第四話 壊れたバディ決定

 事件発生から数時間後、今回起こった事件についての報告書を署に戻って、一人少し薄暗く、デスクに無駄に液晶が多いパソコンに打ち込んでいた時である。


「純」

「あっ、村上さん、お疲れ様です」


 今回、村上はこの現場の発見者である本田 光一の事情聴取を行っていたところだった。


「発見者どうでしたか?」

「いや、もうとにかく顔色は悪いし、相当ショックな光景を見たからなぁ、32歳でもあれはきついよ」


 話によれば、仕事帰りに、同僚と飲みに行った帰りに初めて来る場所ということもあってか道に迷い、ついでに立ち小便をしようとして、あの細い路地に入り込んだら発見したとのことだった。


「とにかく運が悪かったですね」

「あぁ、全くだ」


 そう言って、村上さんは自分の席である、俺の隣に座りこちらに椅子を向ける


「なぁ・・・、今日来た探偵課の人間どう思う?」

「・・・探偵課って、あの今日・・・あっ、昨日きたあの外人ですか?」


 すでに日付を変える夜中12時はとうに過ぎており、この事件は昨日のものとなった。


「あぁ、そうだ」

「どうって・・・はっきり言って天才と呼ばれる人の典型的なクズですね」

「プッ!そりゃあ言えてるな」


 そう、基本的に無駄に自分の能力が高い人間は自分の力に溺れていつでも他人に迷惑をかける、いつの世でもそれは同じだ。


「そいつがどうかしたんですか?」

「いや、実はなぁ・・・そのぉ・・・」


 どうも歯切れが悪い、何か言いづらいことがあるとネクタイをいじるのは彼の癖だ。


「今回の事件なんだが・・・あいつとお前で組んでほしいっ!」

「はぁあっ!」


 ちょっと待ってほしい、なんであの天才気取りの性格のひん曲がった奴と仕事しなきゃならないんだよっ!


「村上さんっ!説明してくださいっ!」

「はぁ〜、2048年の凶悪犯罪対応策の法令として、特別状況下緊急派遣探偵課の配備が義務付けられたのはわかるだろう?」

「えぇ、それとこれとでどんな関係があるんですか!?」


 特別状況下緊急派遣探偵課は、以前説明した通り凶悪犯罪対応策が2048年に発足されたまだ新しい部署だ、仕事内容は省くが、その性質上、能力のある人間から人材派遣を行うので、犯罪に対して素人が多い。


 そこで、基本、探偵課の人間と主に捜査一課の刑事がバディを組み捜査に当たるというバディ制が義務付けられている。


「それで私が彼女と組め、というんですか?」

「・・・うん」


・・・思わず机の上に、突っ伏してしまう・・・ありえない、あの女と組むなんて、ただでさえ爆発寸前だったというのに、もしかしたら俺は上からパワハラを受けているのかもしれない。


「・・・理由を教えてもらえますか?」

「あぁ、まずお前が初めてだったんだよ、あいつに言い返したのは」

「それで?」

「あいつはただでさえ暴走しがちだし、他人にものすごく迷惑をかける、しかし、あいつの協力なしじゃ解決ができない事件もある、そこであいつの抑止力になる人材ということでお前に白羽の矢が立ったというわけだ」

「・・・それって上の人の命令ですか?」

「あぁ、そう」

「はぁあぁあ〜〜〜」


 警察とはめんどくさい組織だと思う、何せ警察官になった時から上司には逆らうなと契約されるからな。


「とにかく、やれるだけやりますよ・・・」

「ふぅ〜、すまないなぁ、純」


 まぁ、これから一生の付き合いというわけでもあるまい、たった一回だけの捜査のコンビだったらまだ大丈夫な気が・・・


「あれっ?そういえば村上さんはなんで彼女の知り合いなんですか?」

「んっ?いやぁ・・・それはぁ・・・また今度話すか・・・」


 どうも言いづらい内容らしい、これ以上深入りをするのは良くないな。


「そういえば、お前いつ家に帰る気なんだ?」

「そうですねぇ、このまま家に帰ってもすぐに出勤の時間になるんだったら、今日はここで1日作業してますよ」

「・・・そうか、俺は先に帰るからな、体に毒にならない程度になっ!」


 そう言って、立ち上がると俺の背中を手で叩き、そのまま背広を背中にやり颯爽と出て行った。


 村上は今年53歳、三人の子供を持つ父親だ、家族には俺はあったことがあるが、三人とも目元が村上に似ているものだから少し笑ってしまったのは記憶に新しい。


 しかし、村上の妻はすでにこの世にいない、理由は聞いてはいない。


「さてと・・・報告書の続きをっと」


・捜査年月日


2052年 6月23日 犯行時刻不明


・捜査場所


TOKYO SINZYUKU区KABUKI町にある河川敷そばの細い路地、詳しくは地図を参照


・被疑者


不明


・捜査事項


 路地における、猟奇的殺人事件の捜査を行う、捜査初期段階にて特別状況下緊急派遣探偵課の人間の協力を要請。


・捜査状況


 遺体の損傷が激しく、殺害方法不明、鑑識の結果を待つものとする、物的証拠についても同じである。


・特別状況下緊急派遣探偵課の協力  有『◯』・無『 』

・有の場合、捜査における助言等があれば記入


 遺体の人数を五人と推定、被害者はそれぞれコンテナなどの金属製の箱に監禁もしくは軟禁されていた可能性が高いと推測、また、各被害者の職業についての推測もあるが、信憑性にかけるため、現段階で報告できないものと判断する。


・捜査結果


 被疑者の推測が立たず、現段階で報告できる内容は皆無である。


 以上 捜査一課 渡辺 純


「まぁ、こんなものか・・・」


 ふと時計を見ると、夜中の2時を指し示している、村上にはこのまま残ると言ったが、このままここに残っていてもしょうがない、さてどうしようか・・・


「まだ、店やってる・・・か?」


 ふと、浮かんだのは徒歩10分圏内にある、とある居酒屋だ、最近顔を出していないし、何しろ久しぶりにあいつの顔が見たいと思ったからだ。


「よしっ、行ってみるか!」


そう言って椅子から立ち上がった・・・


『シセイチョウセイニハイリマス、ソノジョウタイデシバラクオマチクダサイ』

「はぁ〜〜っ」


 突如左足から鳴り出した音声に、ついため息を漏らしてしまう、前かがみになった状態からゆっくりと体がまっすぐになっていく、左足の関節が徐々にまっすぐとなり。


『シセイチョウセイガカンリョウシマシタ、ホコウカノウキョリオヨソ46キロメートルデス』

「はいはい、どうも」


 どうもこの状態だと、左足の充電時期が近いな・・・


 そう思って歩き出した、純の靴下の隙間から見える左のくるぶしは無機質な合成皮膚で覆われていた。

 

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