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「すまない、ちょっとでてくる」









いつも通りに仕事をこなして、ようやく終わると一息をつこうとした瞬間、泉さんが険しい様子で突然立ち上がった。







珍しいその表情に、隣に座っていた多田くんと顔を見合わせる。









「どうしたんですかね、あんな顔初めて見ました」








「ほんとに珍しいね」








普段は温厚な泉さん。






なにがあったのか気になるけど、きっと仕事のことではないと悟る。





「‥あ、多田くんコーヒー飲む?」






「あ、飲みたいです」






どうしてか気になって、紛らわせるために自分と多田くんのマグカップを持って給湯室に向かう。








「大丈夫かな‥」






コーヒーを準備しながら頭の片隅でそんなこと考えていると、不意に話し声が聞こえてきた。






給湯室から顔を出してキョロキョロ見回すと、隣の会議室に泉さんの姿が見えた。







「だから仕事だって言ってるだろ、何回も言わせるなよ」







「いまだって仕事中なんだ」







頭を抱えながら机に腰掛ける泉さん。






あんな顔、初めて見た。







「今日は遅くなるから。もう切る」







ぶっきらぼうに電話を切ると、泉さんは大きくため息をはいた。






どうしようもなく、駆け寄りたい気持ちだった。






だけど、そんなことできるわけもなく、立ち上がった泉さんに見つからないように給湯室に身を隠す。







「‥長谷川さん?」







「あ、あの、コーヒーとか、その、飲みませんか?」






聞いてはいけないことを聞いたみたいで、気まずくて、気づかれませんように、と祈る。





けれどそんな私の気持ちとは裏腹に給湯室を前を通った泉さんに声をかけられて、誤魔化すようにコーヒーをセットした。







そして、泉さんは見抜いたみたいに、壁にもたれかかった。

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