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「終わったー‥」







そう泉さんの声が聞こえると、バタッと机の上に寝そべる泉さんの姿が見えた。






「お疲れ様です、こっちももう終わりそうです」







「いや本当に助かったよ‥ありがとう」






リスト状にしたデータを印刷して、泉さんに渡す。






リストを見た泉さんは感激した様子でまるで目がキラキラと光ってるみたいだった。




助けになれて、良かった。






素直にそう思って一息つくと、泉さんは少し離れた喫煙スペースでタバコに火をつけた。






「もう1ヶ月経つのに、全然こなしきれてないな」







ふーっと白い息を吐く泉さんは、どこか疲れ切った顔をしていて、この仕事の大変さを思い知らされた気がした。






「あの、言いたくなかったらいいんですけど‥なんで泉さんは営業部からこの部に配属されたんですか?」







元々泉さんがいた営業部はこの会社で、花形部署のような部署だった。





営業部を目指して入社する人も少なくなくて、例に漏れず多田くんも営業部志願だった。





驚いた顔した泉さんは、すぐに困ったように笑って、話し出してくれた。






「部下の不倫が公なったんだ」







「不倫、ですか」






泉さんの話は、こうだった。







泉さんの営業部時代の直属の部下が、取引先の女の人と不倫していたらしい。




それが噂となって出回って、相次いで取引先との交渉が破綻していった。





実際泉さんは知らなかったそうだけど、責任を取る形で泉さんは降格してこの部の課長へ、不倫をしていた社員は地方の部署へ移動することになった。







「そうだったんですね」







「いい迷惑だよな、全く」






タバコの火を消しながら笑う泉さん。




悔しかったのかな、なんて考えると胸が痛くて何も言えなかった。







「正直。まだ営業にはいたかったと思う。だけど起こってしまったことは仕方ないし、これも俺の教育不足ってことかな」






泉さんの苦労を知って、私は少し誤解していたのかもしれない。






仕事もできて、家庭もあって、信頼されている泉さんは、見えないところでたくさんの苦労をしていたんだ。







「だけど

ここにきて素敵な部下たちに恵まれたと思ったんだ。」






なにもかも完璧そうに見えて、近寄りがたかった。






だけど、そうじゃなかった。







「君のような思いやりのある部下を持てて、俺はこの部署に来てよかったと今日あらためて実感したよ」








本当にありがとう、そういって笑顔を見せてくれた泉さんを、私はこの時''なにか支えたい、助けになりたい''と、そんな風に思った。

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