第三話 壊れた思考

「あのよぉ・・・俺が言うのもなんだけどさぁ〜、ちょっと説明をしてもらえないか?」


 張り詰めた空気の中で、間を割って入ってきたのは村上だ、おそらく目の前で一触即発な二人を見て話を割り込んできたんだろう


「俺も言われててそうなんだってしか思って聞いてたんだけどさぁ」

「・・・わかった、結局、龍一も説明を聞きたいということだな」


 それを聞いて村上さんも首を縦にふる、本当にこういうときは頼りになる上司だと思う、おそらくこのままだったら言い争いになって捜査どころではなかったろう。


・死体は五つ


「じゃあまず最初からだ、死体はぐちゃぐちゃに潰されて頭も足もわからない、しかし」


 そう言うと彼女は死体達に指をさし、さらに説明を続ける。


「わかることは裸で殺されてはいないという点だ、そこで死体の周りにあるベルトや、ズボン、シャツ、そういったものから死体の数を導き出した」


 それはわかる、実際に潰れた死体の周りには血に染まった衣類が散乱しており、その組み合わせからよく見て考えれば、確かにわからなくもない。


「腕については?」

「肉片で見ようとすれば確かにわからない」


 だが、と彼女は続ける、確かに肉片などで見ればわからない、そこまで遺体の損傷がひどいのだ。


「肉片でわからないのならば骨を見ればいい、さすが骨は残ってるようだが、腕の骨の特徴をみれば一目瞭然だ」


これで、彼女の言っていたことの一つに納得がいった、次


・職業がバラバラすぎる


「二つ目は?」

「まずこの状況をどう見る?」

「どうって・・・」


 見るも無残としか言いようがない、村上も黙りこくって何も話せないようだ、遺体はひどい、しかしわかることはさっき彼女が提示した衣服と骨で・・・ん?衣服?


「まさか、服か?」

「ほぉ、さすがに私の言葉を遮るほどはあるようだな純?」


いかにも、と彼女は続ける


「遺体にそばに転がってる、衣服類だが何故か全て遺体の身分、すなわち職業をありありと示すものが残っているわけだよ、まぁ、『主婦』は手に残っているあかぎれの痕と、飾りっ気のない服装と、化粧をしてない皮膚から割り出したわけだが・・・何故犯人はこんな証拠が残るような危険な真似をしたんだ?別段服を脱がせば済む話だったはずなのに」

「時間がなかったのかもしれないぞ」


 口を出したのは村上だ。


「いや、それはない」


 何故なら。


「遺体をここまで滅茶苦茶にしておく時間があって、服を脱がす時間がなかったというのはありえない、そこで三つ目の疑問だ」


・この人物たちは金属製の箱の中に監禁されていた


「それはなんでわかっ」

「そばに落ちている爪の欠片からペンキの欠片と思われるものを見つけた、おそらくこれはコンテナ用に使われるペンキ、しかもこの状態から考えるにこれは、引っ掻いた跡だ、ここまで言えばもうわかるだろう?」


 これは一番簡単だったと、彼女は、カメラの画像を見せながら言う。


「何か矛盾があるかな?」


 まぁ、ここまでの根拠を並べられて何か言うことはあるまい。


「いや、見事な推理だ」

「何だ、まだ文句があるの・・・今なんて言った?」

「ん?見事な推理だって言ったんだけども・・・」


 そう言った後、しばらく彼女は俺をジッと見る、よく見れば外人というせいもあってか肌がものすごく白い。


「私の推理にすごいって・・・意外だな」

「ん?いや、別にすごいと思っただけですので」


 すごいものにすごいと言って何が悪いのか、あっ、ただ性格が曲がっているからすごいって言われたことがないのか。


「すみません!村上警部!」

「ん?どうした?」


 現場の奥から若い警察官が息を切らせながら、こちらに向かって走ってきた、制服の姿を見る限り、あれは交通課の人間のようだ。


「本件についての緊急に行った検問なんですが、三時間行った結果、不審者および、血液反応を示す車両はないとの報告でした」

「はぁ!?どういうことだ一体!こんな血の海にした犯人が一体どうやって血痕も残さずに逃走できるんだよ!」

「いえ、しかし一台も見つからなかったと報告が・・・」

「いや犯人はまだこの区域にいるはずだ!徹底的に探し出せと交通課のお偉いさんによく言っとけ!」

「はっ!はい!」


 今の一連の話を見ると、交通課の検問に不審な車は引っかからず、三時間も探したが出なかったと、しかし。


「村上さん、検問に使っているのは、最近導入された、検問ドローンの『モスキート』ですよね?」

「あぁ、対象者の前科や車のスキャンのみならず、血液も検出することが可能になった一台で高級車が買えるような値段のするガラクタだ」


 ガラクタかどうかともかく、血液まで検出できる最新型ドローンを駆使しても見つからないのは、


                ありえない


「ありえないと思うか、純?」

「何?」

「ありえないか?と、聞いてるんだ」


 急に話に入ってきた彼女はまるで俺の心を読んだかのように話しかけてきた。


「あぁ、ありえないと思いますよ」

「ならば、先ほど君が遮った言葉の続きを話そう」

「お前、まさか続きがあるのか!?」

「そう、君の教育のなってない新人のせいでね」


 いちいち癪にさわる女だ、そう思って、少し睨みつけるが御構い無しで彼女は続ける、そして、四つ。


・この死体の殺害現場はここではない


「何を根拠に・・・」

「まずこの現場、どうもおかしいと思わないか?」

「人が殺されてる時点でおかしい」


 村上、それはごもっとも。


「もっと頭を使え、まず死体の状況は?」

「血まみれ」

「それはどこに?」

「地面一面に・・・あっ!」

「どうした純?」


 未だ気付いていないのか、村上がキョトンとした顔でこちらを覗く。


「地面一面は血まみれなのに、壁に血痕がほとんどない」

「その通り」


 確かに壁に血痕はある、しかしそのほとんどが地面とほとんど変わらない位置にある、つまりこれは。


「殺害現場がこの場所ではないことを示す」

「じゃあこれは一体なんだ?」

「ん〜死体遺棄?」


 なんとまぁ、おどけた感じで言うな、おい。


「そうなると、検問に引っかからなかった理由も説明がつく、なぜなら殺害した場所が違うんじゃ、話は別だ」

「・・・チッ!おい!さっきの交通課の人間戻してこい!」

 

 村上は怒鳴り現場から離れていった、にしても事件の内容をここまで明白にするなんて、性格は曲がっているが、大した女だ。


「それで、ここからどうすんです?」


 そう今わかっているのは、ただの状況、何一つ犯人に結ぶつく手がかりはない、そう思い彼女・・・もといホームズに問いかける。


「コンテナのペンキと、遺体の修復と身元確認、まだパーツが揃っていない、続きはまた今度だな」


それに、とホームズは続ける


「左足は大事にしろよ」

「・・・は?」


 そう言うとホームズは、体の向きを変えブルーシートの出口へと向かう。


 これがもし推理小説だというならば作者はおそらくこう書くだろう。


 ただ一人現場に残された俺は、早くもこの先に起こる、後味の悪さを感じ取っていたのかもしれない。


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