことになっているかは知っている、手術を受けた後も毎日見舞いに来て、『しつこいっ!』と言ったりしたがそれでも性こりなく来た彼女だ、知られたくなくとも知られてしまった。
「それにしても、あれから14年かぁ・・・時間って早いね」
「あぁ、全くだ・・・」
「純ちゃんはお父さんと同じ警察官になって、しかも、最年少で捜査一課所属なんて、私と大違い・・・」
「・・・」
彼女には夢があった、それは看護師になることだ。
しかし、その夢は彼女の父、文良が亡くなったことで途絶えることになる。死因は膵臓癌だった。
「お互いお父さんが亡くなって、大事なものをなくして・・・私たちって似た者同士よね?」
「・・・もうやめな、お前の売りはその空元気だろ?」
「なっ!空元気じゃありませんヨォ〜だっ!」
店全体は昔からある、古い居酒屋のタイプだ、カウンターがあり、奥の方にはテーブル席がある。
そこのカウンター席に座って舞と話していたが、カウンターの向かいには立体テレビが設置されている、そこにはもう既に話を聞きつけた、テレビ局が寄ってたかって、昨日の事件を報道している
「うわ〜、ひき肉事件だって、ここらあまり遠くないんだね〜、もしかして純ちゃんこの事件担当してる?」
「さぁな・・・」
そう言って、牛乳を飲み干し、もう一杯と舞に頼むと同時に春子が出てきて頼んではいない焼き鳥とにしん漬けが出てくる。
すみません、と言った後まず焼き鳥に手をつけるがここの焼き鳥は自家製のタレに漬け込まれていて、他の店に比べちょっと甘いのが特徴だがこれと一緒に飲む牛乳がとてもうまい。
にしん漬けも酸味が強く、唐辛子も入っているため漬けられている鰊もなかなかいい味を出してる、これと焼き鳥を交互に食べるのが俺流の食い方だ。
「やっぱり、守秘義務なんだね」
「知ってるだろう?」
「聞いてみただけだも〜ん」
そう言って舞はカウンターの奥の厨房へと消えてゆく。
「やっぱりいいなここ・・・」
俺はいつも何かに迷った時、もしくは過去をトラウマと認識する前にはここに来るようにしている、彼女の笑顔を見るのも好きだが何よりここの雰囲気が好きだ。
少しを気を抜いて、この雰囲気にまどろんでいたら後ろの方で人の気配がする、もしかして、春子の言っていたもう一人の客か?
そこにちょうど春子が出てくる。
「あれっ、エミちゃんもうなくなっちゃったかい?」
「あぁ、もう一本頼む、ついでに鶏皮五本とイカそうめん追加で」
・・・聞き間違いじゃないよな・・・
「うん?これはこれは、一人寂しく飲んでいらっしゃるのは新人捜査一課の渡辺 純かな?」
背中からの冷や汗が止まらない、まさか、こんなところに
油をさしていないロボットのごとく、まさにギギッ、ギギッという言葉合うような感じで振り向くと、ここに一番いてほしくない人物が後ろに立っていた
「久しいな、純」
ここに来ることになった書学の根源であるエミリー=ホームズがそこにいた。
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