彼と夢

2





「菜々ー、まだー?」







早くしてよーなんてつまらなそうな声が聞こえて、慌てて扉を開けた。






「やっぱり、ちょっと短くない?」








「何言ってんの、膝下丈から膝丈になっただけじゃん」






やっぱりこっちで正解じゃん、と自信たっぷりな顔して私の顔を覗き込むのは、経理部にいるわたしの友達、斎藤亜梨沙。




泉さんとのご飯が決まって、わたしはその日からあわあわと大慌て。




亜梨沙に付き合ってもらって、買い物に行って、どうしようどうしようと迷った結果、亜梨沙が選んだ膝丈のマンピースを買った。




高校卒業してこの会社に入って4年、その間彼氏もいなければ男の人と出かけるなんて兄か多田くんくらいだったから、ドキドキで。




「菜々さ、泉さんのこと、好きなの?」






「何言ってんの!」



鏡の前でくるくると回って服を確認してると、亜梨沙がとんでもないことを言うもんだから、慌てて否定する。






好きとかじゃない。


可愛いって思われたくてしてるわけじゃない。





ただちょっとでも一緒に歩いて恥ずかしくないように、ちゃんとしたいだけ。







‥だと自分では思ってるつもり。





「そうだよね、泉さん妻子持ちだしね」






「そうそう、ただご飯に行くだけだし‥」







''妻子持ち''




何気なく発せられたその言葉に、胸がトクンと高鳴った気がした。






「とにかく、絶対可愛いから自信持って!」






肩をぽんっと叩かれて、変な考えを捨てるように頭を振る。







ただ、上司とご飯に行くだけ。




そう自分に言い聞かせた。

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