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泉さんとの約束の日、全く眠りにつけなかった私は、眠い目を擦りながら会社のエレベーターに乗り込んだ。
何を話そう、とか
何が好きなんだろう、とか
お風呂に入ってるときも歯を磨いてるときも、そのことばっかり考えて、結局布団に入っても楽しみで眠れなくて。
フロアに着いたらいつも通り元気よく挨拶をして、何事もなく仕事を始めよう。
早く夜にならないかな、なんて思っていると、エレベーターは2階で止まった。
「長谷川さん、偶然だね」
開いた扉から入ってきたのは、今私の頭の中を支配している張本人だった。
「あ、泉さん!おはようございます」
「おはよう。今経理部に出す書類があって寄ったんだけど、斎藤さんが君のことをよろしくって言ってたよ」
可笑しそうに笑う泉さんに、ニヤニヤとにやける亜梨沙の顔が浮かんできた。
そんなこと言うなんて、亜梨沙らしいといえば亜梨沙らしいけど。
「すいません、食事に行くこと話しちゃって」
「いや、構わないよ。ただ誤解されるといけないから、斎藤さんだけに留めといてね」
しーっと、口元に手を当てる仕草に、私もマネをするとそれで良し、と言わんばかりに頷いた。
フロアにエレベーターがつくと、泉さんの後を少しはなれて私がついていく。
「課長、おはようございます」
「あ、菜々さん。これ確認してくださーい」
みんなに挨拶をしながら席まで行くと、隣の多田くんが困った顔で私に資料を渡してきた。
「確認するけど、その前に言うことは?多田くん」
「おはようございます!」
課長にはきちんと挨拶できたのにね、なんて面白おかしく多田くんをいじると、やりとりを見ていた泉さんも笑い出す。
「課長、助けてくださいよ」
「言っておくが、俺は長谷川さんの味方だからな」
「そんな‥」
わかりやすく肩を落とした多田くんに、私が慰めるように肩を叩く。
私の多田くんいじりはよくあることだけど、これがまた楽しくて。
泉さんがこの前言っていた通り、いい人たちと働けているんだなと思った。
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